コントロール
「フェリオおかえり。それでどうだったの?今、どの辺」
私は、フェリオの言葉をスルーして当初の目的を果たすべく声を掛ける。
そこに話を逸らす意図なんて、微塵も無いのよ?
「お?あぁ、そうだなぁ。裏側まではあと3分の1って所かな」
しれっと話題を変えた私は、フェリオがニヤリと笑いながらもしっかりと答えてくれた事で、少し安堵する。
「じゃああと少しだね」
それに加えて、フェリオの言動に動揺する私とは違い、ナイルは何事も無かったかの様に自然な態度でフェリオと話していて、有難いと思う反面、元凶はナイルでは?と腑に落ちないものを感じつつも、この話はこれで終わるだろうとホッと胸を撫で下ろした。
けれど、フェリオが面白い事を諦めているはずも無く・・・。
「そう言えば、上から見えたんたが・・・」
「えッ!?な、何が?」
ニヤニヤ笑いが消えないフェリオに、私はビクッと肩を震わせた。
一体何を見たの?まさか、あの場面じゃ無いよね?
「なんだと思う?」
「そ、そんなの分かるわけ無いじゃない。世界樹以外に何か見えた?」
「そうだなキ───」
「キ!?」
「木ばっかりだったな」
「───そりゃそうでしょうよ」
って、そこで言葉を切る辺り、何があったのかバレてるっぽいぃぃ。
「あぁ。それと、こっちに向かってくるコウガが───」
「シーナッ!!」
フェリオが言い終える前に、世界樹の枝からコウガが降ってくる。いや、どっから来たの!?
「シーナ、無事カ?凄い勢いで水が流れて来たんだガ───アイツの所為カ?」
コウガは一直線に私の元へ走り寄ると、ジッとナイルを睨み付ける。
どうして!?いつもは私が水バシャァしても、対抗はしてもそんなに気にしないのに。
「ちょっと虎くん、そんなに睨まないでよ。僕は僕の権利を行使しただけだよ?」
「権利?」
「うん。旦那候補の権利。あ!それと世界樹治療のお手伝い?」
そこでナイルは、人差し指で意味深に唇に触れる。
やめて!居た堪れないから。もう、色々全部バレバレだから!!
「治療の手伝いカ。ナラ、俺も手伝おウ」
そう言って背後から私を抱き寄せたコウガに、顎をクイッと上げられ私は焦る。
「待って!」
「何故ダ?俺にも権利はあるだロ?」
スッと身を屈めたコウガの顔がグッと近くなる。
その視線に射貫かれて、思わずギュッと目を閉じてしまった私が、逆効果だったと気付いた時には、グイッと今度は前に引き寄せられボスッと何かに顔を埋める羽目に陥っていた。
「ちょっと、ちょっと。僕の目の前で何してるのさ。それなら僕も遠慮しないよ?」
何事かと慌てて目を開ければ、眼前にはナイルの胸元が。
後ろからコウガ、前からナイルに迫られて、二人に挟まれる形になり、更には二人揃って顔を寄せられ、ブワワッと溢れる魔力に軽くパニックになった私は助けを求めてフェリオへ視線を送る。
「フェリオ、ちょっとこの二人どうにかして」
けれど、フェリオがこの状況で助けてくれるはずも無くて───
「クククッ。良いじゃないか、両手に花で。ホラ、もう一本金色の花が来るぞ」
良いワケあるか!!とツッコミたい所だったけれど、金色の花?とフェリオの視線の先へ目を向けると、そこにはこちらに走ってくるラインさんの姿。
うわぁぁぁ!これ以上は増えないで!もう本当に限界なんです。さっき水バシャァしちゃったばかりなのに、また溢れたそうなんですッ!
「ほら姫、世界樹の為だよ?」
「我慢するナ」
そっか、世界樹の為だし我慢しなくても───ッてなるかぁ!ラインさんの後ろからフォルニさんまで来てるから!!
「待って!ホントに駄目ッ!」
それでも止まってくれず、更に顔を寄せる二人に、限界を超えて溢れる魔力を感じながら、ギュウゥッと圧縮するように魔力を抑え込む。
この感覚、前にも一度あった。今度こそ、コントロールできるかもッッ。
止め処なく溢れ出る魔力を一点に集めて圧縮するイメージ。後は圧縮した魔力をどうにかすれば・・・。
あと少し、もう少しで───
「シーナさんッ!!」
けれど、駆け付けたラインさんが二人を止めるべく手を伸ばした所へ、フェリオが背後からドーンと体当たりなんてするものだから、勢い余ったラインさんにまで顔を寄せられた結果・・・。
ッッッッッッ!?それは、無理でしょ。
───ザァァァァァァ・・・
それでもなんとか水球ザバァァァじゃなくて、雨ザァァに出来た事を褒めて欲しい。
あぁ。あと少しで錬水をコントロール出来そうだったのに。
それにしても、青空の下で雨に降られ、イケメン3人に囲まれ、内2人は火花を散らし、1人は赤面。そんな状況に呆気に取られた様に立ち尽くすフォルニさん。
何、このカオス。フェリオさん、責任取ってくれるんでしょうね!?




