電撃は効果的
「───うぁぅぅ・・・」
スタンガンの電撃を浴びたソバカス兵士君は、その場に崩れ落ちるようにして蹲る。
意識を失う迄には至っていない様だけど、身体が麻痺しているのか、ビクビクと身体を震わせながら此方を睨みつけてくる。
そんなソバカス兵士君の様子に、私が咄嗟に開いていたドアを閉めると、フェリオがトンッと肩から飛び降りてソバカス兵士君の後ろへと回る。
「おい、何か縛っておける紐とか無いか?」
「え?あぁ、えーと・・・」
私が髪を結わえていたリボンを解くと、いつの間にか人の姿になったフェリオがソバカス兵士君の腕を後ろ手に縛り上げてくれる。
「よし、こんなもんだろ」
妖精しか居ないはずの背後から、突如腕を縛り上げられたソバカス兵士君は、混乱と恐怖で顔を引き攣らせた。
「ヒッ!なぁッなん、なッだッ・・・」
そりゃビックリするよね。ごめんね?
でも良い感じに麻痺している上に、得体の知れないモノへの恐怖で混乱している今が絶好のチャンスなの。
「ねぇ、喋れる?」
「お、オマ、オマヒェに、話す・・・ことヒァンて、何もナイッッ」
ソバカス兵士君はそんな中でも、私をギッと睨みつけて何も話すつもりは無いと必死に顔を背けている。
うーん。ちょっと喋り辛そうだけど、聞き取れなくは無いかな。
「貴方、さっきカロリーナ様って言ったよね?」
「ッッッ⁉」
「それって、カロリーナ・スフォルツァの事だよね?」
「キャロリーナしゃまを気ひゃすく呼ぶッな!」
やっぱり、この人が言う"あの方"はスフォルツァさんに違いない。
きっと、ここにはカロリーナ・スフォルツァが居る。
その事実に改めて背筋にヒヤリと悪寒が走った。
「そのカロリーナ様は、一体貴方に何て言ったの?」
「───うるしゃいッ!おまえなんきゃに、カロリィーナさみゃの言葉をおしぇてやるもんかッ!解けッ!このッッニセモノめッッこのッ───はぁはぁ・・・ホドけッ!クソッ───ゼェゼェ」
カロリーナ・スフォルツァの名に激昂したソバカス兵士君は、火が着いたかのようにジタバタと暴れ出してしまう。
「ちょッちょっと、大丈夫⁉」
「おいおい。コイツ大丈夫かよ?」
異常なまでの激昂ぶりに、見ているこっちが心配になる。
先程も思ったけれど、彼の情緒はやはりどこか奇怪しい。
「やっぱりゲルルフの時と同じかもしれない」
「だな。流石に異常だろ」
「だよね。ちょっと視てみた方が良いかも」
これでは話を聞く所では無い。仕方が無いから、取り敢えず自分の眼で視える事を調べてみることにした。
もし彼がスフォルツァさんの影響を受けているのだとしたら、魔力やステータスに何かしら異常が見られるかもしれないしね。
「おぃぃッ!なゃにブツブツ言ってぇんだ!こりぇを外せ!」
けれど、ソバカス兵士君は麻痺して回らない舌で更に怒鳴り散らしていて、部屋の外にまで響いてしまいそうで、落ち着いて視る事も出来ない。
「うーん」
余りの興奮ぶりに、どこか血管が切れやしないかと心配にもなってきた。
「──────えい」
バチッ!
私は再びスタンガンを彼に押し当てると、今度は少しだけ魔力を流してみる。
「ウグゥッ───・・・・・・」
2度目の電撃に、それまでバタバタと藻掻き叫んでいたソバカス兵士君は、小さな呻き声を上げて静かになる。
どうやら意識はあるようだけれど、ショックの所為か先程までの態度から一転、焦点の合わない目でボ~ッと一点を見つめたまま、パタリと力尽きたように動かなくなった。
よし。これで安静にしててくれるかな。
「・・・シーナって、案外容赦ないよな」
「え?」
「いや、何でもない」
「そう?」
何処となくフェリオと心の距離を感じる気がするけど、きっと気のせいだよね。




