ツインズバード
朝食を終えた後、買い物に行くにしても普通に生活するにしても、コンタクトレンズが必須だと痛感した私は、フェリオと共に部屋へ戻った。
色が溢れる視界はやっぱり慣れないのよね。
何となく、無意識に魔力が視えたり、視えなかったりしてるみたいだから、慣れたら自分で調節出来るのかもしれないけど・・・今はまだ無理だ。
気になり出すと、余計にハッキリくっきり視えてしまう。
部屋に戻って、ベッドの枕元に置いてあった自分のバッグの中から、コンタクトレンズの入ったポーチを探す。
すると、ポーチと一緒にスマートフォンとフルーツ味ののど飴が出てきた。
いいモノが出てきた。のど飴は後でトルネとラペルにあげよう。
・・・それにしても、スマホかぁ。
使っていた携帯電話が壊れたのを機に、スマートフォンに変えたのは数年前。
とは言え、友達と連絡を取る訳でも、SNSをする訳でもない私には、無用の長物だと思っていた。
でも今は、スマホの機能が欲しい。凄く欲しい。メモ機能に、ライト機能、検索すれば出てくる情報に各種アプリ。今思えば、レシピ検索アプリとかは何気によく使ってた。
あぁ、スマホが使えたら便利なのに・・・。
―――って、そんな事考えてる場合じゃ無かった。コンタクト、コンタクト・・・。
ポーチの中からコンタクトケースを取り出し、装着する為に窓際の机に向かう。
そこは陽当たりが良くて暖かいので、境界の森から持ってきた妖精花の蕾を置いてある。
そう、境界の森にあったもう一つの『妖精の卵』。
「なぁシーナ、ちょっと聞きたい事が・・・」
「これ・・・フェリオ、フェリオ!!」
「えあ!?なんだ、どうした?」
「妖精って、パートナーが二人いたりする?」
「は?パートナーが二人?いや、そんな事は・・・って、もしかしてその卵の魔力も視えるのか?」
私はコクコクと頷いて、包んでいた布ごと妖精の卵を持ち上げる。
「二色、二色なの!魔力が!!」
「二色・・・もしかして・・・ある!あるぞ!その可能性!!」
先にフェリオが何か言いかけた気がするけれど、今はそれ処じゃない。
部屋を飛び出した私は、そのまま離れへと向かう。
この卵は、勿論この家に来たその日にトルネ、ラペル、マリアさん、それぞれに触れて貰っている。
トルネとラペルは凄く意気込んでそれに触れたんどけど・・・誰が触れても卵は孵らなかった。トルネとラペルは酷く落ち込んで・・・。
でも・・・でも、この魔力は。
離れに入ると、皆揃ってコウガの寝床を用意していて、トルネとラペルは仲良く二人で布団を運んでいたけれど、突然走り込んできた私に、キョトンと視線を向けている。
私は手に持った妖精の卵を目線の高さまで持ってきて、その魔力をもう一度しっかりと確認する。
妖精の卵が纏っているのは、色の違う二色の羽根。一つは緑色、そしてもう一つは黄色。
私の視線の先で、妖精の卵の魔力と、トルネとラペルがそれぞれ纏っている魔力が重なる。
トルネは、緑色・・・そして、ラペルは、黄色の羽根。
――――――やっぱり、同じだ。
「どうしたんだよ、ねぇちゃん・・・ってか、何やってんだ?」
トルネが呆れた顔で此方を見ているけれど、興奮している私には全く気にならない。
「トルネ、ラペル、お願いがあるの!」
「「おねがい?」」
私は石のテーブルにそっと妖精の卵を置くと、包んでいた布を取る。
「この妖精の卵に触れて欲しいの」
トルネはそれを見ると、悔しそうに顔を歪め、プイッと顔を逸らしてしまう。
「それは・・・ダメだったじゃん」
私だって二人の傷を抉りたい訳じゃない。でも、今度こそ大丈夫だって思うから。
「お願い!今度はトルネとラペル、二人一緒に触ってみて」
「ふたり一緒に?お兄ちゃんと?」
私の余りの剣幕に、ラペルは恐る恐る問いかける。
「そう!この卵、トルネとラペル、二人を合わせた様な魔力が視えるの。だから、二人で一緒に触れたらもしかしたら・・・」
パッと二人の顔に期待が浮かぶ。
二人は顔を見合わせ、トルネがしっかりと頷いて見せると、ラペルも大きく頷いた。
「「わかった、やってみる」」
マリアさんもコウガも、固唾を飲んで様子を伺っている。勿論、私も。
そんな中、二人は両手でゆっくりと妖精の卵を包み込む。
―――妖精花の蕾はゆっくりとその花弁を開いていき・・・。
「「チュリリィ――――――チチッ♪」」
眩い光と共に可愛らしい鳴き声が聞こえた。
眩しさに閉じていた目を開ければ、トルネの肩とラペルの頭の上に、まん丸でふわふわの小さな小鳥がそれぞれ乗っかっている。
トルネの肩にいる子は、風切羽と長い尾羽が緑色で、全体は薄い黄緑色。
ラペルの頭の上にいる子も、全体は薄い黄緑色だけど、風切羽と尾羽は黄色だ。
どちらも頭からぴょこんと、虹色の冠羽が生えている。そこだけはフェリオの妖精の羽根と同じ質感らしい。
黒くつぶらな瞳で小首を傾げる姿は・・・。
――――――可愛いッッッ!!妖精がいる、本物の妖精がいる!!
