"そんな事"
教会の建物から世界樹までは、そう離れてはいない。
だから直ぐに辿り着けると高を括っていた私は、数百メートル走った所でその認識を改めた。
「ハァ・・・ハァ・・・世界樹、遠ッ」
世界樹を囲む深い堀に阻まれて正面の正門以外、世界樹へと近付く事ができないのが辛い。
教会の建物は世界樹の正門から見て、右斜め後ろ側。
行きは馬車に乗せられていたし、世界樹が大き過ぎて距離感がバクッていたのもあって、走れど走れど世界樹に近付けない。
「大丈夫か?」
「うん・・・大丈夫」
一応身体的には十代とはいえ、最近は馬車に乗っている時間が長かったから、はっきり言って運動不足だ。
フェリオには大丈夫と答えたし、足を止めること無くなんとか歩みを進めてはいるものの、軽やかに走り出した私の足は、今や完全に鈍っている。
眼前には延々と続いているのでは・・・と錯覚させる世界樹沿いの堀。
・・・ポーション飲もうかな。
ポーションには疲労回復の効果もあったはず。ポーションなら、またいくらでも作れば良いんだし。
そう思いながらも、微妙にズルをしているような後ろめたさを感じてしまうのは何故なのか。
いや。世界樹の異変は一刻を争う事態なんだから、これは必要な事なのよ!
若干言い訳臭い事を考えながら、スマホからポーションを取り出そうとした矢先、前方から凄い勢いで二頭の馬が駆けて来ているのに気付く。
「シーナさん!!」
「ッッラインさん!!」
馬に乗って現れたのは、ラインさんとヴァトナ族長。
「無事で良かった!教会の人間に連行されたと聞きました。何があったのですか?」
どうやらラインさんとヴァトナ族長は、私が教会の人間に連行されたと知って、国の代表として状況の確認と抗議をする為に教会に向かう最中だったらしい。
「あ、それは───」
私が教会へ連行された状況と、そこで要求された事、脱出までの経緯を手短に説明すると、二人の顔がどんどんと険しくなって行く。
「教会の司教がそのようや事を・・・」
「エルフ族の恥めッッ」
───ゾクッ。
なんか寒・・・寒い上に、空気がピリピリする。
これはアレだ、真冬の静電気!なんて・・・ちょっと現実から目を背けてみたり。
どうやら、怒れる二人の魔力がブワッとその場に満ちて、魔法を使った訳でもないのに環境に影響を及ぼしているらしい。
普段穏やかなラインさんの険しい表情も然ることながら、ヴァトナ族長の切れ長の鋭い眼が更に険しく鋭利に細められる様は、当事者でも無いのに震えが走る。
超絶美形の怒り顔、怖すぎる。
「とッ・・・取り敢えず、無事に脱出できたので、良しという事に・・・」
二人を宥めようとそう口にしたものの、
「そんな訳には行きませんッ!」
「そういう問題では無いッッ」
二人にピシャリと言い切られ、キュッと口を噤む。
まぁ、確かに国際問題に発展しかねない事案ではあるよね。でも───
「そんな事より、今は世界樹に急がないとッ」
「そんな事だなんて───」
「───確かに世界樹に関しては、一刻の猶予も無い。だが、この事件は"そんな事"では決してない。世界樹の案件が落ち着き次第、詳しい話を聞かせて貰おう」
"そんな事"という所には納得してくれなかった二人だけれど、世界樹の異変が優先されるという点にはおいては、なんとか納得して貰えたみたい。
「はッはい。きちんと説明させて頂きます」
ヴァトナ族長の鋭い視線にひんやりした空気をヒュッと吸い込んだ私は、ピンッと背筋を伸ばし反射的に返事を返していた。




