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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ5
222/264

国境

 その後布団に入った私は、まさかフェリオにまでドキッとさせられるとは思って無かったから、一人冷静になった途端猛烈に恥ずかしくなり、人の姿のフェリオが脳裏にチラついてなかなか寝付けなかった。


「おーい!朝だぞ~!」


 それなのに次の日の朝、自分より先に起きてドヤ顔で起こしてくる元凶の顔を見てしまえば恨めしく思うというもので。


「フェリオ、昨日のこと覚えてる?」

「え、昨日?昨日は~・・・あ?オレ、いつ寝たんだ?」

「どこまで覚えてる?」

「どこまでって・・・確か、最後に町中のヤツにポーション送れるか試して、それから~・・・あれ?そっから先どうしたっけ?」


 フッ・・・覚えて無いのね。

 それなら、少しくらい意趣返しをしてもいいよね?羞恥と睡眠の恨みは恐ろしいのよ。


「フェリオ、このキノコ覚えてる?」


 スマホから青いキノコを取り出してフェリオに見せると、フェリオはパアッと顔を輝かせて頷いた。


「おぉ!それすっげぇイイ匂いなんだよ。でもそのキノコがどうしたんだ?」

「このキノコの別名、妖精の酒杯って言うんだって」

「妖精の酒杯?聞いたこと無いな」

「これね、妖精が匂いを嗅ぐと、酩酊状態になるんだって」

「めいてい?めいていって酔っ払うってことか?」

「そういうこと」


 そこで私は、わざと大袈裟にニヤリと笑って見せる。


「フェリオが酔っ払うとあんな風になるなんて・・・知らなかったなぁ」

「なッ!?オレ、何かしたのか?」

「いやぁ~私の口からはとてもとても」

「なんだよそれ。教えてくれよ」

「えぇ~それはちょっとぉ」


 ふふッ。焦ってる焦ってる。

 まぁあの事件は本当に私の口からは恥ずかしくて言えないんだけどね。


「うぅッもぉいい!他の奴等に聞いてくる!!」


 私がはぐらかしてばかりいると、フェリオは痺れを切らして部屋を出ていってしまった。

 やばい。あの状況を端から見たら私がフェリオを襲った様に見えなくもない。あの態勢だけを説明されたら、私の方が変態扱いになるのでは?

 なんて心配したのも束の間、フェリオは明らかにズーンと凹んで帰ってきた。

 え?そこまで凹むなんて、なんて言われたの?


「誰も教えてくれなかった・・・オレ、そんなヤバイ事したのか」


 流石、みんな分かってる。きっと私が話さなかったのを察して、口を閉ざしてくれたのね。

 でも、予想以上に落ち込んでしまったフェリオがちょっと可愛そうな気がしてきた。


「まぁ、アレよ。まるっきり猫って感じでゴロゴロ言ってたくらいで、人様に迷惑は掛けてないから」


 私以外は!だけどね。

 でも、こう言っておけばフェリオも少しは落ち着くはず───と思ったんだけど、更に凹んだ?


「まるっきり猫。このオレが、まるっきり猫?身も心も猫になってたって言うのか?」


 え?ショック受けるのソコ?いやいや、普段から割りと猫でしょ?元が人の姿だって忘れるくらいには。


「まッまぁ、珍しいキノコみたいだし、今後はそんな事にならないんじゃない?」

「・・・そう、だな」


 フッ・・・なんて薄く笑いながらもその姿には黒い影が落ちている。

 うわ~ん。フェリオが地の底に潜ったまま戻って来ない。


「ほら!今日はウールズの国境に着くんだから、シャキッとする!」

「・・・あぁ、そうだな」

 うん。暫くそっとしておこう。そうしよう。


 ───とまぁ、ここまでが朝の出来事で、私達はもうすぐウールズとの国境があるトンネルに到着予定だ。

 因みに、フェリオは道中ずっと影を背負ってジメジメとキノコを生やしていたけれど、途中の休憩で出したきな粉のおはぎがお気に召したらしく、今は満腹で昼寝中。

 今日はこの旅程の最初の正念場と言っても過言じゃ無いから、気を引き締めて挑まなきゃならないのに、全く世話の焼ける妖精なんだから。

 どうして正念場かと言えば、そもそもミーミル側から入国しようとして、アクアディアの人間を受け入れてくれるのか?という非常にシンプルな問題が残っているのだ。

 国境にはアクアディア王国の騎士が一名単騎で先行していて、ウールズとの関係が良好なグトルフォス侯爵の書状に加え、ミーミル共和国の前総長グェイア様と現総長レッキス様の連名で書かれた書状もウールズ側へ届けられている。

 だから、国境に着く頃にはウールズ側から入国の可否が伝えられているはず。

 それにラインさん曰く、内々に入国の打診をした際には今現在アクアディアとウールズの国境を通ることは許可出来ない、との返答があったらしく、裏を返せばそれ以外の国境を通る事は恐らく出来るだろうとの事。

 ウールズ側としても抗議の為の国境封鎖の最中、いくら友好関係にある家だとしても堂々と国へ招き入れる訳にはいかなかったのだろう。

 そんな事情と、第三国であるミーミルの代表の書状が揃ったのだから、入国を拒否される可能性は低い。


 とは言え、やっぱり緊張はするのよね。

 ここまで来て入国拒否されたらどうしよう。


「シーナさん、国境が見えてきましたよ」


 なんて考えていたら、どうやら国境についたらしい。

 窓の外を見れば、馬車二台が余裕で通れそうな大きなトンネルが眼前に口を開けていた。

 トンネルの壁面には神掛山の門と同じ様に花の模様が彫り込まれているが、枝に長く垂れ下がる花を咲かせた・・・世界樹の模様、だろうか?

 神掛山を取り囲む麓の街にある国境は、どこもトンネルで繋がっており、入口に入国の為の関所が設けられている。

 ここで入国に関する手続きを行うのだけれど・・・。


 ───え、待って?何アレ?何か国境にズラッと人が並んでるんですけど。


 そこには、明らかに常とは違う雰囲気を漂わせる集団が待ち構えていた。


 もしかして、ここも国境封鎖してる?いやでも、ミーミルとウールズの間に問題なんて起きてないはずだし。となると、警戒されているのはもしかして私達!?

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