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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ5
250/264

〉その頃彼等は~ナイルとフォルニ~

「───特に変化は有りませんね」

「だね~。流石に昨日の今日じゃ無理かな~」


 シーナが書庫へ向かった頃、ナイルはフォルニと共に世界樹の様子を確認しに来ていた。

 昨日大量の水を与えた事で何か変化が無いかと期待しての事だったが、見たところ視認出来る様な成果はまだ無い。


「やはりあの一回では無理でしょうね。ですが流れ出た大量の水は、ヴァトナ族長の魔法で森から世界樹へ循環されますから、数日は水不足を補えると思います」

「へぇ、あの族長さんそんな事も出来るんだ、流石だね。僕は水の適正は持ってなかったからねぇ。今回は余り役に立てないかな」


 ナイルはそう言うが、取り立てて引け目や負い目を感じているようでも無い。

 勿論、何かしたいと思っているのも本心ではあるが、だからといって焦りはない。


「確か、フヴェルミルの王弟殿下は大変珍しい魔法属性をお持ちだと聞いたことがあります。我が族長も然ることながら、世の中には優れた方が存外多くいらっしゃいますね」

「ん~?そうだねぇ。まぁ、それを言ったら僕の姫が一番だけどね」

「姫、と言うとシーナ殿の事でしょうか」

「そう。姫は特別だからね」


 ナイルはそう言うと、緩い歩調で然り気無くフォルニと距離を取りながら、世界樹の回りを昨日と同じ様に歩く。


「───あまり触れて欲しく無い、という事でしょうか」


 そんなナイルの背中に、フォルニもまたそれ以上話を広げること無くそれに続く。


 そうして2人が他愛の無い話をしながら世界樹の裏側まで来た所で、ナイルの目の前にコウガが姿を現した。


「あれ虎くん?どうしたの?」

「北の森から嫌な気配がすル」

「え?・・・確かに。よく分かったね」

「あぁ。少し見てくル」

「うん。よろしく」


 短い会話の後、コウガはそのまま北の森へと向かい、ナイルはフォルニに向き直る。


「今のは・・・彼はどうしたのですか?」

「北の森に影魔獣が出たみたいだね。流石虎くん、感覚が鋭い」

「影魔獣!?今の会話で何故そこまで・・・いや、そんな事よりもその情報は確かなのですか?」

「うん。僕も言われるまで気付かなかったけど、集中してみると確かに北の方角から嫌な気配がしてるよ」


 ナイルの真剣な様子にそれが冗談では無い事を悟ったフォルニは、半信半疑ではあったもののそれでも北の森へと意識を集中させる。


「そんな──────ッッ!?確かに、感じます」

「でしょ?しかも、近付いてるね」

「そんなッ!?早く族長に報せなければ」

「それが良いね。虎くんが様子を見に行ったから暫くは大丈夫だろうし、僕達は一度戻ろう」


 言うが早いか2人は駆け出した。

 そうして族長の屋敷まで辿り着くと、フォルニはヴァトナに伝令を送り、彼が到着するまでの間に情報を集めるべく兵士に指示を出す。


「ナイル殿、貴殿はこちらで待機をお願いします」


 フォルニが客人であるナイルに安全な場所での待機を促すと、ナイルも特に異論は無いらしく軽く頷いて見せた。


「そう?まぁもし要請があれば何時でも出るよ。君は珍しい魔法属性が気になってたみたいだし、その目で見られるチャンスだよ」


 ここでその話を蒸し返すのかと苦笑したフォルニだったが、噂に聞くナイルの珍しい魔法属性には確かに興味があった。


「非常に興味深くはあるのですが、今回は───」


 しかし、状況が分からない現状で客人が危険に晒されるのも、他国に借りを作るのも避けたい。

 既にコウガが飛び出している事自体、フォルニにとっては頭の痛い問題なのだか、それはもう手遅れなので諦めることとして、対処は自国でしなければならない。

 だからこそナイルにはここで大人しくしていて貰わなければならないのだが・・・。


「───ッッ失礼します!影魔獣の種類が判明しました。影森鹿と(シャドウ)(フォレスト)百舌鳥(シュライク)とのことで、数も相当数確認されている模様です」

「森鹿と森百舌鳥!?それは・・・」


 緑魔法を得意とする森鹿は、同じく緑魔法の使い手の多いエルフ族にとっては相性の悪い魔獣であり、森百舌鳥もまた空中からの毒攻撃というな厄介な魔獣だった。

 それだけでも危機的状況だが、フォルニを更に追い詰める報告が続く。


「フォルニ様!世界樹がッッ世界樹が変色していますッッ!!」

「なッ!?」


 その報告に、その場にいた全ての者が窓に寄り世界樹を見上げる。


「なんだ、アレは・・・」


 そうしてその全員が信じられない光景に絶句する。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 先程見回った時は何事もなかった。

 だが、今は世界樹の一部が禍々しく黒ずんでいる。

 


「一体何が・・・」


 フォルニは混乱した。まずはどちらに対処するべきか。

 影魔獣の襲来は急を要するが、世界樹も放置は出来ない。

 しかしミョーサダールのエルフは基本森に点々と居を構える者ばかり。応援を呼んだところで直ぐには招集出来ないだろう。


「これは、やっぱり僕も出た方が良さそうだね?」


 ナイルの一言に、痛む頭を更に抱える事となったフォルニは、深く息を吐き出した。

 その後、合流したヴァトナから正式に協力の要請が成され、コウガに続きナイルとラインも影魔獣討伐へと参戦する事が決まったが、フォルニの苦悩はまだまだ続く。

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