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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ5
221/264

雨降って、皆集まる

「ちょっとフェリオ!」


 酔っ払いの握力は案外強く、私がフェリオの上から逃げられずにいると、廊下を慌てて駆けてくる三人分の足音が聞こえて私は更に焦る。

 まさかこれ、皆の足音じゃないよね?

 流石に雨が降ったくらいで様子を見に来たりしないよね!?

 そう言い聞かせてみても、確信に近い予感をビシビシと感じているのも確かで。

 自意識過剰だって言われても良いから、お願いこの予感外れて!

 それもこれもフェリオがこの手を離してさえくれればッッ!


「離してぇ」

「ん~?」


 けれど必死な私とは裏腹に、機嫌良さげにフヤフヤと笑うばかりのフェリオには全く響かない。


「シーナ!!」

「シーナさん!」

「姫ッ!?」


 幸か不幸か(多分後者)鍵の掛かっていなかった部屋の扉は、コウガによって問答無用で開かれ、三人が部屋へと姿を現し───


「えッ!?」

「ッッ!?」

「グッッ!?」


 三人の驚きに満ちた気配がヒシヒシと伝わって来る。でもどうせ見られてしまったのならば仕方がない。ここは皆の協力を仰ぐ方が懸命だろう。


「お願い、この酔っ払い何とかして!」


 私の言葉に、凍り付いていた三人の思考が再び巡り始めたらしく、プハッと止めていた息を吐くように、先ずはナイルが口を開いた。


「ビックリしたぁ」

「酔っ払いっテなんダ?」

「確かに、様子が少し可怪しいですね。お酒を飲んだんですか?」

「違うの!アレよ、アレ!!」


 私が指差したテーブルの上には、先刻そっとフェリオから取り上げた青いキノコ。


「キノコ?」


 それを見て一様に首を傾げている三人を見るに、青キノコの別名はあまり有名では無いらしい。そりゃ、妖精自体が希な存在だものね。


「何かそのキノコ、妖精の酒杯って別名があって、妖精が匂いを嗅ぐと酔っ払ったみたいになるらしくて」

「え、キノコで?」

「そんな事が・・・」

「・・・知らなかっタ」


 こんな事ならもっとちゃんと説明文を読んでおくんだった。有毒か無毒かしか確認しなかったのが悔やまれる。

 なんて考えていたら、不意に腕を掴まれた感覚が無くなり、下から漂っていたイケメンオーラと溢れる色気の圧がスンッと消え去る。

 見れば、そこにはミントグリーンの猫がスヨスヨと機嫌良さげに寝息を立てているでは無いか。


「───戻った」


 いや、正確には人の姿の方が本来の姿なんだっけ。でもフェリオはやっぱりこの姿でなきゃ。色々と、そう色々と、ね?


「寝たのカ」

「だね~。人騒がせなんだから」

「取りあえず、猫の姿には戻りましたね」

「はい。良かった~猫に戻って。ベッドを占拠される所だった」


 寝入ったフェリオを枕元に移動させ、私はふぅ、と一息吐いてベッドの縁へと腰掛ける。

 大きくない宿屋のベッドで人の姿のフェリオと一緒に寝るのは流石に狭い。それに猫の姿の時は何とも思わなかったけれど、人の姿で同じベッドはやっぱり駄目だろう。いくら相手が妖精とは言え、何て言うかビジュアル的に?私の心臓的にもアウトだったし。

 でも猫に戻ってくれて本当に良かった、と安心したのはどうやら私だけだったみたい。


「でもそう考えると、フェリオって()なんだよね」

「何時でも人の姿に戻れるとなると、少々気掛かりですね」

「・・・じゃあ、寝るカ」


 コウガはそっとフェリオを抱き上げると、そのまま部屋を出ていこうとする。


「え、コウガ?」

「・・・」

「猫の姿なら、枕元にでも寝かせておけば大丈夫だよ?」

「えぇ~フェリオだけズルい!」

「ズルいって・・・」


 いつも一緒に寝てるんだから今更なのに、と首を傾げれば、三人が同時に『はぁぁぁ~』と深い溜め息を吐き、コウガが諦めたようにフェリオをベッドへと戻す。が、心なしか先程よりもベッドの隅に寝かされたのは気のせい?フェリオ、ベッドから落ちなきゃ良いけど。


「シーナさん。今日の所は大丈夫そうですが・・・気を付けて下さいね?」

「そうそう。気を付けないとダメだよ!」

「シーナは警戒心が無さ過ぎル」


 あれ?これってお説教の流れ?

 確かに、妖精であるフェリオにドキッとしちゃったのは私としてもどうかと思うよ?

 自分でも恥ずかしいんだからこれ以上責めるのは止めて欲しい。


「そッ!それはそうと、明日にはウールズに入るんだよね?もう夜も遅いし、そろそろ寝た方がいいよ?」


 だから、全力で話を逸らしてこの話を強制終了させて頂きます!っとグッと眼に力を込めて訴えてみる。すると、何故か三人共ゴホンッゴホッゴホッと咳払いをすると、やれやれと言わんばかりに首を振る。


「うん。姫に上目遣いで言われちゃったらお手上げだよね。それにあんまり言ってライバル増やすのも癪だしね」

「あぁ、これ以上の深追いは悪手ダ」

「そうですね。夜分に女性の部屋に押し掛けて申し訳ありませんでした。では、これで失礼します。シーナさん、おやすみなさい」

「おやすみ、姫」

「また明日ナ」

「うん。おやすみなさい」


 意図した感じで眼力が発揮しなかった気がするけれど、話を終わらせられたなら結果オーライだろう。

 それにしても・・・みんな雨が降ったからって私の部屋に様子を見に来たの?

 自然の雨の可能性だって───いや、無いか。

 自然の雨なんて降ってるの見たこと無いしなぁ。

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