【200話到達記念番外編】もふパラ
ミーミルでのある日。
私はテンジン翁に誘われて、迎賓館の庭園にある東屋でお茶を楽しんでいた。
「それにしてもこの"ダンゴ"はとても良いネ。この食感も最初は驚いたけド、やみつきになるヨ」
「確かニ。それにこのソースが良いナ。甘いのにそれだけじゃナイ。これなら酒にも合いそうダ」
そう言ってみたらし団子を頬張っているのは、兎人族の族長のレッキス様。
まだ四十代半ばくらいに見えるのに、兎の獣人らしく可愛らしく長い耳と、スラリとしたモデルの様な体型の美人さんだ。
その上、族長様方の中では唯一の女性であり、更には大規模な商団を率いているというのだから、なんとも逞しい方だ。
「ショーユだったカ?ダンゴも興味深いガ、オレとしてはこっちが気になるゾ」
みたらし団子に鼻を寄せ、フンフンと匂いを嗅いでいるのはクズリさん。
今皆が食べているのは、垂れ麦を錬金術で上新粉にしてお団子にしたものに、以前作っておいたお醤油とハチミツでタレを作ったみたらし団子だ。
「お醤油は錬金術で作ったので、今ある分で良ければ差し上げますよ?」
「良いのカ!?」
「はい。私はまた作れば良いので」
そんな話を目を細めて聞いていたテンジン翁がキュキュッと笑う。
「いやぁ。此方から誘っておいテ、貰ってばかりで申し訳ないネ。お嬢さんは垂れ麦以外で何か欲しいモノは無いのかイ?」
お礼をしたいという事だろうか?でも、今回はこちらの都合で滞在させて貰ったのだから、寧ろお世話になったお礼とでも思ってくれたら良いんだけど・・・獣人族の人達は借りを作るのを嫌うみたいだしなぁ。
それなら、アレをお願いしてみようか?
「あの、お願いでも良いですか?」
「お願イ?構わないヨ、言ってごらン」
「はい。あの・・・族長様方は、皆さん純血の獣人だと伺いました。なのでその・・・失礼でなければ」
「なんだ、もしかして獣型が見たいのカ?」
失礼にあたるかもと躊躇していた私に、レッキス様があっけらかんと言う。
「あッ!はい、そうです。どうでしょうか?」
「そんな事で良いのかイ?」
「はい、勿論です」
テンジン翁もなんて事無いといった様子でそう言ってくれたので、どうやら獣型を見せる事に抵抗は無いみたいでホッとする。
「キュキュッ。そんなに嬉しそうな顔をされると少し恥ずかしいネ。ここでは少し狭いかラ、あっちの芝生へ移動しようカ」
テンジン翁はそう言って芝生が張られた場所へと向かう。
確かに東屋はそこまで広くは無いけれど、テンジン翁とレッキス様は貂人族と兎人族だ。そこまでの広さが要るのだろうか?
と思って着いて行くと、テンジン翁がその外見からは想像出来ない身軽さでクルンッと前宙したかと思えば、確かに貂の姿になってそこにいた。
―――大きい!!
私が思っていたよりもずっと大きな姿が、そこにはあった。
貂と言えば、イタチ科の動物で猫よりも小さいくらいの大きさだったはず。でも目の前にいるのは大型犬程の大きさだ。
続いて、レッキス様も獣型へと変身してくれたのだけど・・・テンジン翁よりも更に大きな兎がデーンとそこにいる。
虎人族のコウガやメイリンさんは元々のサイズとイメージが同じだったから気付かなかったけれど、もしかしなくても獣人の獣型ってその人の元々の大きさと同じサイズなんだ。
フェリオはサイズが変わるから勝手に獣型になると小さくなると思ってたけど、妖精と獣人じゃそりゃ違うよね。でも、ビックリしたぁ。
でもそうと分かってしまえば、目の前にはフワッフワな黄色の体毛に包まれて、円らな瞳でこちらを見て首を傾げる可愛らしい生き物と、ツヤッツヤな赤茶色の毛並みに包まれて、これまた円らな瞳でこちらを見て首を傾げる可愛らしい生き物が!!
