魅了とは
───キュポッ。
私は早速、ジョージ君にマメナポーションを飲ませるべくガラス瓶の蓋を開ける。
「フェリオ。取り敢えずこの人にポーション飲んで貰おう。ちょっと支えてて」
「あぁ、分かった」
問題はジョージ君が素直に飲んでくれるかどうかだけれど・・。
フェリオに引き起こされたジョージ君は、案の定不審な目をしてマメナポーションを見ていた。
「これは麻痺ポーションよ。聞きたい事があるから、取り敢えず喋れるくらいには回復して貰うわ」
嘘だけど。
マメナポーションに解麻痺の効果は無い。でも、このポーションの効能を説明したところで、意識のあるジョージ君は素直に飲んではくれないだろうから。
まぁ、麻痺させた張本人が差し出した解麻痺薬も、怪しすぎて飲む気にならないかもしれないけれど。
「・・・・・・」
フェリオに起こされ、ポーションの小瓶を口元へ寄せられたジョージ君は、キッと此方を睨み付けて───
「───ゴクッ」
飲んだ!?え?飲むの?
私が言うのも何だけど、絶対怪しいでしょ?
いや、怪しい物では無いんだけど、実際この状況なら私は飲まないよ?
飲んで欲しい気持ちはあれど、飲んで貰うのは苦労するだろうと身構えていただけに、こんなにあっさり事が進むと逆に心配になってしまう。
この子、精神が消耗し過ぎて判断力がかなり鈍っているのね。
何はともあれ、マメナポーションを飲んでくれて良かった。
「───ウッ、クゥッッ───ハァハァ」
ポーションを飲んだジョージ君は、少しの間苦しそうに眉間に皺を寄せていたものの、直ぐにどこか開放されたような和やかな表情に変わり、ボ〜ッとこちらを見ている。
そして何より、彼の黒紫が混ざった魔力が純粋な緑に戻り、スマホのステータス画面を確認すれば、状態から魔力汚染と薬物中毒が消えている。
───あ、でも魅了は消えてない。
魅了は体内の異物とは別物って事だろうか?
これだと結局スフォルツァさんの支配下からは抜け出せていないって事だよね。
正気に戻れば色々聞き出せるかと思ったけれど、これじゃ無理かも・・・。
「あの、気分は如何ですか?」
それでも一応、と声を掛けると、ジョージ君はまだ麻痺の残る身体をグッと起こして、私の方へ身体ごと向き直ると、ボソリと呟く。
「───聖女様」
「へ?」
「あぁ・・・まさかお会いできるなんて。これは夢でしょうか」
「いや、えっと。私は聖女では───」
「いえ。私めには分かります。その清らかな青の瞳が何よりの証。あぁ、なんと美しい・・・」
ひえぇぇぇ~。
ホウ・・・なんて、私を見つめてうっとり溜息とか吐かないでぇぇぇ。
「こりゃあ、新たな魅了に掛かってるな」
ジョージ君の豹変ぶりにザザァァッと精神が後退している私に、フェリオか可笑しそうに言う。
新たな魅了って────私のこと!?
スフォルツァさんの魅了は解けたのに、私が魅了掛けちゃったって事?
だからステータスから魅了が消えてないの?
「いやいや。私、魅了なんてしてないからッ」
「でも、ホラ・・・」
チラリとフェリオが視線を向けた先には、祈る様に両手を合わせ、キラキラと輝く瞳でこちらを見上げるジョージ君。
あ~・・・うん。
「元々、神殿には聖女に強い信仰心を持ってる奴しか居ないだ。大方、ポーション飲んで思考がリセットされた空白部分に、聖女の言い伝えとそっくりな見た目のシーナがガッツリ入り込んじゃったって所じゃないか」
そうなの?
そういうモノなの?
魅了って本人の意思とは関係ない所で発動するものなの?
え?じゃあスフォルツァさんもワザと魅了した訳じゃないの?
「そんなことある?」
「シーナに限っては、ある」
「限るの?」
「限るッ」
何故?と聞いてみた所で、フェリオから納得出来る答えは貰えない気がする。
でも、それならやっぱりスフォルツァさんの魅了は故意ってことでいいのかな。
「じゃあ、もうそれで良いです」
「おぉ。何にせよ好都合じゃないか」
「・・・そうなんだよねぇ」
瞳キラキラのジョージ君には戸惑うけれど、今の彼なら何でも答えてくれそう。
「あの・・・ジョージ君?」
「はい!あぁぁ、聖女様に我が名を呼んで頂けるなんて、私めはなんと幸運なのでしょう」
はい、はい。もうなんでも良いです。
「ちょっと色々聞きたいんだけど、良いかな?」
「勿論です!なんでもお答えします」
返ってきた良い返事に、つい苦笑を浮かべてしまった私は、結果的には最善の結果になりそうな予感に、更に苦笑を深くするしかなかった。




