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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ 1
28/264

魔道スマホ

 誓いの輪の騒動は、私が水を降らしてしまったお陰でうやむやになり、結局バングルは返せず仕舞い。

 それでも、いつか本当にコウガが結婚したいと思える女性が現れた時、返せなくなると困るので、流石にそのバングルをそのまま魔法鞄に使う事は出来なかった。


 そんな折り、街で丁度良く行商に来ていた親子連れのアクセサリー屋さんと出会い、凄く綺麗で大粒のサファイアと、同じサファイアのついた可愛らしいピンキーリングをちょっとした助け合いの結果、格安で売って貰うことが出来たのは、運78の為せる業だろうか。

 

 そして、予定していた物よりもずっと良い石が手に入った所為で、私はちょっと欲が出てしまった。

 もっと便利な道具が作れないかな、と。


 そこで私は考えに考え抜いた。

 どんな道具が欲しいのか、それに必要な材料は何か。

 それを明確にイメージ出来るよう、紙に書いてまとめ、錬成のイメトレまでした。

 魔法鞄を練習の為に一度、創ってみたりもした。

 

 そうして、集めた材料をテーブルの上に置いたトレーに並べていく。

 まずは、バッグに入っていたパワーストーンのブレスレット。

 使われていたのは水晶、天眼石、ラピスラズリ、タイガーアイ、ターコイズ・・・自分で言うのも何だけど、色気の無いチョイスだな。

 まぁ、高校時代に友達同士でお揃いで、なんて流れで買ったブレスレットだ。地味に目立たず、誰とも被らないチョイスをしたらこうなったわけだけど。 

 

 それから、スマートフォン、サファイアとその指輪、ゴルフボール程の魔結晶、妖精花、解体包丁、地図、リトマス苔・・・。

 これで私の理想の魔法鞄が錬成出来る・・・はずだ。


 私の理想の魔法鞄。それは、入っている物が確認できて、解体袋の機能付き。おまけに、鞄に手を入れなくても手元に取り出せる、そんな道具。

 でも、私の野望はそこで終わらない。

 電源の無いスマートフォン・・・魔力で動かせないだろうか?

 そうすれば、魔法鞄の中身をメモしておける。いっそのこと、スマホのメモリを鞄の容量に置き換えて、データとして保存できない?

 それに、カメラ機能でヒトヨミの鏡が再現出来るかもしれない。

 そうじゃなくても、カメラ機能は色々便利だし、この世界の地図があれば、地図アプリだって使えるんじゃないの?

 何より、ダウンロード済みのあの本の続きだって読みたい。

 

 次々と思い付いた"あったらいいな"をもとに、手当たり次第必要な物を集めて、なんとか創りたい物のイメージを固め、漸く錬成に漕ぎ着けた時には、フェリオに呆れ顔で溜め息を吐かれてしまったのは、仕方のない事だと思う。

 

「よし、やるぞッ!フェリオ、お願い!!」

「かなり難しいとは思うが・・・やるだけやってみるか」


 少し深めのトレーに手をかざし、イメトレ通りに理想のスマホを思い描く。

 すると、水球のような魔力に包み込まれた材料がグニャリと歪んで混ざりあっていく。

 予定していたイメージの全てを、魔力と共に注ぎ終え、それでもなかなか完成した手応えが無いので、無心で注ぎ続け――――――。

 ―――あぁ、インターネットが使えたら、もっと楽なのに・・・新しい本だってダウンロードできるのに―――。うん、ごめん無心じゃなかった。


 ついついそんな事を考えながら、これでもかッ!!と魔力を注ぎ続けていたら、フェリオの焦った声が聞こえた。

「―――いッ!おいッ!シーナ!!ちょッ・・・そろそろ限界ッ」

 ハッと我に返った次の瞬間―――。


 ――――――シュゥゥゥゥゥゥ・・・ッ!!!!


 高品質マナポーションを錬成した時よりも、更に強い輝きが辺りを包み、一瞬で消える。

 余りの眩しに閉じた瞼の裏側が、チカチカして目が痛い。


 どうしよう、うっかり魔力注ぎ過ぎたかな?

 恐る恐る目を開くと、まだ視界がチカチカしていたけれど、何とか合わせた焦点の先には、スマートフォンとサファイアの指輪だけが残ったトレーと、ぐったりとテーブルに突っ伏して、恨みがましい目を向けるフェリオの姿があった。


 ――――――これは・・・成功?


