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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ 2
37/264

疑惑

 この世界へ来て初めての旅、慣れないベッドや緊張で眠れないかと思いきや・・・私はぐっすり眠る事ができた。

 フェリオには昨日馬車であれだけ寝てたのに、と呆れられてしまったけれど、体調は万全、教会の調査もどんと来い!なのだから良い事だと思う。うん。


 昨夜の食堂で朝食を取り、ラインさんの部屋で調査の詳細を聞くことになった私は、コウガと共にラインさんの部屋を訪ねた。するとそこにはラインさんともう一人、騎士の格好をした青年が居た。


「ラインさん、お邪魔しま・・・す?」

「どうぞ―――彼はアルバート。私と同じ七番隊に所属する王国騎士です」

「・・・はじめまして。アルバート・ディオンと言います!」

 茶色の短髪とオリーブグリーンの瞳の彼は、私達の登場に一瞬戸惑いの表情を浮かべたものの、人懐っこい笑顔で元気に頭を下げる。


「彼を今回の調査に同行させたいのですが、よろしいでしょうか?」


 ラインさんは少し躊躇いがちに私へ問い掛ける。恐らく、まだ私の眼の事は話していないのだろう。

 この世界の人にとって青い眼は特別であっても、疎む要因にはなり得ないと分かってはいても、やはり知られるのを躊躇ってしまう私がいる。

 でも、あからさまに良い人そうだし、調査に協力するって了承したのは私だし、何よりラインさんが大丈夫って言うなら、大丈夫だと思えるから。それに・・・


「はい。問題ありません」

 そう答えながら眼の色を調節して、両眼ともアイスブルーになるように色を変える。

 左眼の水色よりも薄いこの色は、ギリギリ分かる程度には魔力の流れが視える。

 今回は魔力を視る必要があるから、どうしても青眼が必要になる。でも、私の色は希少過ぎてどうしても大騒ぎになってしまうだろう、とトルネがアドバイスをくれて、出発前に研究した結果だ。


 すると、私の眼色に気付いたラインさんが私の意図を汲んで頷くと、紹介を続けてくれる。

「アルバート、こちらは錬金術師のシーナさんとパートナーのフェリオ。青眼の持ち主で、今回、魔力の流れを教えてくれる」

「シーナと言います。よろしくお願いします」

「フェリオだ、よろしくな」

 私は軽く会釈をして、アルバートさんとしっかりと眼を合わせる。

「青眼ッ!?本当だ、気が付きませんでした・・・こんなに青い眼の方に会うのは初めてです。お二方共、ご協力感謝します。よろしくお願いします」

 どうやら彼は眼の色が変わった事には気付かなかった様だ。それもそうか、誰も眼の色が変わるなんて思わないよね。それにしても、これでもまだ青いのか・・・。


「そして彼がコウガ。彼は基本的にシーナさんの護衛をしてくれます」

「コウガさんですね。よろしくお願いします」

「ヨロシク頼む」

「あの・・・コウガさんは虎人(とらびと)の方ですよね?」

「・・・ソウだ」

「獣人族の中でも、虎人の方々は飛び抜けて身体能力が高いと聞きます!僕、憧れててッ!!」

「ッ!?・・・・ソウか」


 コウガにキラキラとした憧れの瞳を向けているアルバートさんは、強い者に憧れる少年の心境なのかもしれない。いや、私と同じでモフモフ好きかも。

 確かに彼ならば、私もコウガも嫌な気分になることは無さそうだ。

 コウガはキラッキラな眼差しを向けられて、ちょっと居心地が悪そうだけど、尻尾が嬉しそうだから問題無い。

 

「アルバート、浮かれ過ぎだ――――――では、これまで調査した詳細をご説明します」


 コホンと一つ咳払いをしたラインさんは、どこから調達したのか部屋に置かれた三脚の椅子に私達を促し、自身もベッドへ腰掛けると、これまでの調査の経緯を話してくれた。


「教会の調査は、私とアルバート、更に騎士数名で行いました。ですが、あちらも警戒しているのか、騎士団の者が行っても例の腕輪を授けられる事はありませんでした。ですので、腕輪をしている町民に話を聞いたのですが・・・」

 ラインさんはそこで困った様に眉を下げ、少しだけ言い澱む。

「彼等は敬虔な信者ばかりで、腕輪が魔力を奪っているかもしれないと説明して、外すように説得をしても、なかなか受け入れてはくれませんでした」

 確かにそれでは調査も進まないだろう。でも、ラインさんにお願いされて断れる人がいるなんて・・・私はすぐに頷いてしまいそう。

「とは言え、隊長の説得で何人かは腕輪を外してくれたんです」

 アルバートさんの言葉に、私はウンウンと頷く。やっぱり、そうなるよね。そしてラインさん、隊長だったんですね。それならタリバの髭の騎士さんが敬語だったのも納得です。


「それで、魔蜜蜂(マナ・ビー)の針はあったのか?」

 私がそんな事を一人納得していると、フェリオが口を開いた。

「ええ。マリアさんと同様に魔蜜蜂の針を確認しました。しかし、マリアさんの様に魔力欠乏になっている様子も無く、寧ろ教会に行った日はとても調子が良いのだと話していました」

 じゃあ、どうしてマリアさんだけがあんな風になってしまったんだろう?

