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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ 2
44/264

蔓豆!!

 昼食を摂るため宿屋のある通りへ戻った私達は、適当な食堂を選んで入る。

 その食堂は昼のピーク時間を過ぎてもまだ多くの客達で賑わっていた。


 その中に見覚えのある男性が居た。

 あれは・・・教会で魔力を奪われていた、オレンジ色の魔力の人だ!

 改めてその魔力を視れば、彼の魔力の実に七割が黒紫の魔力に浸食されている。


 どうにか治す方法が分かればいいんだけど・・・。


 まぁ、今はとにかく腹ごしらえだ。

 あまり考え込んでると、コウガとフェリオの視線が痛いしね。

 私は再び沸き上がる不安を押しやって、二人と共にメニューへと視線を落とした。



「―――でも、やっぱり蔓豆は外せないよね~」

 様々なメニューを見ながら、アレもコレもと頼んだ末に、やっぱり頼んでしまう、不動の蔓豆。

「シーナ、さっき沢山買ってたよな?」

 フェリオは呆れた様に言うけれど、あれはお土産用だもん。それに、見たら食べたくなるじゃない。


 やっぱり塩茹で?でも、蔓豆入りのミルクスープとかも気になる。

 というか、このお店自体、蔓豆料理が充実し過ぎじゃないかな?

 蔓豆のペーストを混ぜたパイユとか、蔓豆と赤猪のピリ辛炒めとか、どれも美味しそうなんですけど!


 ――――――美味しかったです。


 食事を終えて一息つきながら、そう言えば、フラメル氏は蔓豆を錬金術の素材にしてたって言ってたな、と思い出し、スマホを取り出し確認を――。


「おぃ、どうした?―――――あぶなッ!?」


 ガタンッ!!と大きな音と共に、男の人の声が響く。

 音に驚いて目を向ければ、倒れた椅子と、男性の姿。教会で見たあの男性だ。


 一緒に食事をしていたもう一人の男が何度も声を掛けているが、意識を失っているのか反応は無い。


 ―――――もしかして、黒紫の魔力に呑まれてしまった!?


 まさか影憑きになってしまったんだろうかと、慌てて彼を視る。

 そんな彼の魔力は、先程視た時よりも随分と少なくなっていた。

 

 ――――――良かった、魔力はまだ呑まれて無い。でも、あれは、魔力欠乏症?・・・でも、なんだろう?この違和感・・・。

 さっき視た魔力との違いは、それだけじゃない気がする。


 そう思い更にじっと凝視すれば、魔力が揺らぎ・・・消えた。

 しかも、黒紫の魔力がフワッと。


 ―――――そうだッ!!減ったのは、影の魔力だけなんだ!


 彼の纏う魔力は、その量を減らしてはいるけれど、彼本来の、オレンジ色の魔力の割合は増えている。今ではうっすらと黒い影が混ざっている程度だ。


 ――――――でも、何故?


「誰か医者を!!」

 そこまで観察した所で、もう一人の男の悲痛な声が響く。


 ―――いけない!今は彼を助けるのが先だ!


 慌てて立ち上がり、彼の元へ向かおうとすると、コウガに腕を掴まれた。


「シーナ!アイツは教会に居たヤツだ。大丈夫なのカ?」

「大丈夫!魔力欠乏で倒れただけだと思う」

「ナラ、俺が先ニ行く。針も取るんダロ?」

「うん!お願い」


 私はスマホから下級のマナポーションを取り出し、コウガの後に続く。


「彼にコレを!」

 私がマナポーションを差し出すと、介抱していたもう一人の男が訝しげに私を見上げる。

「アンタ誰だ。医者か?」

 今の私は、ローブ姿のフードを被った怪しいヤツだって事を忘れていた。

「私は錬金術師です。彼の症状は恐らく魔力欠乏症です。このマナポーションを飲ませて下さい」

 フードを取って、フェリオを抱えて全面に押し出す。

「錬金術師?俺達はそんな金持ってねぇよ。どうせえらく高いんだろ?」


 ――――――この世界の錬金術師のイメージって、ほんと・・・どうなの?


 本当はこんな風に名前を出すのは良くない・・・でも、非常事態なので許して欲しい。


「私はカリバの、フラメル氏の弟子です!法外な料金を請求することはありません!」

 きっと今は、タダであげると言っても怪しまれるだけ。なので、ナガルジュナでも評判が良いらしい、フラメル氏の名前を少々拝借する。

 まぁ、フラメル氏とは言っても、私の師匠はトルネ・フラメルその人だけれども。

 嘘ではない。うん、決して嘘では無い。


「フラメル氏の?・・・分かった、そのマナポーションを譲ってくれ」

 フラメル氏の信用は絶大な様です。

「もちろんです。どうぞ」


 蒼白い顔でグッタリと横たわる男に、マナポーションを飲ませる。

 そっと視線をコウガに向ければ、騒動に乗じて巧く魔蜜蜂の針を除去出来た様で、大きく頷いてくれた。

 私は確認の為、俯き、様子を覗き込む様にして彼を視る。


 倒れる前に視た、彼の魔力の七割を占めていた黒紫の魔力は、今は二割程にまで減り、マナポーションによって回復した彼本来の、オレンジ色の魔力がフワリと彼を包み込んでいる。


