詐欺師
「では、話を聞こうかの」
テーブルに老人と私が対面する形で座り、老人の後ろに二人、老人と私の間にフェリオの檻を持った兵士が立ち、その圧迫感にまるでこの場が逃げ場のない檻の中みたいな気分になる。
「その前に、貴方達は何処の誰なんですか。ここは教会の様ですが、教会の人間で合ってます?」
人に名乗りもせず、横柄な態度を取り続ける彼等に、そろそろ我慢の限界である。
「我々か?無論、敬虔な聖アメリア教会の信徒だぞ。そして我はこの大聖堂で司教を勤めておる。ポドゾルーダ・チュラプチン。まぁ直ぐに大司教になるがのぅ」
えっ?ポドゾ・・・なんて?
濁点と半濁点が多すぎて名前を正確に覚えられる気がしないけれど、司教ってことは結構偉い人って事だよね?
しかも大司教になるって、内事でも出てるの?それとも、かなりの自信家か野心家か。
「それで、教会の司教様は私に何を聞きたいんですか?」
そんな教会の偉い人が、一体私に何を聞こうと言うのか。勿論、世界樹の異変については無関係だし、まだ何も分かっていない以上、答えられる事は無い。
「まったく、錬金術師というのは自分達ばかりが偉いと思いよって、目上の者への態度がなっとらん」
いやいや。どんなに年上でも、どんなに偉い人でも、理由も言わず人質をとって拘束するような人に、持ち合わせる礼儀なんて有りませんが?
「まぁいい。我が聞きたいのは、昨日世界樹から溢れた水のことだ。あれはお主の仕業だと噂になっているが、本当か?」
てっきり世界樹の異変について聞かれるのかと思いきや、最初に聞かれたのは昨日の事だった。
これについては、昨日ヴァトナ族長にしたのと同様の説明をすれば良い。
「はい。私の錬成した魔法鞄に、アクアディア王国の許可を得て、彼の国から多くの水を運んで来ていたので、世界樹復活の助けになればと昨日放水を試みました」
「魔法鞄だと?あの様に大量の水が入る魔法鞄など聞いたことも無い」
まぁ確かに、一般的に売られている魔法鞄じゃ、どんなに高価な物を買ったとしても精々樽10杯分くらいなものだろう。
「流石に魔法鞄一つであの量は無理ですね。ですが、素材と時間さえあれば魔法鞄といっても数を揃える事はできます。幸い今回はアクアディア王国の依頼でしたから、素材に関しては彼方で揃えて頂けましたし」
私は、思いのほか冷静に受け答えが出来ている事に、自分で驚く。こうポンポンと嘘が出てくるなんて、詐欺師になれるかも。
「むう。確かにそれならば可能かもしれんが・・・ならば、世界樹に降った雨はどう説明する?」
この司教様は一体何を知りたいの?
「雨の方は・・・分かりません。大量の水が雨を呼んだのかもしれませんが、確かな事は何も」
あの場には水の魔法を使える人はいなかった。下手に魔法だと言って後で調べられても困るし、ここは分からないで通すしかない。
「分からないだと?お主等一行は道すがら何度も雨に恵まれたそうだが?」
「それは事実ですが、その理由については私達にも分かりません」
「ふん、わからんか。まぁいい。ならばお主をここから出す事はできんのぅ」
私から話を聞き出す事を諦めたかと思いきや、司教様はそう言ってわざとらしく溜め息を吐いてみせる。
「何故ですか?私は貴方の問に全て答えました。早く私とフェリオを解放して下さい!」
「そうだのぅ。お主が素直に聖女アメリア様の神業を真似した手口を白状し、その方法でもって我々の手伝いをするならば解放してやろう」
「真似した手口?手伝い?・・・何を言ってるんですか?」
もう純粋に、本当に何を言ってるのか分からない。
彼等は私が聖女を語る偽物だと思ってるって事だよね?
まぁ、本当に水を創り出しているなんて思わないんだろうし、こんな人に知られても困るけど。
それなのに、そんな私に協力しろってどういう事?
「ふん。惚けた所で、お主の魂胆なぞお見通しだ。聖女を語りアクアディアの貴族にも取り入ったのだろう。欲しいのは聖女の地位か?それとも金か、男か」
「なッ!?」
まさかそんな風に思われていたなんて。
呆れて物も言えないって、こういう事なのね。
「まぁ、聖女を語るという事はその全てだろうがの。そこで、だ。我の言う通りにすれば、お主を教会公認の聖女にしてやろう」
この人、私が聖女を語る詐欺師だって信じて疑わないのね。
それなのに私を聖女に仕立て上げようとするなんて、この人は何がしたいんだろう。
「一体、私に何をさせたいんですか?」
「ホッホッ。やる気が出たようだの」
いや、引き受ける気なんて更々無いですが。
「なに。我はこの世界に聖女という希望を与えたいのだよ。それが例えまやかしだとしても、民に希望は必要なのだよ」