「取り敢えず、腕輪を外して見せてくれた方の針は取り除きましたが、教会の目的がはっきりせず、明確な脅威が立証できない今の状態では教会に踏み込む事もできず・・・」

「足踏み状態って事か」

「そうですね」


 フェリオの一言に、ラインさんとアルバートさんが肩を落とす。

 教会は王国騎士とはいえおいそれと手出し出来ない領域なのだろう。


「それで、私は何をすれば良いんですか?」

 

 少し沈んだ雰囲気を払拭するように、私が敢えて明るい声で尋ねると、少しだけ和んだ柔らかい顔でラインさんが答えてくれる。


「シーナさんには、魔力の行方を探して頂きたいのです」

「魔力の行方?」

「はい。教会は恐らく、腕輪に集められた魔力をどこかで回収しているはずなんです。それを辿って魔蜜蜂の巣を発見できれば、魔物を飼っていた事について、こちらの権限で処罰する事が可能になりますし、そこから町民の魔力を奪っていた事も立証できるはずです」

「なるほど・・・じゃあ今日は教会へ行ってみて、その周辺から視てみるのがいいですかね」

「はい、それでお願いします」


「でも不思議ですね。魔力を奪われているのに町の人達に何の影響も無いなんて。それどころか調子がいいって言うのも、変な話ですし」

 マリアさんの場合と何が違うんだろう?

 私の疑問にアルバートさんが「憶測になりますが」と前置きをして説明してくれたのは、教会で腕輪をしている人にのみ配られているという聖水の存在だった。


「それ、絶対怪しいだろ?」

 フェリオが若干呆れ顔で言う。うん、私もそう思う。

「その聖水、マナポーションとかじゃないんですか?」

 私が一番に思ったのは、それだった。

 魔力を奪って、マナポーションで回復する理由は分からないけれど、魔力欠乏にならない理由を考えれば、それしか無い気がする。


 ――――――けれど、事はそう単純では無いらしい。


「それは僕達も考えたんです。ですが、聖水は見たところ色は無く、聖水を服用した町民に聞いた所、味はどちらかと言うと甘味があってポーションに近いそうです」

 マナポーションの色は青色。味は爽やかなミント水といった感じだ。

 水で薄めてポーションを混ぜたとも考えたられるけれど、それでは回復効果は微々たるものだろう。


「それなら、魔蜜蜂の蜜って事は無いのか?」

「へ?魔蜜蜂って魔力だけじゃなくて、普通の蜜も集めるの?」

 フェリオの問いに、私はついつい間の抜けた声を上げてしまう。

「そりゃ集めるだろ?」

 いや、知らないし!

「その可能性も考えましたが、魔蜜蜂の蜜は雑多な魔力が入り雑じっていて、私達がそのまま口にしても魔力回復の効果は無いんです」

「え、そうなのか?」

 ラインさんの説明に、今度はフェリオが間の抜けた声を出した。


 とはいえ、その聖水が怪しいのは確かだ。


「その聖水、手に入れられないかな?」

 そうすれば、スマホで分析が出来るのに。


「それが・・・誰も譲ってくれないんです」

 アルバートさんが、どこか辛そうに眉を顰める。

「実は僕、この町の生まれなんです。騎士団に入るまでずっと暮らしてて、知り合いも沢山いたんですけど・・・」

 アルバートさんはそこで一旦言葉を区切り、言い難そうに、少しだけ小さくなった声で話す。

「親友が、腕輪をしていたんです。僕がどんなに説得しても外してはくれませんでしたけど・・・。それならば聖水を譲って欲しいと頼んでみたんですけど、激しく拒絶されて、最終的には縁を切られてしまいました」

 アルバートさんは本当に悲しそうに、それでも私達に気を遣って、無理矢理笑みを作る。


「「そんな・・・」」

 私とフェリオの呟きが見事に揃い、静かに聞いていたコウガもチラリと片目を開けて驚きを露にする。


「あいつ、そんな奴じゃ無かったんです。きっとあの腕輪の所為に違いないんです。だから、この件を解決して、絶対元のあいつに戻してやるんです!」

 アルバートさんは固く拳を握りしめ、決意の籠った声音で宣言する。


「それじゃ、魔力の流れの把握と腕輪と聖水の分析。それが今やるべき事・・・でいいんだな?」

 そこまで聞いたフェリオが、場を纏めるように落ち着いた声で促すと、ラインさんとアルバートさんが頷く。

「なら、まずは腕輪を調べよう。腕輪は持ってるんだろう?」

 そう言えば、マリアさんの腕輪はラインさんが持っていたんだと思い出す。

 そうだ、物さえあれば分析ができる!


 ラインさんは少しだけ困惑気味に、それでも腕輪を取り出してくれる。

「この腕輪は我々も調べました。魔道具であることは解ったのですが、それ以上は・・・」

 差し出された腕輪を受け取りフェリオを見れば、やはり同じことを考えていたのか、クイッとスマホの方を顎で示す。

 この機能を人前で使うのは憚られるけれど、調査に必要ならば仕方ない。聖水の分析はする気満々だったしね。


 ダミーの鞄からスマホを取り出し、鞄に入れるフリをして腕輪をスマホに収納。

 アイテムデータから腕輪を選択して画面を開けば、腕輪の詳細が確認出来た。

 

 『魔蓄の腕輪・改』

 製作者:???

 素 材:青銅、銀、ゲルマニウム、???、魔石の欠片

 特 性:魔力を蓄える、魔力を放出する

 追加特性:魔蜜蜂(マナ・ビー)の集魔針により魔力を蓄え、魔方陣にて放出



「これって・・・」

 分析結果に、私は思わず息を呑む。

 どうやら私が思っていた以上に、今回の事件は不穏な影を宿しているらしい。

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