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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ5
239/264

信仰と期待と

「いやぁ〜恵みの雨だなぁ」


 ・・・・・・えぇ〜。

 フェリオが棒読みで言ったその一言に、声が漏れそうになる。

 自分で蒔いた種だ、さぞかし上手にフォローしてくれると思いきや、明らかに何か誤魔化してるのがバレバレだ。

 絶対フォルニさんが来てるの気付いて無かったでしょ?


「ホント、恵みの雨だよね~」

「そうですね。有難い事です」


 ナイルが微々たるフォローを入れたけれど、種を蒔いたのは同罪なので当然の事だと受け取っておく。

 そんな見え透いた誤魔化しに、フォルニさんはフォルニさんで「そうですね」なんて、感情の読めない笑顔で言われても、全然安心出来ません!


「あはは・・・あはははは〜」

「フフフ、フフフフフ」


 この微妙な空気に白けた笑いがなんとも痛々しいけれど、こうなったら後はもう笑って誤魔化すしか無い。

 そりゃ、最終的には世界樹の治療の説明の為に錬水の事も話す事になるだろう、でも錬水の条件だけは絶対に伏せて説明したいのだ。だから今この場で追及されるのは避けなければならない。


 幸い、フォルニさんも特に追及してくる事は無かった。でもなんて言うか、本当に誤魔化されてくれた感じもしないから、今日の所は見逃して貰ったような気分。

 そんな微妙な空気感の中、結局私達は全員で世界樹の回りを一周し、元の場所へと戻ってくる。


 一周歩いた成果としては、世界樹は完全に枯れてしまっている訳では無いという事。

 低い所の枝を見る限り、少ないながらもちゃんと芽は付いている。

 ただ、フォルニさん曰くずっとこの状態なんだそう。

 要するに、芽は出ているのにそれ以上成長しないのだ。

 でも、それならばまだ希望はある。

 実は少し不安だった。だって世界樹が完全に枯れ果てていたのなら、いくら水を与えた所でその木が息を吹き返すことは無いかもしれない、と思っていたから。

 でもどういう原理か分からないけれど、今の世界樹が休眠状態だと考えれば、ちゃんと水と栄養(魔力)を与えさえすればまた葉を繁らせてくれるかもしれない。

 最悪の状況も考えていた身としては、内心少しだけホッとしたのは確かで、自分にも出来ることがあるかも、なんてほんの少し浮かれていたんだけど───


「えッ!?───これって・・・」

「うわぁ。まぁ、気持ちは分かるけどね」

「そうですね。あの量は奇跡と言っても過言では無いですから」

「凄い数だナ」


 世界樹を一周し戻ってきた私の目には、世界樹前の広場に集まる沢山の人々。

 皆一様に膝を突き、世界樹へ向かって祈りを捧げているように見える。

 そりゃ、先の大量の水に加えて世界樹の頭上にのみ雨が降ったのだ。水の少ないこの世界で、更には世界樹を信仰するこの国で、祈りを捧げるのも無理は無い。

 かといってこの状況、私的には凄く困る。だって、今からこの広場を突っ切って帰らなければならないのだ。気まずい事この上ない。

 何故って?彼等は純粋に世界樹の恵みに感謝して祈りを捧げている。でも、その実態は・・・キス、だなんてッッ!恥ずかしいです。居た堪れないです!!

 しかも───


「おぉ!聖女様だ」

「やはりあの方が奇跡を起こされたのだ!」


 やーめーてー!!

 ウールズへの道中で一緒だった大樹守の兵士さん達が、私を見つけてそう叫ぶ。

 下手に株が上がり過ぎて、期待の眼差しの圧が凄い。少し浮かれていた私の心は、羞恥と重圧で完全に地中へ埋まりました。

 こうなったら、なるべく早くこの場から去るしかない。

 私は声を掛けてくる兵士の方々に愛想笑いと軽い会釈で返しながら、早々にその場から立ち去ろうと歩みを早める。

 そうしてやっとの思いで宿泊している神殿へと戻った私の目の前には、それはそれは美しい笑顔を湛えたヴァトナ族長様とフィヤトラーラ様が・・・。


 一難去ってまた一難とはこの事か・・・。


「どうやら私が去った後の短時間で随分と成果を上げたようだな」

「ええ、本当に。あまりにも急な事で我が民達も感動を抑えきれないようですよ?」


 なんだろう。言葉では褒めて貰ってるのに、副音声的に『急な変化は民を混乱させるから、何かするならば事前に説明をしろ』って聞こえた気がするのは、気のせいだろうか。


「すみません。その・・・魔法鞄に入っていた水を流してみたのですが、思ったよりも沢山で」


 っていうのは、私が世界樹を一周する間に考えた苦しい言い訳である。


「ちなみに、シーナさんが所持していた水は、アクアディア王国にて承認を得て採取したものです」


 そんな私の下手な言い訳にラインさんがすかさずフォローを入れてくれる。

 この世界では個人が大量の水を所有することは許されていない。だから本来あの量の水を所有していれば何かしらの罰則が課せられるのだけど、それが採取地の国が認めた場合には許可される事もある。


「ほう?ではアクアディア王国に流れる水を世界樹の為に提供してくれたのか。それは感謝せねばならんな」

「いえ。世界樹の問題はこの大陸全土に関わる事ですから、当然の判断です」

「そうでしたのね。でもあれほど沢山の水が入る魔法鞄だなんて、国宝級ではなくて?」

「ええ。彼女は非常に優秀な錬金術師ですから」


 ヴァトナ族長とフィヤトラーラ様、そしてそれに答えるラインさん。3人とも笑顔で和やかに会話しているのに、そこに流れる空気が全然和やかじゃない。これが探り合いで化かし合いなのだろうか。


「とッ・・・とは言え、水を追加しただけでは恒久的な解決にはなりませんから、明日からも引き続き世界樹の様子を観察しながら対策を考えたいと思っています」


 上流階級同士の微笑み合いに若干の恐怖を覚えた私は、これでどうにか手を打って欲しいと頭を下げる。


「フッ、良いだろう。この調子で頼む」

「ッッはい!」


 そわな私に、ヴァトナ族長は可笑しそうに小さく笑うと、鷹揚に頷く。

 良かった。何とか丸く?収まったみたい。

 色々先伸ばしにした感は否めないけれど、今日の所は悪くない結果なのではないだろうか。

 世界樹の様子を知ることが出来たし、まぁ過程はどうあれ結果的にウールズの人達の信頼を得る事にも繋がった。

 後は恒久的あるいは定期的に、世界樹に水と魔力を供給する術を考えないとだけど・・・。

 でもそれは、話に聞く『聖女アメリアの聖杯』のようなもの。

 私がそんな凄いモノを創り出せるだろうか。

 そうだ。聖女の聖杯について調べてみるのも良いかもしれない。

 アクアディア王国でも少し調べたけれど、国が違えば残っている資料も違うかもしれない。

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