滝ポーション
あぁ~どうしよう。
崖降りる?いや、ムリムリ。私が先に死んじゃう。
崖下を覗けばメイリンさんの姿は見えるけれど、手が届くはずもない。
起き上がろうとしているのが見えるから、今のところ意識はあるのだりう。
でも、その身体は直ぐによろめいて、再びドサリと倒れてしまう。
目を凝らしてよく見れば、メイリンさんの側にはお父さん用に渡した上級ポーションの小瓶だったであろうガラス片が無惨に散らばっている。
ということは、自力での回復は不可能。
なんとかしてメイリンさんにポーションを届ける方法は無いものか・・・。
フェリオの帰りを待つ?そんな悠長な事は言っていられない。
ポーションに紐を付けて降ろす?そんな長い紐は持って無い。
そもそも、獣型のメイリンさんが自力でポーションを飲むのは難しいだろう。かと言って人型に変身するのは身体に負担が掛かりすぎる。
メイリンさんが獣型のまま、この距離から直接ポーションを飲んで貰う方法・・・。
私はチラリと樽の残骸に視線を移す。
流石に乱暴かな?でも、それ以外方法が無いのよね。
思い付いたのは多少強引な手段だった。でも、それ以外に方法が思い付かないし、迷ってる暇も無い。メイリンさんの体調は勿論、影黒豹にまた襲われないとも限らないから。
よし、やってみよう!
メイリンさんに声を掛けてからの方が良いだろうけど、大きな声を出したら影黒豹を呼び寄せてしまいそうだから止めておこう。
取り敢えず上手く落とすには調整が必要だろうし、少量ずつ試してみれば良いよね。
私は一人で納得すると、先程と同じ要領で崖淵に立ち手を伸ばす。
でも今度は先程よりもちゃんと狙い定めなければならないから、爪先からパラパラと小石が落ちるほどの際に立ち、崖下を覗き込むとあまりの高さにクラリと目眩を覚た。
でもそんな事で怯んでいる場合じゃない!と、フッと一つ息を吐き出してメイリンさんをしっかりと見据え、スマホからポーションを取り出す。
取り出したのは、今朝作ったばかりの中級ポーション。一番大きな釜で作ったそれは、詰める小瓶が無くてそのままスマホに入れてあったものだ。
この位かな~とイメージして取り出したポーションは、私が翳した手の先にポンッとバスケットボール程の水球となって現れ、そのまま重力に従って落下した。
―――バシャンッ!!
なかなかの勢いで落ちていったそれは、メイリンさんの顔から2メートル程離れた地面に落ちて周辺に飛び散り、それと同時にメイリンさんの身体がビクリと震え、ギョッとしたように私の方を仰ぎ見る。
今のはちょっと多すぎたかも・・・良かった、メイリンさんに当たらなくて。うっかりポーションで怪我させる所だった。
ポーションの量はもっと減らさないとダメだ、危ない。それに、落とす位置はもう少し左にずらして・・・今度はポーション3本分くらいの量をイメージして―――。
ここでどうだ!
今度はテニスボールくらいの水球が崖下へと落ちていく。
しかし上手く行ったと思いきや、ポーションはメイリンさんの鼻先数センチの所へ落下していた。
ちょっと!どうして避けるんですか、メイリンさん!
ポーションが落ちる瞬間、何故かメイリンさんが身を捩って避けてしまったのだ。
確かに、一発目のはちょっと身の危険を感じたかもしれないけれど、ポーションだから大丈夫。ちょっと痛くても直ぐに治りますから!
こうなったら、避けられない様に数を沢山落とすしかない。
そうと決まれば、実践あるのみ。
釜の中にある中級ポーションを少しずつ位置をずらしながら次々と取り出していく。
それに加えて、少し口にしただけでも効果がありそうだから、さっき作った上級ポーションも追加。
雨というよりも、最早ポーションの滝と化したそれは、崖下のメイリンさんに容赦な降り注ぎ、怪我をした身体で避けきれるはずもなく・・・。
しっかり完治したみたいね!
ポーションを降らせてものの数秒、むくりと起き上がったメイリンさんが、軽やかな足取りで崖の上へと戻って来た。
「・・・ちょっと」
戻って来て早々、人型に戻ったメイリンさんに、私ははたと重要な事に気が付き息を飲む。
「メイリンさん、その服・・・変身した後なのに、どうして服着てるんですか!?」
「ソコじゃナイでショ!!ビショビショじゃなイ!しかもベタベタするワ」
だってそれはポーションだから。
それよりも、獣人って服を着たまま変身出来るの?コウガはいつも破くか脱ぐかしてたのに!その所為で私が何度周囲を水浸しにしたことか!
「ちょっと!聞いてるの!?」
服の謎を聞きたい。どういう事なのか詳細に。でも、今しつこくそれを聞いたら駄目なのは分かっている。だから、落ち着いて話せる様になるまで我慢しなければ。
「あぁ、えっと。すみません。メイリンさんの怪我が酷い様に見えたので」
「それハッ・・・でも、ここまでビショビショにする必要ないじゃなイ」
「だってメイリンさんが避けるから」
「避けるわヨ。最初のアレ、脅した私を殺す気なのかと思ったワ」
「アレはちょっと加減を間違えて・・・すみません」
「―――ッ!!まぁ、私もポーションが無かったら危なかったカラ、そこは感謝してるワ。ありがとウ」
「いえいえ。無事で何よりです」
なんだかんだ言いながら、メイリンさんはやっぱり良い子だと思う。それに、こうして話していると、可愛いなぁとか思ってしまうのは、私が年上だからだけじゃ無いはずだ。
「まったく、アナタどうかしてるワ。中級ポーションに上級ポーションまデ、惜し気もなく使うなんて。言っておくけど、あの量のポーションに払うお金なんテ、私は持って無いからネ」
「そこは大丈夫。私が勝手にやった事だし、メイリンさんが居なきゃ、私も無事に帰れないしね」
「それなラ、いいけド。アナタ変わってるわネ」
「そうですか?」
「・・・ハァ。まぁいいワ。今日はもう帰りましょウ」
「良いんですか?」
「仕方無いじゃなイ。影黒豹が出るような所じゃ危険過ぎるワ。それに、アナタは違う気がするシ・・・」
最後の方は聞き取れなかったけれど、取り敢えず迎賓館に帰れそうだ。メイリンさんが常識的な考え方の人で良かった。
「とにかく!ここは危険だから早く離れましょ――――」
「―――?」
言葉を途中で切り、耳を忙しなく動かすメイリンさんを不思議に思いその視線を追うと、彼女の視線は崖下の森へと向けられていた。
「ちょっと、手遅れだったみたいネ」
何が見えるのかと目を凝らすと、メイリンさんが見ていた森の奥から、黒い影が複数飛び出してきた。
「影黒豹が、3頭?」




