やるべき事
「シーナさんの話を考えると、影魔蜜蜂の巣は恐らく地下にあると思われます。なので、私達はこれから地下水路を調べて来ます」
ラインさんはアルバートさんに目配せするとそう言って立ち上がった。
「二人だけで!?私達も一緒に行きます!」
もし、地下水路に影魔蜜蜂がいたらその場で戦闘になるかもしれない。
二人だけで行くなんて危険じゃないの?
「いえ、他の騎士達にも応援を依頼しますよ。それに、これ以上貴女方を巻き込む事は出来ません。元々、魔力の行方を教えて頂く所までが今回の依頼ですし」
ラインさんにキッパリと断られ、私はその尤もな意見に納得せざるを得なかった。
まぁ、コウガが一緒に行くなら兎も角、私が行った所で足手まといなのは明らかだもんね。
「そう、ですよね」
私に出来る事なんて無いですよね。
そう返事を返した私の声に落胆の色を感じ取ったのか、ラインさんが慌てた様に言葉を続ける。
「いえ、その、シーナさんには町の様子を視て頂きたいのですが、お願いしてもいいでしょうか?」
「町の様子、ですか?」
「はい。町を散策しながらで構いませんので、影の魔力に浸食されている人がどの程度いるのか、それを視て頂きたいのです」
「なるほど、分かりました!確かにそれは私にしか出来ませんね」
本当は、ラインさんが私を危険な任務から遠ざけたんじゃないかと思う。それでも、まだ私に出来ることがあるなら、手伝いたい。
「あの・・・シーナさん」
私が新たな役目に意気込んでいると、アルバートさんが遠慮がちに声を掛けてきた。
「どうしました?」
「その・・・影の魔力に浸食された町の人達を、元に戻す事は出来ませんか?何か、魔法薬などで・・・」
私はそこでハッとした。
そうだ、このまま調査を進めて原因が究明されても、町の人達が元に戻るとは限らない。
ゲームとか小説なんかだと、呪いの類いは影魔蜜蜂を倒せば自然と解けるだろうけど、今回がそうとは限らない。
「そうですね・・・調べてみます」
私の答えに少しだけ安堵の表情を見せたアルバートさんだったけれど、その顔色は優れないままだ。
そりゃそうだよね。自分の生まれた町の人々が、知り合いが、友達が・・・影魔獣と同じ存在になってしまうかもしれないんだから。
きっと、町の人達を治すのは錬金術師の領分だ。
どうしたらいいのか、今はまだ何も思い付かないけれど、「出来ない」なんて軽々しく言っちゃいけない。
――――――まぁ、絶対治す!と言えない辺りが、私の弱さ、なんだろうけど。
「では、シーナさんには町の様子の確認と、聖水の解毒方法についての調査をお願いします。コウガとフェリオは引き続き、シーナさんの護衛をお願いします。よろしいですか?」
改めてラインさんに依頼され、皆一斉に大きく頷く。
「では、よろしくお願いします」
そう言って深く腰を折ったラインさんとアルバートさんは部屋の鍵を私に預けると、そのまま再び宿を出て行った。
鍵を預かったので、そのままラインさんの部屋で、聖水の中毒を治す方法について思案する。
中毒って事は、やっぱり聖水の摂取を断って、徐々に身体から抜けるのを待つべきか。そうすると、やっぱり腕輪を外す事から始めないと、魔力欠乏になってしまうし・・・禁断症状みたいなものがあるかもしれない。
――――――本当なら一気に治せる薬を創れるといいんだけど・・・流石にそんな薬に心当たりも無いし・・・。
教会で取得した情報に何か使えそうなデータは・・・。
教会で撮った写真によって追加されたのは、本が数冊。主に教本やアメリア様に関する書籍。
――――うん?イシクって誰?・・・あッ!助祭の彼か!
ヒトヨミ機能に追加された情報に見慣れない名前を見付け、首を捻ってから、そう言えば彼も写真に撮してしまったな、と思い出す。
勝手に覗くのはルール違反。でもごめんなさい、ちょっとだけ・・・失礼します。
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名前:イシク
性別:男 種族:人族
年齢:26歳
職業:アメリア聖教 助祭
体 力:400
魔 力:280
攻撃力:30 敏捷:35
筋 力:30 耐力:56
知 力:60 運:70
技能:祈り 天啓 話術 清掃 料理
状態:睡眠不足
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うーん。
怪しい所は無い、かな?
状態が睡眠不足なのは気になるけど、至って普通、だと思う。
まぁ、ステータスに関しては自分とコウガのしか見たことが無いから、一般平均がどれくらいなのかは分からないけど。
――――――これといって有益な情報は無い、か。
スマホを手に肩を落とした私の頭に、ポスッと軽い衝撃と僅かな重みが加わる。
「そんなに気負うナ。デキル事をやればイイ」
そのままコウガに頭をポンポンされて、油断していた私の顔に、一気に血が昇る。
――――――ヤバッ!!
急激な錬水衝動を抑える事も、雨として空に逸らす事も出来ず・・・。
――――――アレ?
見上げれば、水差しを持ったフェリオ。
・・・準備良すぎない?寧ろ予想してた?
ニヤニヤと笑うフェリオからそっと目を逸らし、何も見なかった事にしてコウガに笑顔を返す。
「ありがとう、コウガ」
「・・・じゃあ、取り敢えずオレ達も町に行ってみるか?」
私の反応に不満気な顔をしながも、フェリオが軽い口調で言う。
「ラインの依頼もアルしな」
「そうね!町に行けば、何か糸口が見つかるかもしれないし」
「何より、初めての町だからな!見て回らないなんて選択肢は最初から無い!」
フェリオが眼をキラキラさせて、早く行こうと私を急かす。
フェリオ、それが一番の目的なんじゃ?
「しょうがないなぁ~。じゃあ、行こっか!」
内心自分もワクワクしているのを必死で圧し殺し、フェリオを肩に乗せて振り返れば、コウガがククッと笑っていた。
はい。明らかに楽しみなのがバレてます。
まぁ、私も蔓豆を探したいし?そりゃすっごく楽しみだけど、何か?
多分、ラインさんが町での調査を依頼したのも、私が遠慮しないようにっていう配慮もあったんだと思うし。うん、そうに違いない。
いざ、ナガルジュナの町へ!