「あのなぁ、いくら魔力が尽きないからって、オレだって疲れるんだぞ?結構大変なんだからな?・・・聞いてるか?」


 うんうん、と返事をしながらも、錬成の成否が気になって仕方なかった私は、フェリオの苦情を敢えて聞き流し、スマホの電源を入れる。

 すると、ずっと文句を言い続けていたフェリオもやっぱり気になったのか、画面を覗き込んできた。


「なぁ、コレは何なんだ?この薄い板で何が出来るんだよ」

 訝しげに覗き込んだ視線の先、映し出された待受画面にフェリオが驚きの声を上げる。

「なんだコレ!?本物みたいな絵だな」

 私の待受画面は、私が落ちたあの滝の画像だ。

 取り敢えず電源は入った。充電も満タンだ。まずはこのスマホが魔法鞄として使えるかどうか・・・。

 サファイアの指輪を小指に嵌めて、私は手近にあった自分のバッグに手をかざし、「入れ」と念じてみる。

 すると、シュンッとバッグが消えた後、スマホ画面上にあった鞄のアイコンに、更新を示す赤丸が付く。

 そこをタップすると・・・肩掛けカバンの表示。更にそこをタップすると、カバンに入っていた物が全て表示されていた。

 試しにハンカチを思い浮かべて、テーブルの上に手をかざし「出ろ」と念じてみる。

 かざした手の下には、ハンカチが音もなく現れて・・・。


「――――――できたぁ~!!」


 私はスマートフォンを片手に、バンザーイ!!と両手を上げる。

 他の機能はまだ分からないけれど、魔法鞄としての機能はしっかりと使えるみたい。


「マジックスマホ!」

「まぁ、良かったんじゃないか?新しい道具と、婚約者ができて」

 成功で浮かれている私に、ずっと無視され続けたフェリオが、仕返しとばかりにからかってくる。


「なっ!?あぁあれは、そういうのじゃ無いんだから!」

「そうなのか?」

「そうよ!」

「ふ~ん?」

「それよりも!このスマホの性能をもっと確かめないと!フェリオも気になるでしょう?」


 今思い出すと、動揺してまた水を被る羽目になりそうで、慌ててスマホ画面に視線を落とす。

 画面上には鞄、鏡、本、地図、虫眼鏡のアイコンがある。

 鞄は確認済みなので、地図のアイコンをタップしてみる。

 表示されたのは錬成に使用したアクアディア王国の地図だったけれど、マーカーがされた所をタップすると、カリバの町の詳細図が表示された。けれど、それ以外は町の名前をタップしても、詳細図は表示されなかった。

 自分が行った事がある場所しか詳細図にはならないみたい。それでも便利だけどね。

 虫眼鏡のアイコンは水薬の効果を調べる為の機能だとして・・・。

 次に鏡のアイコンをタップすると、スマホのカメラが起動した。


 自撮りしてみればいいかな?


 取り敢えず自分の写真を撮って保存すると、プロフィール画面みたいに、自分の写真の下にヒトヨミの鏡で見られる物と同じ情報が表示されている。

 どうやらこれも成功したみたい。

 ――――――良かった♪あッ!体力がまた上がってる――――――ん?

 

 ホーム画面に戻ると、何故か本のアイコンにも赤丸が付いている。

 それを開くと、ズラッと並んだ本の名前。薬草図鑑や鉱石図鑑、聖女アメリアの物語も・・・フラメル氏のレシピ集まである。

 これは・・・ここに置いてある本?

 この離れには、フラメル氏が使用していた本が本棚にびっしりと詰め込まれているんだけど、それらが全て一覧で表示されているのだ。

 しかも、それらをタップすれば、本の内容が一言一句違わない状態で読むことができる。


 自撮りした時に、本棚を背に写真を撮ったから?

 それとも、最後にインターネットで本をダウンロードしたいとか考えてたから?

 何にしても、これは・・・思った以上の性能になったかも・・・。

 自分で錬成しておきながら言うのも何だけど、これはもしかして、やり過ぎた?


 ・・・・・・・・・・・・。


 ―――まッ・・・まぁ、最初からダミーのバッグも用意してるし?そこに入れておけば、取り敢えずこのスマホが魔法鞄だとはバレないはず!

 他の機能も、スマホのロック機能で他の人には中が見えないし訳だし・・・大丈夫、大丈夫。

 本を勝手に写し取ってしまったのは、ちょっと申し訳ないけれど・・・元々自由に見て良いって言われていたし、問題は無い、はず。


 でも、このスマホの機能・・・どこまでみんなに伝えよう?


「シーナちゃん、お茶にしましょう?」

 私が悩んでいると、マリアさんがお茶とお菓子を乗せたトレーを持って離れへやって来た。

 その後ろには、森から帰って来たらしいトルネとラペル、それにコウガも一緒だ。


「ねぇちゃん、ただいま!」

「ただいま~!」


 どうしよう。フェリオに相談する前にみんな来ちゃった。


「おかえり。収穫はどう?」

「今日は卵いっぱいあったよ!」

「コウ兄が牙狼をあっという間に倒した!」

 内心の焦りを押し隠して問えば、トルネとラペルが楽しそうに今日の成果を話してくれる。

「じゃあ、大収穫だね」

「うん!・・・あっ!この指輪、ルパちゃんの!」


 ―――ギクゥゥッ!