控えめに言って最強。
「あの!触っても?」
今すぐモフりたい衝動を必死に抑えて控えめに聞けば、2人とも快く頷いてくれる。
「ありがとうございます!」
早速テンジン翁の首の辺りに手を埋めれば、その長い毛並みは見た目通りにフワッフワで肘の近くまで毛の中に沈む。
うわぁ~うわぁ~フワッフワだぁ~!埋もれたいぃぃ。
次に、どこでもどうぞと言わんばかりに横になったレッキス様の背中を、スル~と撫でる。
手触りがッ!良すぎるぅぅー!!スルスルスベスベなのにフワフワだぁぁぁ!
あぁ、至福。
でも、じゃあ・・・あの大きな身体で変身したら。
ついチラリとクズリさんを振り返ると、クズリさんは呆れたように首を振る。
「いや、オレは純血じゃねーヨ。つーか、オレまでそんな風に触る気かヨ」
「え?あー・・・(ニコッ)」
取り敢えず笑顔だけを返しながら、私の手は最上の毛並みをこれでもかとモフリ続けている。いやだって、もう離れがたくて。
「アナタ、なにしてるノ?」
そこへやって来たのはメイリンさん。いや、この場合は美麗な虎さんと言うべきだろうか?
「何って・・・天気が良いので、皆で昼寝?」
いつの間にか、テンジン翁とレッキス様はリラックスした様に寝そべって目を閉じているし、クズリさんも側の木に寄りかかってウトウトしている。
「メイリンさんも一緒にいかがですか?」
断られるかなぁと思いながらも声をかけると、以外にもメイリンさんはあっさりと承諾してくれた。
「仕方無いわネ。まぁ、今はそんなに忙しいわけじゃないシ、族長様方もいらっしゃるなら、断れないワ」
これがツンデレってやつですね、メイリンさん。
しかも、まだ何も言ってないにも関わらず獣型に変身してくれたメイリンさんも加わり、私の周りには貂、兎、虎(+猫)のモフモフパラダイスに。
私は早速、呼吸に合わせて揺れるレッキス様のお腹にモフッと身体を預け、心地よさそうに揺れるテンジン翁のフサフサの尻尾に背中をポフポフされながら、美しい虎に添い寝をして貰うという最高の贅沢を味わった。
あぁ。私の楽園はここにもあったのね。
爽やかな風が流れる芝生の上、木陰で過ごすモフモフタイム。これ以上の贅沢な時間があるだろうか?はぁ・・・幸せ以外の何モノでも無い。
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「なんか、見覚えのある光景だなぁ」
「この方々は?」
「メイリンと、鼬人族の族長と兎人族の族長だナ」
シーナを探して、そんなモフモフパラダイスにやって来たのは、ナイルとライン、コウガの三人。
お茶に誘われて出たはずのシーナが、何故モフモフ達に囲まれて木陰で昼寝をしているのか、彼等はシーナの幸せそうな寝顔を見て全てを悟っていた。
「微笑ましい光景ですね」
「やっぱりズルいよねぇ。僕はまだ添い寝したこと無いのに―――ッて虎君!君、混ざろうとしてるでしょ?」
「ん?あぁ」
「それはダメだよ。百歩譲ってテンジン翁は良いとして、君はダメ。なんなら彼もギリギリアウトなんだから」
ナイルがクズリを指してそう言うと、ラインはそれを見て苦笑するものの、否定はしない。
「なら、お前も一緒に寝るといイ」
「え!?それは、そうなんだけど」
いざそう言われるとそれはそれで躊躇してしまう根が真面目なナイルは、珍しく顔を赤らめていい淀む。
そんな話をしていると、シーナが「うぅーん」と身動ぎをした。
「少し騒ぎ過ぎた様です。凄く幸せそうなので起こしてしまうのも申し訳無いですし・・・私達はあちらの東屋で休憩しましょうか?」
「そうだね!この光景を見ているだけでも癒されそうだし。勿論、虎君もこっち側だからね?」
二人の有無を言わさぬ雰囲気に、渋々といった様子で頷くコウガ。
「―――分かった」
結局、三人揃ってシーナの昼寝を見守る事に決めた彼等は、東屋へと腰を落ち着けた。
穏やかな午後、幸せそうに眠るシーナと獣人達を、揃って優しい表情で見詰める三人もまた、なんとも幸せそうな表情をしていた。




