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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ 2
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教会調査

 ローブのフードを被り、眼の色が人見に付かないようにしながら、コウガと教会へと歩く。

 ラインさんとアルバートさんは私達の少し先を歩いて、道案内を兼ねて護衛してくれている。


 朝のナガルジュナは鉱山へ向かう人々が行き交い、そんな彼等の腹を満たす屋台や食堂からは、相変わらず美味しそうな匂いが溢れていて、夜の喧騒とはまた違った賑やかさがあった。

 そんな町の中心地。広場の正面に建てられた教会は、白い壁に青いステンドグラスが映える、美しくも立派な建物だった。


「すごい、ステンドグラスが青のグラデーションになってるのね・・・綺麗」

 私は朝陽で煌めくその光景に、思わず調査も忘れて魅入っていまう。

 けれど、そこから出てくる人達に目を止め、違和感を覚える。


 教会から出てくるのは、鉱夫らしき男性、エプロン姿の女性、杖をついた老人から、母親に手を引かれた子供まで、老若男女様々。

 彼等は魔力が少ないという事もなく、むしろ充ち満ちてすらいる。

 普通に見れば、活力が漲り、晴れ晴れとしたその表情からはなんの違和感も無いはずで・・・。


 何故そんな違和感を覚えるのか、目を凝らしてよく見れば、彼等の魔力に何やら怪しげな揺らぎが視えた。

 その揺らぎの正体を確かめる為に、フードを目深に被り直して、元の色に戻した眼で彼等を視る。

 人の纏っている魔力は基本的に一色。特に魔力が強かったり、錬金術や魔法を使えるような人はそこに明確なイメージが加わるらしい。というのが、私がこれまで魔力を視てきて感じた推測だ。

 だから、二色の魔力を持っている人は、そうそう居ないはず・・・なのだけど。


 教会から出てきた人々の魔力は赤、青、黄色、緑・・・色は様々で纏っている量もそれぞれ。けれど、何人かの魔力に"別の色"が混ざっているのがはっきりと視えて、私は息を呑む。


「黒紫の魔力・・・あれは、影魔獣と、同じ?」


 教会から出てきた人の何人か、よく見れば腕輪をしている人の魔力の光の中に、黒紫の影が落ちている。


「影魔獣がイルのか?」

 影魔獣と呟いた瞬間、コウガの尻尾の毛が僅かに逆立ち、警戒を強めたのが分かる。

「・・・違うと思う。でも・・・」

 彼等が影魔獣とは到底思えない。けれど、私は影憑きがどんなモノか知らないから、影憑きじゃ無い、とは言い切れない。

「教会から出てくる人の魔力に、影魔獣と同じ魔力が混ざって視えるの」

 私が困惑しながらコウガを見れば、コウガも困惑した顔を返してくる。

「ソレは・・・影憑き、ナノか?」

「分からない」

「調査、中止するか?」

 フェリオが警戒するように教会へ視線を向けながら問い掛けてくる。


「うぅん、中止はしない。出てくる人全員がそうって訳じゃないから、予定通り教会へ行ってみる。その間にコウガとフェリオはラインさんにこの事を伝えておいて」

 私がそう言うと、フェリオがキョトンと私を見てしばし沈黙する。


「―――――――おい、シーナ。まさか一人で行く気じゃないよな?オレと一緒に行くんだよな?」

「ダメよ。あくまでマリアさんと同じ状況を作らないと」

「なッ・・・」


 私が当然でしょ?とフェリオを見れば、絶句したフェリオが、パクパクと声にならない声でコウガに訴えている。

 コウガにも若干非難めいた視線を送られるけれど、私は元々そのつもりだったので、譲るつもりは無い。

「だって、錬金術師だってバレたら、警戒されるかもしれないでしょ?腕輪が魔道具なら、向こうにも錬金術師が居るって事だもの」


「そりゃ、そうだろうけど・・・」

 フェリオはそれでも納得行かなのか、私の服に爪を立てて離されまいとしている。

「だったら、時間差で行くのは?私が教会に入って少ししてから、他人のふりをして二人で来ればいいんじゃない?」

 それならどう?と首を傾げれば、フェリオは呻きながらも爪を仕舞ってくれた。

「ウゥゥゥゥ・・・わかった。それでいい」

「コウガもそれでいいでしょ?」

「・・・仕方ナイ」

 そうすれば、ラインさん達に視えた魔力の事を報告しても、安心して貰えるだろうし。


 ラインさんも心配性だからな~。危険と判断したら教会に突入してくるかもしれないし。


「じゃあ、そろそろ行ってみる。ラインさん達に報告、お願いね」

 うっすら爪の引っ掛かるフェリオを肩から抱き上げコウガに託すと、私は眼の色をマリアさんと同じ薄茶色に変えて教会へ向かう。

 後ろから小声で聞こえる「気を付けろよ」の声に少しだけ振り返って笑顔を返し、教会の扉を俯きながら潜った。


 ここからが本番だ。

 正直、全く怖くないと言えば嘘になる。

 けれど、そっとフードの下から見上げた教会内部は、そんな不安感を払拭するほど厳かな美しさに満ちていた。

 入って正面には、聖女アメリアと思しき白石の像が立ち、その背後に嵌め込まれた雨の落ちる水面を模したステンドグラスが、アメリアの髪を青く染めている。


「――――――あれが、聖女アメリア」

 その姿に見覚えがある気がするのは、絵本の挿し絵の所為だろうか?

