本領
昼前に帰ってきた私達は、早速コウガの服を錬成してみる事にした。
まずはデザインだけど・・・。
今までは極力無難な服装を心掛けていたから、お洒落な服とか、ましてや男物の服なんて、ちゃんと見たこと無かったのよね。
まぁ、無難な方がいいよね?コウガは元が良いから、何着ても似合いそうだし。
「じゃあコウガ、そこに立っててくれる?」
コウガを目の前に立たせ、取り敢えず白い生地を取り出して錬成を始める。
因みに、生地には境界の森の泉水を少しだけ含ませてある。
特殊効果で衣類の汚れ防止が出来るかの実験だ。
「フェリオ、お願い」
「はいよッ」
――――――シュゥゥゥゥゥゥ・・・。
出来上がったのは三着の白いTシャツ。長袖二枚に半袖一枚。これならお店に売ってるのと変わらない仕上がりだ。
Tシャツが思いのほか上手く仕上がって、私は調子よく他の衣類も錬成していく。
どうせなら、なるべく丈夫で動きやすい服がいいよね。
そんな事を考えながら錬成したのは、ストレッチの効いたブラックデニムやチノパン。上着用にライダースジャケットやカーディガン等々・・・。
一通り錬成し終わった所で、錬成を見ていたトルネとラペル、それにコウガまでもが不思議そうに完成した衣類を眺めている。
「あれ、どうしたの?何か変?」
「この服やわらか~い」
「ジョウブなのに・・・ナゼ伸びる?」
「こんな綺麗な縫い目、見たことない。それにこれは、装飾?」
―――――――――しまったぁ!!
デザインやバリエーションにばかり気を取られて、こっちの世界の基準を考慮するの忘れてた!
私がイメージしたのは、そこら辺で売っていた既製服。勿論、そんなに高価なものじゃない。けれど、元の世界、地球の既製服だ。
この世界でも、衣類は充実しているし、見た目はそれほど変わらない。
でも、生地の手触りや種類、縫製なんかは、やっぱり地球の物の方が上質だし、ファスナーなんて完全にアウトじゃない?
「そッ・・・そう?錬金術で作ったから、色々と不思議な事が起こるのかな?アハッ・・・アハハハ」
余りにも考え無しだった自分に動揺して、乾いた笑いで誤魔化す。
うわぁ、怪しさ全開だよ。
「ねぇちゃんが作ったパン食べた時も思ったけど、ねぇちゃんって、どんなトコに住んでたんだよ。もしかして・・・」
やばい、どこから来たかは、ふんわり、やんわり誤魔化していたのに。
「王族、とかじゃないよな?」
――――――そっちかぁ~。
良かった、違うなら違うと言いやすいもの。
「王族なんてとんでもない。私のは多分、日頃から美味しいパンが食べたい!とか思って願望を膨らませてた結果じゃないかな?想像力、そう!想像力だよ」
内心、冷や汗をダラダラとかきながら、表面上はドヤァ!と渾身のドヤ顔をキメておく。
「確かに、イメージさえしっかりしてれば、実物より良いものが出来る・・・かも?」
そう、可能よ!きっと!
「それに、ねぇちゃんは王族って感じじゃ無いよな。でもそんなにパンの事ばっか考えてたなんて・・・食いしん坊なんだな」
――――――失礼な。
でも、せっかく納得してくれたなら否定しないことにしよう。
「まぁ、見ての通り、食いしん坊なただの庶民ですよ」
でも、少しだけ不貞腐れた言い方になってしまったのは、仕方ないと思う。
「お姉ちゃん、次は私の服も作って!」
けれど、キラキラと期待に満ちた瞳でラペルにそうお願いされて、すっかり気分が良くなってしまうのだから、私も単純だよね。
「じゃあ、とびきり可愛いの作ろうね」
私だって、どうせなら可愛い服の方がイメージが湧きやすい。
ラペルには、襟とリボンが緑色で、裾に白いフリルをあしらった、向日葵みたいな黄色のワンピースを錬成してみた。
「わぁ、すごくかわいい。お姉ちゃんありがとう」
ラペルはとても気に入ってくれたらしく、ワンピースをジーッと眺めたかと思えば、着替えてくる!と言って離れを飛び出して行った。
ラペルを見送ると、いつの間にかコウガも着替えを終え、更にファスナーを使いこなしていて驚いた。
「コレは、ラクでいいな」
「そッ・・・そうでしょ?村のおじさんの発明、らしいよ?」
咄嗟の言い訳だけど、ファスナーに関しては発明家おじさんで通すしか無い。
「そうか。スゴい人ダナ」
見ただけでファスナー使いこなして、そうかの一言で納得するなんて・・・コウガ、対応力が凄すぎるよ。ありがたいけども。
コウガがファスナーを上げ下げしているのを見て、トルネが少し羨ましそうにしていたので、トルネ用に深緑色ジップアップパーカも作ってあげた。
ついでに、ファスナーに関してはおじさんの発明品なので、他言無用だと言い含めておく。
端から見れば、変わった装飾として誤魔化せる、はずだ。
そんな裏工作?をしていたら、ラペルがマリアさんを連れて戻って来た。
「お姉ちゃん!見て見て、似合う?」
「うん、とっても似合ってる、可愛い♪」
黄色のワンピースをヒラヒラさせながら、満面の笑みでやって来たラペルの、なんと可愛らしい事か。
「シーナちゃん、ありがとう。ラペルにこんな可愛い服を作ってくれて。あら、トルネも!良かったわね」
トルネも照れ臭そうに、でも嬉しそうに笑っている。
「コウガくんも、また一段と格好良くなったわね。その服なら、町へ出掛けられるわ」
フラメル氏の服も素敵なデザインではあったものの、如何せん寸足らずだったからね。
「コウガ、町に何か用事があるの?」
私が問い掛ければ、コウガは「ああ」とだけ答える。うん、本当は何処に行くのか聞きたかったんだけどね?
