天国、いいえ、異世界でした
5歳児に呆れ顔をされて、ため息まで吐かれてしまった。
でも、名前が無いなんて不便じゃないのかな?・・・不便だよね?何より私が不便。
「それじゃなんて呼べばいいの?」
「名前はシーナが考えてくれ、オレのパートナーだからな」
その、パートナーっていうのもよく分かってないんだけど・・・取り敢えず不便なので名前を考える。
妖精・・・フェアリー・・・男の子。
「じゃあ、フェリ男で」
我ながらのネーミングセンス。
「フェリオか、悪くないな」
・・・なんだかイントネーションが変わってしまった気がするけど、気に入ってくれたなら良しとしよう。
「じゃあフェリオ、ここは・・・天国なのよね?私、死んだんでしょう?」
「―――――――――――は?そんな訳あるか・・・」
そこから凄い勢いで話し始めたフェリオの話しを纏めると、どうやらここは天国では無いらしい。
ここはエノスガイアという世界と、妖精界との境界の森。
エノスガイア?よくわからないけど、人が住んでる所、人間界って感じなんだと思う。
それで、この世界で錬金術を行う為には、妖精の力が必要不可欠なんだって。
もともと妖精の卵を孵せるのは、錬金術の素養がある極一部の人だけで、その中でもオーベロン級のフェリオを呼び出せたのは、私が初めだって興奮気味に話してた。
まぁ、大前提が分からないままの私には、そんな話は全くの無意味だったけどね。
要するに、ここは天国じゃなくて妖精界っていう異空間との境界。
しかも、どうやら私がいた世界、地球とは繋がっていない、異世界の異空間だという事。
でも、そんなのすぐに受け入れろっていう方が無理なのよ。未だに信じられないし、錬金術についても分からないし。
まだまだ説明が続きそうなフェリオの話を、ちょっと強引に区切り、私は今までの経緯を説明する事にした。
自分が滝で溺れて、気が付いたらここにいた事。自分がいた世界には錬金術なんて存在していなかった事。
フェリオは私を引摺り込んだ黒い腕の話を聞いて、少し難しい顔をしたけれど、あとは凄く興味深そうに・・・いや、面白そうに聞いてくれた。
―――――それはもう楽しそうにッ!
「まさか、オレのパートナーが異世界人とは。やはり人間界は退屈しないッ!」
どうやら私の話を信じてはくれたらしいけど、退屈凌ぎって酷くない?もう少し真面目に考えてよね!
「事情は分かった。この世界の事はオレが教えてやる。オレは妖精界からずっとこの世界を眺めていたからな」
そう言えば、フェリオを人間界に呼び出せたのは私が初めてって言ってたっけ・・・という事は、フェリオもこの世界初心者って事よね?
―――――――すっごく心配。
「よし、じゃあ境界の森を出て、人の町に行こう!」
私の心配を他所に、フェリオはどんどんと話を進めて行く。
「待って!私はまだこの世界の事何も知らないのよ?」
「百聞は一見にしかず。取り敢えず行ってみなきゃ分からないだろ?」
妙に男前な5歳児よね。まぁ、実年齢はよく分からないけど。
でも、こんな知らない場所で、妖精とはいえ話が出来る相手がいた事は、私にとって幸運だったのかも。
フェリオに会えなかったら、きっと訳も分からず不安ばかりが募っていたに違いない。
「そうだよね、よろしくねフェリオ」
確かに、ここでこうしていても仕方無い。
元の世界で私がどうなっているのか分からないけど、今の所帰る術が分からない以上、行動あるのみ!
「よし、行こう!・・・ッとその前に、この蕾も持っていってくれないか?」
微妙に意気を削がれた感が否めないけど、蕾の方が気になるので、敢えて苦情は言わない。
「持っていってもいいの?それも妖精の卵なんでしょ?」
「もちろん。この妖精の卵はそのパートナーとなるべき人間が触らなければ孵らない。でも、この境界の森に訪れる人間は限られているからな。外に持ち出した方がパートナーを見つけやすくなるだろ?」
確かに、言っている事はもっともだと思う。けれど、ずっと気になってる事がある。
「妖精って、なぜ人間の世界に来たがるの?」
私が聞くと、フェリオは至極真面目な顔でこう言い切った。
「妖精界ってな、どうしようもなく、暇なんだ・・・」
―――それだけ?
動機が思った以上に不純だったことに、ガックリと肩を落とすと、それが分かったのかフェリオが更に言い募る。
「考えてもみろ、ただ花畑が広がる何もない世界で、死ぬこともなく永遠に過ごすんだぞ?たまに霧に映る人間の世界を眺める事が唯一の娯楽なんだぞ?」
「確かに、それは辛いかも」
何もする事が無い世界で永遠を生きるなんて嫌過ぎる。
「だろ?だからオレ達妖精にとって、人間の世界は憧れなんだよ」
そう言いながら、せっせと妖精の卵とその周辺に咲いていた花(妖精花と言うらしい)を集める姿は、嬉々としているように見える。
きっと、何かをするって事が楽しいんだろう。
童話に出てくる妖精は働き者のイメージがあるけど、あれは本当だったみたい。
「じゃあ、バッグに入れて持ってこっか」
両手が一杯になりそうなフェリオにそう声を掛け、バッグを取りに泉まで戻ると、岩の上のそれらはいつの間にか綺麗に乾いていた。
そう言えば、喉渇いたな。
ついでにバッグの中にあった水筒のお茶を飲み干し、泉の湧出点で水を汲む。幸い、空のペットボトルも一本持っていたので、それにも水を汲んでおく。
ここは森の中、人が住んでる町までどのくらい歩くか分からない。取り敢えず飲水の確保はしておいた方がいいよね。
支度を終えて戻り、まずは妖精の卵である蕾を乾いたジャケットで丁寧に包みバッグにそっとしまう。
それから、フェリオが集めた妖精花を常備していたエコバッグに詰めていると、妖精花とは別のマメ科の植物の様な草が混ざっている事に気付く。
「この草はなに?」
もう一つのエコバッグにその草も詰めながら私が聞くと、フェリオは驚いた顔をした後で、諦めたように溜め息を吐く。
「はぁ、本当に何も知らないんだな。これはリコリス、一番ポピュラーな錬金術の素材だ」
―――溜め息吐かなくてもいいじゃない。
私が少し傷付いている間にも、フェリオの話は続いていた。
「それと、オレがオーベロン級の妖精だって知られると厄介な事になるかも知れないから、これからは・・・」
―――――――――ポンッ!
「この格好で行こうと思うんだが、いいか?」
そう言って現れたのは、ミントグリーンに白のハチワレ模様の金色の眼をした、羽の生えた猫だった。
なにそれ可愛い!
私が二つ返事で了承したのは言うまでもない。
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〉フェリオ
オレを呼び出したのは、なんとも不思議な娘だった。
オーベロン級のオレをパートナーにするにはそれ相応の魔力が必要にも関わらず、見た所そんな魔力を感じない。
いや、魔力が無いというのとは少し違うような?
身体に纏う魔力が、まるで蓋をされているかのように肌にピッタリと張り付いている。
話を聞けば、どうやら別の世界、異世界から来たと言う。
全く、オレのパートナーは面白い。
きっと退屈する暇も無い毎日がオレを待っている。
シーナ、お前はオレが一人前の錬金術にしてやるからな♪
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妖精階級
第1階級 オーベロン級
第2階級 ティターニア級
第3階級 四大精霊級
オンディーヌ
サラマンダー
シルフ
ノーム
第4階級 動物妖精
ケットシー
クーシー 他
第5階級
ピクシー ゴブリン 他
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