魅了VS魅了
「心配する必要は無い。この程度の魅了に掛かるコイツが悪い」
いやいや。この場でスフォルツァさんの魅了に掛かって無いの、6人だけですからね?
しかも妖精のフェリオも入れて6人ですからね?
何がどうして彼等が無事だったのかは分からないけれど、恐らくスフォルツァさんの魅了は相当強力なモノなんじゃないかと。
だって魅了を使ったスフォルツァさんも、彼等が無事な事に驚きを隠しきれていないし。
「そんな横暴な」
何なら、頬を叩いて正気に戻るかどうかも怪しいですし。
「フォルニさん、大丈夫ですか?」
私は改めてフォルニさんに問い掛け、顔を寄せて頬の腫れ具合を確かめる。
フォルニさんはと言えば、頬を叩かれた所為か、魅了に掛けられている所為か、ポカンと口を開けたまま放心していて、お陰で口の中の様子を確認する事が出来た。
「良かった。口の中が切れたりはしてないみたいですね」
すると、フォルニさんは呼吸を取り戻したかのようにハッと息を吸い込んで、瞬きを数度繰り返すと、覗き込む様にして近付けていた私の視線からバッと身を反らして逃げてしまう。
やっぱり魅了の影響で、スフォルツァさん以外の人間に拒絶反応を示しているのだろうか。
でも心なしか叩かれた頬が先程よりも赤くなって、なんなら顔全体が赤く染まってきている。これは早く治療した方がいいだろう。
「フォルニさん、私に触られるのは嫌かもですけど、我慢して下さいね?」
取り敢えず軟膏ポーションを塗ったほうがいいよね?マメナポーションは飲むのを拒否されそうだし。
「・・・あッあの、シーナ様。自分で出来ますので、どうかこれ以上は・・・」
軟膏ポーションを手に取り、フォルニさんの頬に塗ろうとした所で、案の定フォルニさんに腕を掴まれてしまった。
やっぱり、私に触れられるのも嫌なのだろう。スフォルツァさんに魅了されていると分かっていても、人に拒絶されるのはやっぱり辛い。
「そう・・・ですよね。でしたら、ご自分で頬に塗ってくれますか?」
「グッ・・・申し訳御座いません」
拒絶された事に眉を下げ、それでも軟膏を受け取って欲しくてフォルニさんを見上げると、何故だか先程よりも顔を赤く染めたフォルニさんに、視線を背け片手で顔を覆ったまま謝罪されてしまった。
顔も見たく無いと、そういう事ですね。
魅了の力がこんなにも強力だなんて・・・。
などとショックを受けた私の耳元で、フェリオの堪えきれないと言わんばかりの笑い声が響く。
「ブフッ・・・クククッ。シーナ、その辺にしてやれ」
「フォルニも、何時までシーナ嬢の腕を掴んでいるつもりだ」
見れば、ヴァトナ族長もやれやれといった風で首を振りながらも、何処か安堵したような表情で此方を見ている。
「ッッシーナ様、申し訳御座いません」
ヴァトナ族長の言葉を受けてフォルニさんが慌てて私の手を離す。
でもよく見れば、頬を叩かれる前には虚ろだった彼の眼には、ちゃんと感情の色が戻っている様に見える。
あれ?もしかして、本当に頬を叩かれて正気に戻っていたの?
「フォルニさん、もしかして・・・」
「はい。ご迷惑をお掛けしました。私は至って正気です」
「ククッ。魅了を解かれて、別の魅了に掛かっただけだけどな」
「え?別の魅了?」
「───ゴホッ」
フォルニさんはどうやら正気に戻っていたみたい。でも、フェリオの言う別の魅了って?
フォルニさんを見ても、やはり視線を逸らして顔を赤くするだけ。
「ジョージの二の舞だな」
・・・ジョージ君の二の舞って。
え?また私ってこと!?
でもフォルニさんは薬物中毒でも無いし、まだマメナポーションも飲んで無いんだよ?
「姫の心配そうな上目遣いを至近距離で見ちゃったら、一発だろうねぇ」
えッ!?そんな事で魅了って掛かるの?
いやいやナイルさん、流石にそれは無いでしょ。やっぱりヴァトナ族長のビンタが効いたんだよ。
「至近距離じゃ無くても、あっちの兵士達の何人かには効いたみたいだぞ?」
「本当だ。近くにいた彼等にも影響あったみたいだね」
けれどナイルとフェリオの言う通り、私達に近かった兵士達の何人かは、膝を折った姿勢を崩し戸惑った様に首を振っている。
そんな彼等の視線からは、私達に向けていた敵意が消え去っている。
寧ろ、何処と無くキラキラした視線を感じるのは・・・きっと気のせい。
『・・・は?私の魅了が、こんな小娘に?・・・有り得ない。有り得ないわぁッ』
しかし、スフォルツァさんは気のせいだとは思ってくれなかったらしい。
その射殺されそうな程のその視線に、思わず一歩後ずさる。




