女友達
「えェ?服って・・・そうよ!コウガの服!どうしてハダッ裸だったのヨ!アナタ錬金術師ならコウガの服くらい作りなさいよッ・・・って、もしかして作り方知らないノ?」
私が聞くと、メイリンさんはあの時の事を思い出してしまったのか赤面し、それからハタと冷静になる。
でも口振りからすると、どうやら錬金術で作るらしい。いや、多分そうだろうなぁとは思っていたのだ。だからこそ、レシピを教えて欲しい。
「そうなんです。そんな良いものがあるなら直ぐにでも作りたいんですけど」
「そっカ。人族の国にいたんじゃ必要ないものネ。デモ、私も詳しくは無いのヨ。必要なのは服とその人の獣型の毛。それと多分魔獣の毛皮や体毛?」
「魔獣の体毛?」
体毛って・・・なんか嫌。
「そうヨ。魔力を多く含む毛が必要なんですっテ」
「へぇ。じゃあ黒豹の毛皮とか使えそうですね」
「そりゃ使えればネ。強い魔獣の毛皮を使うト、その分錬成も難しくなるらしいワ。その所為で代金もスッゴク高いんだかラ」
「そうなんですか?」
「そうなのヨ!しかもあの家、こっちの足元見テ吹っ掛けてるに決まってるワ」
バンッとテーブルを叩いたメイリンさんは、再びヒートアップし始めたらしく、不満が次々と溢れ出す。
「それにあの錬金術師、ワタシのことスッゴク厭らしい目で見るよヨ。ただでさえ男に下着を預けるなんて嫌なの二!その癖使ってる素材が悪いのカ、仕上がりも何だかチクチクして肌触りも悪いノ。服一式錬成するのに、高いお金払っテ3ヶ月も待っテ嫌な思いまでしテ、挙げ句あの女にお礼まで言わなきゃならないなんテ!」
どうやら相当苦労しているらしい。メイリンさんの愚痴を聞きながら、それでも私は少し楽しくなってしまっていた。
だってなんだかとっても、女子トークって感じじゃない?
「ねぇ、聞いてるノ?」
「え?うん。もちろん聞いてるよ。所で、あの女ってコウザの母親のグェイア夫人の事?」
「イジャランはグェイア夫人なんかじゃ無いわワ!!オジ様の番はスイメイオバ様だけなんだかラ!」
ちょっと会話を楽しんでいたら、うっかり地雷を踏んでしまったようだ。
メイリンさんに黒豹でも射殺せるんじゃないかって程の勢いで睨まれてしまった。
「えっと・・・それってコウガのお母さん?」
「そうヨ!あの女は二人が結婚した後もずっと、実家の力を使ってオジ様に圧力を掛けてたらしいノ。今この町にいる錬金術師は皆あの女の生家、バンリー家のお抱えになってテ、バンリー家の機嫌を損ねると下級のポーションすら売って貰えないのヨ」
「えぇ!?他に錬金術師は居ないの?」
「バンリー家の錬金術師が追い出してるらしいワ」
「じゃあ、そのバンリー家と錬金術師が組んで好き勝手やりたい放題って事?」
「そうなのヨ。だから今回アナタが大量のポーションを安く提供してくれたって聞いテ、スゴく驚いたノ。錬金術師なんて自分の利益しか求め無い奴等だと思ってたかラ」
「錬金術師のイメージなんて大体そんな感じだよねぇ」
相変わらずな錬金術師のイメージにガックリと肩を落とす私に、メイリンさんが慌てて付け足す。
「でもアナタは違ったワ!ホント偶然とはいえ、このタイミングでアナタがこの国に居てくれたコト、心から感謝してるノ。そうでなきゃ沢山の犠牲者が出ただろうし、この国の実権をバンリー家に明け渡すコトになってたかもしれないもノ。それになにより、あの錬金術師の悔しがる姿を見れたコトが何よりスカッとしたわネ」
どうやらその錬金術師に対して相当鬱憤が溜まっていたらしい。メイリンさんは心底嬉しそうに私にウィンクを飛ばしてくれた。美人のウィンクは迫力が違うね。
「お役に立ててなにより。でも実権を明け渡すって、そんな国の内部事情を喋っちゃって良いの?」
「別に構いやしないわヨ。これだけ協力して貰っておいて今更でショ?それに、アナタのお陰でそうはならなかったワケだシ?」
「そう?でもそう聞くとコウガのお父さんにも複雑な事情があったって事だよね・・・」
コウガの話を聞いただけでは、グェイア総長はコウガとお母さんを捨てた冷徹な父親って感じだったけど、その話を聞く限り少しは事情も理解出来なくはない。ほんの少しだけど。
「二人が和解出来ればいいんだけど」
私が呟くと、メイリンさんが頬杖を突きながら冷茶の入ったコップを揺らしながら、うーんと唸る。
「和解したければオジ様から歩み寄らなきゃムリでしょうケド。あの頃のオジ様の対応はワタシでも許せないもノ」
「そう、だよね」
「まぁ、こればっかりは本人次第よネ。ワタシ達がこれ以上どうにか出来る問題じゃ無いワ」
メイリンさんはそう言い切ると、グイッと冷茶を飲み干し、少ししんみりしてしまった空気を断ち切るようにタンッとコップをテーブルに置く。
「なんだか話がズレちゃったわネ。錬成服のちゃんとしたレシピはまた調べてみるワ」
「ありがとう。あッそうだ!私、メイリンさんに渡したい物があったんだ」
「渡したいモノ?」
私はちゃんと小瓶に入った上級ポーションを一本取り出すと、それをメイリンさんに差し出す。
「コレ。あの時渡したのは割れちゃったでしょ?」
「アナタって・・・とんでもなくお人好しよネ。貰ったポーションを割ったのはワタシだシ、何よりアナタを脅して奪い取ったようなモノなのヨ?」
「でも、お父さんには必要でしょう?」
「それモッ!嘘だとか思わないワケ?アナタを連れ出す為の嘘かもしれないっテ」
その可能性は考えて無かった!
「考えてもみなかったって顔ネ」
「嘘なの?」
「・・・嘘じゃないケド」
「やっぱり!メイリンさんがそんな嘘吐くとは思えないもの」
「呆れた。アナタ、人が良過ぎて心配になるワ。デモ・・・ありがとう。もう父を治せないって思ってたタ。アナタはワタシの恩人ヨ。本当に、この恩をどう返したらいいカ・・・」
メイリンさんはお父さんの事を半ば諦めていたのか、目に涙を浮かべて私の手をギュッと握り締めた。
「恩人なんて・・・私はメイリンさんの友達になりたいんだけど」
「トモ、ダチ?」
「そう友達。実は私、女友達が居なくて・・・だからこうやって女同士でお喋りするの凄く楽しかったの。だから、メイリンさんには私の友達になって欲しいなって」
これは正真正銘、私の本心だ。
マリアさんやラペルは家族って感じだし、ルパちゃんは姪っ子って感じで、この世界に女友達と呼べる存在が居ない事に気付いたのだ。
その点、メイリンさんならさっぱりした性格に好感が持てる上に、気兼ね無くお喋りしてくれる。これはもう、友達に!いや、もう友達でしょ?
「―――メイリン。友達ならメイリンって呼びなさいよネ。超お人好しのシーナ?」
「ッッ!!ありがとう、メイリン!」
こうして私に、ツンデレで美虎な友人が出来たのだった。