 私の小指に嵌まった、青い石の指輪をみて、ラペルが眼をキラキラさせる。

 ルパちゃんとは、サファイアを売ってくれた行商人の娘さんだ。

 それに気付いたトルネも、ワクワクと煌めく眼差しを私に向ける。

「ねぇちゃん、魔法鞄できたのか?」


「―――そうなの。ちょっと凄いのできちゃった」

 上手い言い訳も誤魔化しも、咄嗟に思い付かなくて、私は正直に話す事にした。


 魔法鞄とヒトヨミの鏡の機能、それと本の写し取りが出来てしまった事。

 スマートフォンが既にこの世界では異質だけれど、ここでも発明家おじさんにご登場頂いて、貰い物でどうやって作ったかは知らない、と説明すれば、トルネが「そのおじさんはきっと凄い錬金術師に違いない!」と眼を輝かせたので、少しだけ罪悪感を覚えながらそれに便乗しておく。

 因みに、本を写し取ってしまった事は、凄い!便利だ!と驚かれたものの、予想通りサラッと許された。


「でも、確かに魔法鞄の中身が分かるのはいいよな。父さんの鞄でも同じようにできないかな?」

 一通り説明し終わると、トルネは早速自分が使っている魔法鞄への応用を考え始める。

 うん、トルネは研究熱心だ。


「ラペル、シャシンやってみたい!お姉ちゃん、ラペルのシャシンもできる?」

 ヒトヨミの鏡を説明するのにスマホのカメラ機能を説明したら、ラペルはそれが気になったらしい。

「そうね、折角だからみんなで写真撮ろっか」

 

 

 景色が綺麗だから、料理が美味しそうだから、桜が咲いたから。これまで私は、他愛無い理由で写真を撮ってた。

 だから今も、マリアさんが美人だから、ラペルの仕草が可愛いから、トルネが笑うから、コウガが優しく目を眇めるから。

 それを画像で残したいと思ったのは、極々自然の事だと思う。でも・・・


「みんな、並んで立って、こっち見てね」


 ――――――カシャッ


 軽いシャッター音と共に写し撮られた4人の姿を確認しようとしたら、何故かヒトヨミの鏡の機能起動した。

 更新されたプロフィール画面には、私の名前の下に、コウガ、トルネ、マリア、ラペルの名前が並んでいる。


 ―――――んん゛!?


 恐る恐る、自分の下に表示されていたコウガの名前をタップする。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


名前:コウガ 

性別:男  種族:獣人族 虎人

年齢:17歳

職業:シーナ・アマカワの護衛・森人


体 力:982/986

魔 力:385/385

攻撃力:112  敏捷:148

筋 力:72   耐力:80

知 力:53   運:42


技能:体術 昼寝

魔法属性:【風】【無】


状態:健康


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 え?コウガって17歳だったの!?・・・落ち着いてるから二十代かと・・・。

 しかも、()()護衛なの?トルネやラペルじゃなく?

 何よりも能力値が・・・私、体力192で喜んでたのに・・・しかも敏捷・・・え?私が鈍臭いの?コウガが素早いの?


 ――――――ッて!?何をじっくり見てるのよ、私は!!

 こんなの究極の個人情報だ。他人が勝手に見ていいモノじゃない。

 初めてヒトヨミの鏡を見せてくれた時に、トルネだって言ってたじゃないか「本人以外には見えないから安心して」って。

 こんな機能まで付けるつもりは無かった。けれど、その辺りの配慮が欠けていたのは事実だ。

 慌ててホーム画面に戻すけれど、いけない事をしてしまったという焦りで、どんどん血の気が引いてくる。



 昔、仲の良かった友達に、自分の秘密を暴かれた事がある。

 私の部屋に遊びに来ていた彼女は、私の小さな頃の写真を勝手に見つけ出し、言った。

 本当の事を教えて欲しいと。そうでなければ本当の友達になれないと。

 だから私は話した。本当の自分を。本当の友達が欲しくて。

 けれど次の日から、彼女は私を避ける様になった。避けて、影で笑う様になった。

 どんな風に言われていたかは分からない。けれど、本当の自分を知って欲しいなんて、二度と思わなくなった。


 他人に自分を暴かれるのは怖い。それを、知っているのに・・・。


 勝手に自分を覗き見られて、彼らは怒るだろうか?それとも、恐れるだろうか?眉を顰め、嫌悪の眼差しを向けるだろうか。

 本当は隠しておきたい。こんなモノは見なかった事にしたい。でも後ろめたくて、隠したまま今まで通り接する事も出来ない。

 

 どうしよう。どうしたらいい?

 嫌われてしまう。また疎まれてしまう。また一人になってしまう・・・。

 

 三十路を過ぎたら女は情緒不安定になるらしい。そう聞いたのは何歳の時だったか・・・。

 確かに、今の私は情緒不安定だし、自分で言うのもなんだけど、かなり面倒臭い。


「シーナ?ドウした?」

「あ・・・あの」

 コウガに心配気に覗き込まれても、息が詰まって言葉が出ない。

 

 グラグラ揺れる心をなんとか奮い立たせて、私はやっと顔を上げる。

 創ってしまったモノは仕方ない。

 話して嫌われたら悲しいけれど、後ろめたいまま今まで通りなんてできないんだから。

 

 大丈夫、受け入れられないのも、弾き出されるのも慣れてるもの。

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