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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ 1
26/264

聖女アメリアの物語

~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


聖女アメリアの物語


 遥か昔、この世界はとても美しく、豊かな世界でした。


 しかしいつの頃からか、世界に黒く禍々しい脅威が現れる様になっていたのです。

 突如として現れる暗黒の亀裂、悪魔の門、そして影魔獣。

 水辺に現れる悪魔の門は、人々の生活に必要不可欠な"水"を奪い、そこから現れる影魔獣は人々の命を奪いました。


 そして世界は、この厄災により滅亡へと歩んでおりました。


 そんな中、一人の少女が現れました。

 白波のような美しい青銀の髪、サファイアのような深い青色の瞳、そして、とても美しい純真な心。

 少女の名は、アメリア。


 彼女は少女の姿をした妖精と、水色の眼をした魔導師と共に、その高い錬金の技術と魔法で人々を助けました。

 彼女の創る魔法薬はどんな傷も癒し、どんな重篤な病をも完治させる事ができたのです。


 そんなある時、大きな湖が一つ、悪魔の門に呑み込まれてしまいました。


「湖が無ければ、私達は生きては行けない」

 湖の畔に住む民は悲しみ、絶望しました。

 

 しかし、アメリアは言いました。

「大丈夫、私が皆様をお救いしましょう」


 そして、困惑する民の目の前で、すっかり空になってしまった湖に、清浄な水を満たしたのです。

 民は涙を流して喜びました。


 その話を聞いた神掛山山麓の四国の王はアメリアに願いました。

 「どうか、この世界を救って下さい」と。


 アメリアはその願いを聞き入れ、それぞれ四国にあると云われる四つの素材を集めるように、と王達に言いました。


 エルフの国ウールズからはトリネコの枝を。

 鬼人の国フヴェルミルからはアメリアの眼と同じ色のサファイアを。

 獣人の国ミーミルからは古代竜の血石を。

 人の国アクアディアからは青く澄んだ魔結晶を。


 そうして集まった材料と、人魚の雫を用いて、アメリアは一脚の杯を創りました。

 その杯は、一滴の水から無限に水を創り出す、奇跡の杯でした。


 王達は喜び、アメリアへの感謝の印として、神掛山に彼女を称える神殿を築きました。

 アメリアはその神殿を気に入り、杯と共に留まりました。

 そして世界は、再び水が溢れる豊かな姿を取り戻したのです。


 すると不思議な事に、あれほど現れていた悪魔の門が、徐々にその出現回数を減らして行ったのです。


 人々は思いました。

 これはきっと、アメリア様と、その聖杯から溢れ出る水の力に違いない。

 アメリア様は我々を助ける為に、神に遣わされた聖女様だ。

 聖女様を称え、敬い、祈りを捧げよう。

 

 こうして人々は神掛山へ祈りを捧げるようになりました。

 聖女アメリアの聖杯、湧水の聖杯は今でも神掛山から人々を見守っているのですから。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


「・・・う~ん。改めて読み返すと、アメリア様って一体何者?って感じよね」

 改めて、聖女アメリアの絵本を読み返してみたけれど、彼女に関する詳細はどこにも載っていない。

「オレ達も、アメリアが何処から来て、何処へ行ったのは知らないな。一緒に居たはずの妖精も妖精界では見掛けなかったし」


 フェリオ曰く、彼女は実在した上、本当に水を創り出せたらしい。

 けれど、この物語で王の願いを聞き届けたとされる頃から、その姿は見られなくなってしまったんだそう。


「それに、一緒に居たはずの魔導師についても、この話では殆んど触れられていないのね」

 私は何となく、その魔導師の事が気になっていた。

 水色の眼の魔導師、として一文だけ書かれたこの人物は一体誰なのか?

 重要人物のはずなのに、アメリアについての文献は多くあるのに、彼の事はその名前さえ何処にも記述がない。

 

「確か、水色の眼で黒髪の青年がアメリアと一緒に居た気がするな。あれは多分、恋人同士だったんじゃないかな」

「アメリア様の恋人!?」

「あぁ、オレ達妖精が見えていたのは、仲睦まじい二人の姿だけだからな」


 そっか、アメリア様には恋人がいたのね。それなら、尚更彼は何処へ行ったんだろう?ずっとアメリア様と一緒にいたのかな?

 アメリア様が恋人と幸せに暮らして生涯を終えられていたら良いな、と思う。

 そう考えると、何故だか少し胸が痛んだ。

 え?私は別に、恋人が居ないからって悲しくなんて・・・無いんだからね!

 いけない、変な方向に感情が流れてしまった。別の事を考えなければ。


「でも、この絵本に書かれている材料を集めたら、また湧水の聖杯が創れるんじゃない?今は無くなってしまってるんだよね?」

 この絵本に書かれている聖杯、湧水の聖杯は30年以上も前に失われたとトルネが教えてくれていた。

「そりゃ、この内の三つは揃えられるかも知れないけどな。トリネコの枝と人魚の雫は無理だぞ?」

「そうなの?」

「トリネコの枝っていうのは、世界樹の枝の事だ。世界樹は枯れかけていて、枝を折るなんて許されない。それに、人魚の雫がどんなモノか誰も知らないからな」

「え!?そうなの?」


 人魚の雫はアメリア様だけが持っていた、特別な素材だった、とか?

 そもそもこれはお伽噺だ。レシピ自体、架空の物って可能性もある。

 そんなんじゃ、確かに貴重な素材を提供してまで実験してみるなんて出来ないって事か。

 あまり参考にはならなかったな。

 もっと詳しくアメリア様の事が分かれば、今後の対応もしやすいと思ったけれど、なかなか上手くは行かないものだ。

 私は溜め息を吐いて、開いていた絵本を閉じた。



 私はこの時、錬水という能力の重要性をまだ理解しきれていなかった。

 滅び行くこの世界。

 それを変える事が出来る唯一の存在。


 その事実を深く考える事も無く、なんで自分にそんな力が、と少し億劫とさえ思っていたんだから。


 そして、私がアメリアとその恋人のその後を知ったのは、もっとずっと後になってからだった。

 けれどそれは、私が思い描いていたものとは、全く違っていたのだけれど。

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