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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ 1
25/264

錬水

「けど、問題は魔力量よりも技能の錬水の方だろうな」

 フェリオが少し重い口調で切り出す。


「錬水ってなんなの?字面的には・・・水を創り出す技術って感じがするけど、それはこの世界でも無理なのよね?」

 だからこそ、水不足が深刻化しているんだから。


「それなんたけどな。シーナ・・・水、創っちゃてるぞ」

「――――――はい?」

「身に覚えが無い、とは言わせないぞ。今朝、あれだけ派手にやらかしたんだからな」


 今朝?今朝、今朝・・・あ?・・・アレ?


「それって、もしかして水が降ってきた、アレ!?」

 コウガと共にビショ濡れになったのは、記憶に新しい。

「あれはフェリオが・・・」

 でも、確かに不自然だった。フェリオが何かを隠してるのも気付いていた。まさかそれが・・・。

「私の仕業・・・だった?」


 そう呟いてみたものの、簡単には受け入れられない。そもそも魔力の存在だって、目に見えてしまったから納得出来ただけで、そうでなければ未だに半信半疑だっただろうし。

 でも、今朝の出来事を思い返せば、そう考えた方が辻褄が合うのも事実。

 

「流石にオレも驚いたよ。けど、オレが見ただけでも二回、それ以外にも少なくとも一回、シーナは水を創り出してたぞ?」

「ッッそんなに!?」


 まさか朝の一回だけじゃ無かったなんて・・・でもちょっと待って。私はどうやって水を創ったの?水の錬成は材料不明。レシピも材料も無しに、創れる訳がない。


「でで・・・でも、でもよ?どうやって?水って創れないんでしょう?材料は?」

「シーナは、自分の魔力を水に換えていた」

 魔力を水に?

「・・・そんな事できるの?」

 それが可能なら、他の錬金術師も水を創れるんじゃ?

「それができたのは、過去にアメリアしか居ない」

「アメリア?それって聖女様の?」

「そうだ。オレは妖精界から見ていただけだから、確証は無いけどな」

 聖女アメリアと同じ力が私にも?


 ――――――えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 なにそれ、どういう事?なんで私が?


 アレでしょ?アメリア様って宗教になっちゃうような人でしょ?しかもその理由が"水を創り出せた"からなのよね?


 ・・・なんてこった。


 そんな事が世間に知られたら、もしかして私、聖女様とか祀り上げられちゃう訳?

 ――――――ナイ、無いわ。34歳でそれは無いわ。


「フェリオ、もしかして私、結構ヤバい?」

「ああ、ヤバいな。確実に色んな奴に狙われる事になるだろうな」

「ひぃぃぃぃぃぃ。やだ、怖い」

 そうだ、聖女と崇めるだけならまだしも、私を捕まえて無理矢理にでも水を創らせようとする人だって、きっといる。


 どうしよう?何処かに閉じ込められて、一生水を創らされるのも、この歳で聖女様なんて呼ばれるのも、どっちも嫌。

 自慢じゃ無いが、ネガティブな想像は得意だ。次々と最悪のシナリオが思い浮かぶ。


「それが嫌なら、人前ではやらない事だ」

「そんな事言われても、自分でもどうやってやったのか分からないのに、どうすれば・・・」

 そう。錬水なんて全くの無自覚なのだ。やり方が分からないものを、止めようが無い。


「何か思い当たる事は無いのか?」

「ある訳無いじゃない。いつ?いつそんな事になってたの?」

「オレが見たのは、今朝の起き抜けと、ペレとネルが孵った後。それと多分、初日に馬に乗ってる時の雨。あれもシーナの仕業だろ?」


 あの雨が私の仕業?・・・ははは、そんなバカな。


「ごめんフェリオ。頭が全然回らない」

 この世界に来て、二度目の思考停止。頭が考える事を拒否してる。


「オレが思うに、シーナの感情が原因だと思う」

「私の・・・感情?」

「あぁ。魔力の流れは感情に左右されやすいんだ。シーナの魔力が水に換わる直前、魔力がかなりに波立ってたからな。動揺とか緊張とか、その辺りに原因があるんじゃないか?」

「大きな感情の起伏が原因、て事?」

 だからフェリオは、出掛ける前に平常心なんて言ったのね。


「う~ん。でも、それだけじゃ無い気がするんだよなぁ」

「え?どうして?」

「だってシーナ、今日変な男に絡まれた時も、内心かなり動揺してただろ?」

 一生懸命虚勢を張っていたのに、バレてたなんて。

 確かに、ゲルルフ達に囲まれた時は、内心かなり怖かった。

 だって、剣を、人を傷付けられる武器を持った男達に因縁をつけられたのだ。それは、日本で暮らしていれば、遭遇する事の無い事態だ。

 怖くないはずが無い。

 それでも、トルネとラペルの手前、怖がってなんていられなかったってだけで。


 私が苦い顔をすると、フェリオは更に続けた。

「それに、恐怖なら影魔獣に襲われた時はもっと感じたはずだろ?」

 確かに、あの時は動揺もしてたし、かなりの恐怖を感じていた。

「感情の起伏にも、条件があるってことかな?」

 少なくとも、恐怖では錬水は起こらない。


「だからシーナ、今朝の事をよーく思い出してみろ。どう感じた?」

 今朝の事は、恥ずかしいから余り思い出したく無いんだけど・・・。


 確か、コウガが人間になってて驚いて、寝惚けたコウガに抱き寄せられて、こう・・・胸がきゅってなった、みたいな?

 そう言えば、ラインさんと馬に乗っていた時も、至近距離で話し掛けられて、心臓が破裂するかと思った様な?


 ――――――どっちも凄くドキドキしてた。


 思い当たった原因が・・・恥ずかし過ぎるんですけど!?

 いや、待て。もしかしたら別の原因が有るかもしれない。そうに違いない。そうであってくれ。

 考えろ、考えるんだ!・・・ペレとネルが孵った後は?確かコウガに「シーナの側にいたい」なんて言われて・・・。


 ――――――他に思い当たれないんですけど!?


「どうだ?」

 フェリオの問い掛けに、ビクッと肩が跳ねる。

「んん゛ッ・・・う~ん。驚いた、かな?凄くびっくりした!うん、びっくり!」


 流石に、異性にときめいたからかも、なんて口が裂けても自白出来ない。


「驚いた?それだけか?」

 フェリオが怪訝そうに首を傾げる。

「それはまぁ、無自覚だし?気付かない原因があったかもしれないけど?」

 変な汗が吹き出して、ちょっと声が裏返ったけれど、そう言ってはぐらかせば、フェリオはフウッと溜め息を漏らす。

「まぁなぁ~。でも、それじゃ対策が立てられないしな・・・取り敢えずシーナは平常心を心掛けて、どんな感情の起伏で錬水が発動するかを見極める所から、だな」

 うぅ、フェリオが頼もしい。でも、見極めるのが怖いとか言えない。


「ワカッタ、キヲツケル」

 私は棒読みの上、片言になりながらも、なんとかそう返事して席を立つ。

 確か本棚に聖女アメリアの絵本があったはず。取り敢えず、今後の参考に読み返してみるのもいいかもしれない。

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