〉その頃彼等は~コウガと王国騎士~
一方此方は、シーナが案内された書庫のある建物。その入口。
そこには王国騎士が一人、シーナの護衛として待機しており、書庫に唯一ある小さな窓の側に生えた木の上では、コウガが何時ものようにゆったりと目を閉じていた。
そしてこの王国騎士、名前はコンラッド。伯爵家の三男として生まれ、騎士として身を立てている好青年だが、少々惚れっぽい所があるのが気掛かりだと評価される男。
今回の旅に同行している間に、すっかりシーナの虜になってしまったのは言うまでもないが、ここに来てフィヤトラーラの美しさにも目移りしている節があった。
とは言えどちらも高嶺の花であることは十分理解しており、更にシーナに関して言えば歯も立たぬ程の強力なライバル達の鉄壁なガードに阻まれて、端から希望を抱くことさえ出来ずにいる。
そして今日も今日とて、シーナの護衛を勤めてはいるものの、こうして建物の外で待機という非常に面白味の無い状況である。
書庫のある建物自体がウールズにとって重要な資料を保管してある場所故という理由は理解しているが、折角のチャンスを、と思わないでも無い。
そんな眼下の王国騎士の思いなど、露ほども知らない・・・いや、気付いていてガードを固めている側のコウガは、目を閉じていながらも辺りの気配を敏感に察知していた。
───北か?嫌な感じだ。
シーナの姿を確認できる具合の良い木の上に落ち着いたばかりだというのに・・・と辟易しながらも、そのシーナがどうにも危険に巻き込まれ易い質であるのもまた事実。
放っておけばまた影魔獣達はシーナ目掛けて襲ってくるに違いない。
コウガは一つ大きな溜め息を吐き出すと、ヒョイッと木の上から飛び降りた。
「オイ。北の森に嫌な気配がすル。暫くシーナの護衛は任せタ」
「───ッッッ!?」
突如、木の上から音もなく降って来たコウガに驚いたコンラッドは、咄嗟に腰に携えた剣に手を伸ばしていた。
そんな護衛としては優秀な方のコンラッドだったが、それだけ言って直ぐに姿を消してしまったコウガの、短い言葉を十全に把握できる程の理解力は持ち合わせておらず、ポカンとコウガを見送る事しか出来ずに立ち尽くしていた。
「あらぁ、素敵な騎士様。こんな所で同郷の殿方にお逢い出来るなんて、なんて好運なのかしら」
そして、そんなコンラッドに近付く一人の女。
彼女が豊かな赤茶色の髪を靡かせコンラッドの目の前でゆったりと微笑むと、甘ったるいヤランヤランの香りがフワリと鼻孔を突いた。
あぁ・・・なんて魅力的な女性だ。
コンラッドはその瞬間、異常な迄の早さでその女に好意を抱き、彼女の願いを何でも叶えてやりたい衝動に駆られた。
「ねぇ、騎士様?私、一人で退屈していたの。一緒に遊びましょう?」
「あぁ・・・いや。申し訳無い、が・・・任務の途中です、ので」
コンラッドは誇り高き王国騎士として、常々自らを律していた。だが、下から覗き込む女の妖艶な真っ赤な瞳を目の前にすると、そこから目が離せなくなる。
「そんな事言わないで、ね?お願い」
コンラッドはぼやけて鈍った頭で何とか理性を掻き集めるが、湧き上がる耐え難い衝動に抗えず頷いた。
「───はい。貴女の、望むままに」