 一瞬頭に浮かんだ霧のような記憶は、すぐに散って形を留めず、私は緩く頭を振る。


 ――――――違う。今は調査に集中しなきゃ。


 気を取り直してそっと全体を見回してから、整然と並んだ長椅子の後方に座り、信者達が祈りを捧げて頭を垂れているのを、自分も同じように俯きながら目だけを上げて観察する。

 勿論、誰も自分の方を見ていないのを確認してから、眼の色を元に戻している。


 祈りを捧げている人の半数の魔力は、教会から出てきた人々よりも明らかに少ない。

 しかも、程度の差こそあれ、薄く残った魔力はなんだか濁ったように黒ずんでいる気がする。

 暫く観察していれば、魔力の少なかった人が隅の方にある扉へ消え、出てきた時には魔力量は普通だけれど、黒紫の魔力が混ざった状態で出て来る姿を確認できた。しかも、その人の目はどこか虚ろで、ぼんやりとしている気がする。

 ――――――あの部屋に何か秘密が?


 もっとよく中が見えないだろうかと身を乗り出したけれど、私の斜め前に人が座った所為で視線が遮られてしまった。けれど、その人の腕に見覚えのある腕輪を見つけ、今度はその人を注意深く観察することにした。



 ――――――ッ!?あれは・・・。


 そこで視えたのは、腕輪をしている人と同じオレンジ色の魔力が腕輪から流れ出て、絨毯の敷かれた床を伝い中央の通路へと向かっていく様子だった。

 そしてその先、聖女アメリアの像の足元に浮き上がったのは、様々な色が集まり混ざりあって黒になるように、人々の魔力が混ざりあって出来た、黒紫の魔方陣だった。


 あの魔方陣が魔力を集めているのだとしたら、影魔蜜蜂(シャドウマナ・ビー)はどこにいるの?

 床に魔方陣があるなら、考えられる可能性としてはやはり教会の地下だろうか?


 自分の足元に、影魔獣が居るかもしれない。

 そう考えた途端、ゾワゾワと足元から悪寒が這い上がり、祈るように合わせた両手をギュッと握る。


 その時、不意に頭上から人影が落ちて、私の視界が暗くなる。

 慌てて眼の色を薄茶に戻して見上げれば、いかにも司祭といった感じの服を着て、白髪混じりの髪を丁寧に撫で付けた男が立っていた。

 親切そうな、柔和な微笑みで見下ろすその表情の、冷たく光る灰色の眼が恐ろしいと感じてしまうのは、先入観の所為だろうか?


「おはようございます。ここにいらっしゃるのは初めてですね?」

 そう声を掛けられ、緊張で声が震えないように気を付けながら、予め用意してあった答えを返す。

「はい。昨日この町に着きまして」

「今日は旅の安全祈願ですか?」

「いえ、先日父を亡くしまして・・・この町には働き口を探しに来たんです。この町なら、こうして祈る事もできますし」

 悲しげな表情を作りながら、然り気無くこの町に定住する意思を伝えてみる。マリアさんは例外としても、魔力を集めるなら毎日通えるナガルジュナの町人の方が、教会としても都合が良いはずだから。


「そうでしたか、お父様を。それはお辛いでしょう」

 それに応えるように小さく頷けば、司祭は後ろに控えていた助祭らしき青年に合図を送る。

 合図を受けた青年がそっと近寄って来て、司祭に小さな箱を渡して下がるのを見て、私は思わず『よっしゃ!』と心の中でガッツポーズをする。

 

 司祭が手にした小箱を開くと、中には案の定金の腕輪が納まっている。

「でしたら、この腕輪を差し上げます。この腕輪にはアメリア様の加護が宿っていますから、きっと貴女を導いて下さるでしょう」

 そう言って取り出した腕輪を、さあ、とばかりに差し出され、私は戸惑った()()をして見せる。


「そんな!そのように貴重な物を頂く訳には・・・お支払いできる金銭も持っておりませんし・・・」


 マリアさんの話では金銭を要求されることは無かったらしいけれど、まさかタダで貰えるなんて誰も思わないだろうから、そう言って一度わざと断っておく。


「金銭など、我々は要求したりしませんよ。我々は少しでも多くの方がアメリア様の加護を得られるならば、と思っているだけですから」


 穏やかな微笑みと共に差し出された腕輪を、きっと誰もが拒むことなくその腕に嵌めてしまうだろう。

 私も最初から疑っていなければ、なんて良い人なんだろうと感動していたかもしれない。

 でも、この穏やかな微笑みの裏で、影魔獣を使って町の人々の魔力を奪っているのかと思えば、目尻の下がったその目元さえ、感情の見えない薄気味悪いモノにしか感じられなかった。

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