 ―――良かった。魔力の量は問題無さそう。それに・・・やっぱり影の魔力が少なくなってる。


「――――――せぃ、じょさま?」


 その声に目を向ければ、倒れた男が此方をぼんやりと見上げていた。意識が戻ったみたいだ。

 大丈夫ですか?と、声を掛けようとして、そこで漸くハッとする。

 え?今、聖女様って言った?―――――――眼が青いからか!?


 サッと身体を引くと同時に、眼の色を薄茶に変えて立ち上がる。

 大丈夫。まだボーッとしてるし、見間違いだと思ってくれるはず。


 できればこのまま立ち去りたいけど、さっきの現象の理由を確かめないと。

 影の魔力は消える。この事実は光明だ。

 だから、彼等が何をしていてそうなったのか、それを突き止める迄は帰れない。


「――――ところで、どうしてこんな事に?」


 内心の焦りをひた隠し、私は連れの男にそう問いかける。

 彼は、倒れた男が意識を取り戻した事に安堵したのか、"ありがとうございます"と頭を下げ、首を捻る。

「それが・・・突然だったもんだから、俺にも何が何だか」


 彼等の座っていたテーブルには、大量の蔓豆の鞘と料理の数々。

 まぁ、蔓豆の量が尋常でない事を除けば、特に変わった所は無さそうだ。


 その量にちょっと驚いてしまったのが分かったのか、男は頬をポリポリ掻きながら説明してくれた。

「コイツ、蔓豆が大好物でさ、毎年この時期を楽しみにしてんだよ。でも、最近なんか元気ねぇし、付き合いも悪くなってて・・・だから今日は、やっと出回り始めた蔓豆を思う存分奢ってやるって、なぁ?」

 話を振られた等の本人は、漸く意識がしっかりしたのか、恥ずかしそうに頭を掻いた。

「なんだよ。そんな事考えてたのかよ。確かに最近は何かボーッしてて、頭ん中が上手く回って無かったんだよ。でも、蔓豆食ったらスッキリしたわ!ありがとな!あと、こいつら誰?」


 コイツら、と指を指されたのは勿論、私達だ。

「バカッ!!オマエを助けてくれた錬金術師様だ!なんか分からんが、オマエ魔力欠乏だったらしいぞ。この人がマナポーションくれなかったら、結構ヤバかったんだからな?」

 倒れていた男は、え?と声を出して固まってしまった。

「錬金術師?マナポーション?―――――――んな金ねぇよ!どうすんだよ!?」


「「「そっちかよ!?」」」


 私とフェリオ、それに連れの男の声が揃った。一応、命の危機でもあったんだけどね?


「お代は・・・銅貨二枚でどうですか?」

 まぁ、本当はタダでも良いんだけど、私も一応錬金術師として生計を立てる身。お代はしっかり頂いておこう。

「銅貨二枚?・・・そんなんで良いのか?」

 実際、下級マナポーションの適正価格は大体銅貨三枚。カリバでは最近魔結晶が手に入り難くなっていたから、銀貨一枚程に高騰していた。

「ええ。いい情報が聞けたので、その分割引しておきました」

 私がにっこり笑って言えば、二人は何故かポウッと此方を見返してきて、ん?と首を傾げれば、ボッと顔を赤くして、慌てて二人揃って銅貨を二枚づつ渡してくれる。

 いやいや、それじゃ四枚になっちゃうから、と一枚づつ掌に返せば、土下座する勢いでお礼を言われてしまった。


 それまでの一連の騒動でかなり人目を集めていたそこに、更に視線が集まってしまい・・・居たたまれなくなった私が、そそくさと店を後にしたのは仕方の無い事だと思う。



「シーナ、またお前の信者が増えたな?」

 店を出ると、フェリオがニヤニヤとそんな事を言ってくる。

「信者じゃ無いし!お客様だし!」

「ふ~ん?」

 何を言ってもフェリオのニヤニヤは消えそうに無いので、諦めてスマホを取り出す。

 私はどうしても確認したい事があるんだから!フェリオに付き合ってなんていられないの!


 スマホを開き、さっき見ようとしていた画面を改めて確認する。


 『蔓豆』

 ナガルジュナの名産品

 痩せた土地でも育ちやすく、雨の少ない地域でも栽培が可能

 栄養価が高く、乾燥した物は飼料としても重宝される

 体内循環を高め、毒素の排出を促進する

 

 ―――――――やっぱりコレだ!さっき、影の魔力が消えた理由!

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