いや、フェリオが妖精じゃないって言っている訳でも、可愛く無いって言っている訳でもないんだよ?
思わず心の中で言い訳をしながら、チラッとフェリオを見れば、ジトッと眇められた目が此方を見ていた。
「・・・なんだよ?なんか文句あるか?」
「うぅん、何も?」
でも、良かった。トルネもラペルも凄く嬉しそう。特にトルネはお父さんの事をとても尊敬していたし、自分も錬金術師にって思いが強かったみたいだから。
「良かったね!トルネ、ラペル!」
「うん!ありがとうシーナお姉ちゃん」
「ねぇちゃん、本当に・・・ありがとう」
トルネは滲んでしまった涙を隠しながら、それでも真っ直ぐに私にお礼を言ってくれる。
「私も二人が錬金術師仲間になってくれて嬉しい」
「チチッ♪パートナー!」
「チュリ♪パートナー!」
小鳥の妖精達も嬉しそうに、パタパタと二人の周りを飛び回っている。
「ねぇ、その子達に名前を付けてあげない?」
「「うん!」」
私の提案に大きく頷くと、トルネとラペルはそれぞれの妖精を掌に乗せ、じっと見つめる。
「決めた!お前の名前はペレだ!」
「この子の名前はネル!」
トルネとラペルは、さほど迷うこと無く妖精達に名前を付ける。
「チチッ♪ペレー!」
「チュリ♪ネルー!」
緑色の子がペレで、黄色の子がネルね。うん、どちらも可愛い名前。
「それにしても・・・双子妖精とは珍しいな」
その様子を見ていたフェリオが、感心したように言う。
「ジェミニ?」
「あぁ、妖精界で同じ花から産まれた妖精の事なんだけどな。妖精界でも珍しいんだけど、人間界に来るには、今みたいに適正のある奴が二人同時に触れなきゃならないだろ?だから、コッチに来られる双子妖精はまず居ない」
確かに。適正が有っても一人じゃダメなんて、本当に奇跡みたいな確率よね。
「でも双子妖精はいいぞ。コイツらは第四階級のイアンシーだけど、魔力の質が同じだから、二人で協力して錬金術を使えるって利点がある」
「「「二人で協力?」」」
私と、トルネとラペルは首を傾げてフェリオを見る。
「そう。基本的に錬金術ってのは、複数の術師が一緒に一つの物を創るって事は出来ないんだ。でも、双子妖精とそのパートナーなら、二人の術師が協力して、二人分の魔力で錬成が出来るんだよ」
要するに、それぞれ300の魔力があれば、魔力が600必要な錬成も出来るって事よね?
「それって・・・スゴくないか?」
「すごくスゴい!!」
トルネとラペルがはしゃいでいると、マリアさんが二人の頭を撫でながら、優しく笑う。
「あなた達はきっと、お父さんと同じ、立派な錬金術師になるわ」
やばい、私が泣きそう。
マリアさんの目尻から涙が零れるのを見てしまい、私までもらい泣きしそうだ。
そんな私の隣にやって来たコウガが、感心したように言う。
「驚いタナ、なかなか珍しいモノをミタ」
「フフッ、マリアさんやトルネは、貴方が純血種の獣人って知って、驚いてたけどね」
「・・・ソウダナ、アイツ等は他との接触をキラウから」
コウガの言ったアイツ等って言葉が引っ掛かる。まるで、自分はそこに入ってないみたいな・・・。
「コウガは、本当に戻らなくてもいいの?」
それは、何度目かの質問だった。でも、何故だろう?彼から"帰りたくない"って答えを期待してしまった。
そうしたら、彼と私は同じかもしれないって"共感"出来る気がして。
でも、思いがけない答えが返ってきて、飛び上がる。
「あぁ、戻るつもりはナイ。オレは、シーナの側にいたい」
「ふぇ!?」
――――――――――バシャン!
突然水の音がして振り向くと、何故かフェリオが空中で水差を持って暴れていた。
「フェリオ、何やってるの?」
「お前・・・お前なぁ・・・いや、なんでもナイ。それより、せっかく錬金術師になったんだ、トルネとラペルも錬成試してみたいだろ?」
水差を持っていたのは、トルネとラペルの錬成用だったのね。でも、何故あんな責める様な目で見られたのかは、全く心当たりが無いんだけど?
「よし!錬成しよう」
「何がいいかな~」
「チチッ♪」
「チュリ♪」
まぁいっか、トルネとラペルが嬉しそうだから。
それから私達は、ハリルさんの所に卸す為の魔法薬を錬成する事にした。
その結果、魔力が視えて効率が上がった私と、初錬成で張り切ったトルネとラペルのお陰で、大量の魔法薬が出来上がった。
それにしても、普段の生活には不便だけど、やっぱり錬成をする時は魔力が視えてる方が断然楽だ。
視えるものを自分で調節できる様になれば、一番都合がいいんだけどな。
何か、いい方法を考えないと。




