反撃の狼煙
皆の様子が分からないから、下手に動けない。そう不安を口にすると、フェリオが何か思い出したかの様にアッ!と声を上げる。
「それなら、さっき教会の奴等がそれっぽい事言ってたぞ」
「えッ⁉どんな?もしかして皆も捕まってるの?」
ラインさんはアクアディア王国の貴族だし、皆それぞれ捕まる様な事は無さそうだけど、この世界の教会の権力がどれ程か知らない私には、本当に大丈夫かどうか自信が無かった。
「いや、捕まっては無いハズだ。確か・・・影魔獣の討伐に他国の力を借りるなんて〜とかなんとか、そんな感じの事言ってたから、多分アイツ等は影魔獣討伐の救援に行ってるんじゃないか?」
「影魔獣の・・・」
そう言えば、ヴァトナ族長が書庫を退室したのも、厄介な客か来たからって言ってた。それに森とか負傷とか聞こえたし。
もし、この付近でゲートが出現し影魔獣と戦っているとしたら、彼等のステータスを見た時に、体力と魔力が減っていたのにも説明がつく。
それなら安心、とまでは言えないけれど、拘束されているよりもましだと思ってしまうのは、彼等の強さを知っているから。
「じゃあ、大丈夫そうだね」
「あぁ。アイツ等なら問題無いだろ」
「うん」
「さて、どうする。ここでもう少し様子を見るか?」
「う~ん。取り敢えず気になる事だけちゃんと確認しておこうかな」
この部屋からでは外がどうなってるかまでは分からないから、まずは分かる所をちゃんと把握しておかなければ。
気になるのは2点。
一つは、あのソバカス兵士の様子とその言動。彼の言っていた『あの方』が誰なのか。そして、彼が見せたあの異常な様子。
これについてはもう少し観察が必要だし、あの直情的な性格ならば、彼と話す機会があれば何か喋ってくれるかもしれない。
そしてもう一つは、世界樹の異変。
ソバカス兵士の言っていた『あの方』が、私の想像している人物だった場合、世界樹の異変に影憑きが関わっている可能性が高くなる。
だから何よりもまず、さっきスマホで撮った情報を確認しておく必要がある。
「世界樹の事か?」
「うん。あんな風になるなんて、只事じゃ無いでしょ?だから、世界樹の状態を知るのが最優先かなって」
「そりゃまぁ、そうだろうけど。でもそれはここじゃ何も分からないんじゃないか?」
フェリオも世界樹の黒ずんだ姿を思い出したのか、どこか不安そう。
「それなら多分、分かると思う」
「どうやって?」
「フッフッフッ。実はさっきコレで世界樹の写真を撮ったの」
私はポケットからスマホを取り出して得意気に翳して見せる。
「あれ?それさっき取り上げられてたハズじゃ・・・ッもしかして、ちゃんと戻ってきたのか?あの機能ちゃんと使えたんだな」
「そうなの!窓からビューンッて」
「おぉ~!オレも見たかったなぁ」
「ふふふッ。それで、さっきあの司教が来る前に、世界樹を写真に撮ってみたんだけど・・・」
私は保存された世界樹の写真メニューから虫眼鏡のアイコンをタップする。
『現の世界樹─休眠』
現に存在する世界樹
その根は神の肘掛け山の地中深くまで伸び、世界中の樹木と繋がっているとされる
根元から湧き出る泉は、生命の源とたる魔力に充ちている
世界樹の枝葉は高度な錬金素材として用いられる
状態:水分不足・魔力枯渇・魔力汚染
現の世界樹・・・それが世界樹の正式な名前なのね。それにしても、予想したよりも詳しい内容が載ってる。
もしかしたらフラメル氏の書棚に詳しく書かれた書物があったのかも。
さて、問題は状態の所だよね。
「水分不足、魔力枯渇、この辺りはきっと前からだよね。とすると、魔力汚染・・・やっぱりこれが原因かな」
「十中八九そうだろうな。それに、魔力が汚染されるなんて、どんな生物だったとしても原因は一つだ」
「影の魔力?」
「そうだ。本来、この世界上の生物は皆、固有の魔力を持っていて、それが変質したり混ざったりする事は無い。それを可能にするのは、この世界の外から来る魔力だけだ」
「ゲートの影響?」
「う~ん。いや、世界樹の近くでゲートが発生していたらもっと大騒ぎになってるはずだ。恐らく、ゲートは別の場所に発生したはず。それにいくら影魔獣とは言え、世界樹に影響を与えられるとは思えない。それが可能なのは───」
「やっぱり、影憑が関係してるって事、だよね」
「だろうな。しかも、あの女の可能性が高い」
「・・・カロリーナ・スフォルツァ」
「あぁ」
「どうしてこのタイミングでここに・・・。もしかして、私達を追って?」
だとしたら、この騒動の原因は私にあるんじゃ・・・。世界樹を治すなんて言って、逆に厄災を連れて来てしまうなんて。
「それは今考えても仕方無い。それに、奴等が何かしたとして、それは奴等が原因であって、全ては奴等の所為だ。そこを忘れるな」
私の考えていた事が分かったのか、フェリオにそう諭される。
とは言え、気にするなと言われても、完全にこのモヤモヤを消し去る事は出来ないけれど、かと言ってこんな所で落ち込んでウジウジと悩んでいたって何も解決しないのだから、今は気持ちを切り替えるべきだろう。
「そうだよね。そうと決まったら、打倒影憑!ってことで、作戦会議かな?」
「だな。さて、どこから手を付ける?」
「う~ん。最優先は世界樹だけど、教会の兵士がスフォルツァさんの影響を受けている可能性が高いとなると、下手に動くと危ないかもしれない」
「だが、このまま教会の連中に動きが無ければ、世界樹が手遅れになるかもしれないぞ?」
「そうなんだよね。次、いつ彼等がここに来るかも分からないし」
私達が今すべきなのは、教会の人達がどこまでスフォルツァさんの影響を受けているか確認する事。それから、世界樹の魔力汚染をどうにかする事。
そして今の私達の問題としては、外の様子が分からない事。
でも、取り敢えず皆が無事らしいって事は分かってる・・・。
「あれ?それなら・・・この部屋で大人しく捕まってる必要は無い、よね?」
私がニヤリと笑ってフェリオを見れば、フェリオもまた同じ様にニヤリと笑う。
「あぁ。反撃、してもいいよな?」