でも私の疑問には、すぐにマリアさんが答えをくれた。
「あのね、昨日の事はラインくんから他の騎士さん達にも伝わってるだろうけど、コウガくん、獣人さんだったでしょう?それも含めて、改めて騎士の詰所へ説明に行った方が良いと思うのよ」
確かに!!・・・マリアさん、出来た人ですね。私は何にも考えてませんでしたよ。
「ラペルも行く!この服着ていっていい?」
ラペルが手を上げながら、ピョンピョンと飛び跳ねてアピールする。
「フフッ、いいわよ。トルネも一緒に来て事情説明してね。それで、シーナちゃんはどうする?」
私は少し考えて、首を横に振る。
「私は家に残ります。ちょっと色々なレシピを試してみたいので」
これは勿論本音だ。でも、さっきみたいに、私が一緒に居るせいで絡まれたり、変な噂が立ったりしたら・・・とも思う。
「ねぇちゃん、気にしてるのか?」
すると、敏感に私の心の機微に気付いたトルネが、小声で聞いてくれる。
「ううん。テオドゥロさんが言ってた軟膏ポーションを、試しに錬成してみようと思ってるの」
「なら、いいけど。でもあんま無理すんなよ?さっきも結構魔力消費してるんだから、魔力切れに気を付けろよ?」
――――――きゅ~ん。
お姉さん、トルネの男前な優しさにきゅんとしましたよ。
「うん、気を付ける。ありがとね、トルネ」
「おッおう!」
しかも、ちょっと頬を赤らめてそんな返事をされると、もう格好可愛いったら。
――――――コホンッ。
そうしてみんなが出掛けた後、私はフェリオと二人、離れにいた。
「フェリオ、折角だから朝の話、聞いてもいい?」
私が切り出したのは、今朝フェリオが言い掛けていた話の続きだ。
夕食後に約束していたけれど、今なら問題無いだろう。
「そうだな。ここにはヒトヨミの鏡もあるし、丁度いいだろ」
「ヒトヨミの鏡がどうかしたの?」
そう問い掛けたものの、私も一つ確かめたい事があったから、多分その事だろう。
「まぁ、取り敢えず見てみよう」
フェリオに促され、私はヒトヨミの鏡の前に立ち、蜂蜜色の石に触れる。
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名前:シーナ・アマカワ
性別:女 種族:人族/人?族
年齢:18歳(人族推定)
職業:錬金術師
パートナー:オーベロン級 フェリオ
体 力:151/188
魔 力:湧出
攻撃力:16 敏捷:17
筋 力:15 耐力:18
知 力:63 運:78
技能:錬成・家事全般・弓・魅了・客引き・錬水
状態:泉の洗礼(防腐・防汚・状態異常耐性大)
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―――――――――えっと・・・なにコレ?
うん、数値は全体的に上がってるね。体力なんて、50以上増えてるし、森に通っただけの事はある。
いやぁ、ヨカッタ、ヨカッタ・・・・・・ッて、良くない!!
前まで??だった項目が少しだけ分かったのは良い事なんだろうけど・・・人?族ってナニ?私、人であることを疑われてるの?誰に!?
しかも、誘惑が無くなったのに、魅了とか意味わからない。誰を?心当たり皆無ですけど?
加えて客引きとか・・・意味合い的には問題ないんだろうけど、イメージ的に如何わしい感じがするじゃない。魅了の後に出てたら尚更ね?
「魅了して客引きとか、夜のお店みたいじゃない・・・」
「いや、見るとこソコじゃないだろ?確実に」
ポツリと落ちた呟きに、呆れたツッコミが返ってくる。
実は、パートナーであるフェリオには、私の情報が見えるらしい。
「フェリオ・・・意味不明なワードは一回スルーが常識でしょ?」
そう、見えてはいるのよ、私にだって。気にはなるけど、ちょっと理解が追い付かないから、一回置いておくって選択肢もあるでしょ?
「そこに触れなきゃ、ヒトヨミの鏡を確認した意味が無いだろう」
はい、正論ですね。
「だって、魔力が湧出ってどういう事?湧水じゃ無いんだから」
そう、私が気になっていた事、それは魔力量についてだ。
トルネが魔力切れを心配してくれた時に、ふと気付いた事実。
私の周りの魔力は全然減らない、という事。
錬成を始める前にコンタクトは外していたから、今は魔力が視えている状態なんだけど、あれだけ錬成をしたのに、私を取り巻く魔力が減った感じがしなかったのだ。
今までは、意外と錬金術の消費魔力って少ないのね~なんて、簡単に考えていたけれど、どうやら違ったらしい。
「書いて字の如く。涌き出てるって事だろ?無限・・・とは違うかもしれないが、今のところ魔力をいくら使っても無くならないって事だな」
フェリオさん?それってそんな簡単に納得していい所なんでしょうか?
「そんな人、いるの?」
「少なくとも今ココにいる」
「普通では・・・」
「有り得ないな」
「ですよね」
異常って事ですよね。この世界に来てまで異質な存在だなんて・・・。
錬金術師としては、魔力が使い放題なんて凄い事だし、得なんだろうけど、私はやっぱり普通が良かったと思ってしまうのは、贅沢な事なんだろうか。




