秘密兵器
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
どうしたら良いの!?
考えろ、考えろ、考えろ!
まずは・・・影黒豹をメイリンさんから引き離さないと。
そこで私は、昨日アスバン様に再び乞われ、マナポーションを提供した時の事を思い出した。
影黒豹が町に侵入しない様に、魔法を使える人が森に放水をして、影黒豹の気を其方に向けさせているのだと、その為にマナポーションが必要なのだと言っていた。
だったら、メイリンさんからなるべく離れた所に水を撒けばもしかしたら・・・。
私は崖の上の、出来る限りメイリンさんから離れた場所へと走り崖淵から目一杯腕を伸ばすと、なるべく遠くを意識してスマホから水の入った樽を空中へ取り出す。
樽は私の思惑通り、私の手元から2メートル程先へ現れると、途中でぶつかること無く真っ逆さまに崖下へと落下してドパンッと音を立てて破裂し、辺りに水を撒き散らした。
すると、傷を修復し終え再びメイリンさんへ飛び掛かろうとしていた影黒豹はピタリとその動きを止め、樽の落ちた場所へ一直線に向かって来る。
凄い、本当に反応した。次は―――
「フェリオ!誰か助けを呼んで来れる?」
「そりゃ行けるけど、シーナはどうするんだよ。アイツ、崖くらい直ぐに登って来るぞ」
「ここからならアレが使えるはずだから、やってみる」
「アレってアレか!?アレはまだ実際に使ってみた事無いだろ!?」
「でもそれ以外に手が無いの!それにこのままここにいても助からないでしょ?」
「それはッ――――――分かったよッッ!直ぐに誰か連れてくるから、無理はすんなよ!絶対だぞ!!」
「うん!お願いね」
そうしてフェリオを送り出した後、私は再び影黒豹へと視線を移す。
本当は直ぐにでもメイリンさんを回復したい所だけど、水で気を引くのも限度があるだろうから、先に影黒豹をどうにかしなければ。
そこで私は、スマホから愛用の青銀の弓を取り出す。
ナガルジュナでの事件以来、少しずつ練習していたから、最近ではしっかり的に向かって飛ぶようにはなっている。とはいえこんな遠くから、しかも影黒豹の角を正確に狙って射貫けるほどの実力は無いワケで・・・。
でも私には、アレがある。
弓に矢を番え、樽の破片に気を取られている影黒豹に照準を合わせる。
大丈夫、当てる必要は無い。影黒豹の近くに射るだけで良いんだから。
キリキリと弦を引きながら、錬成する時の様に矢尻へと魔力を注いでいく。
慎重に魔力を注ぎ、限界まで魔力を飽和させた所で手を放せば、矢は重力も手伝って真っ直ぐに崖下へと飛んでいく。
お願い、成功して!
―――シュッパァッン!!
影黒豹の鼻先に突き刺さった矢はその瞬間、風の刃を生み出し影黒豹を巻き込んでパンッと弾けた。
そして後に残ったのは、砕け散った矢と樽の破片と、割れた魔石。
やったぁぁぁ!成功だ!!
私の対影魔獣用秘密兵器、魔法の矢!
想定以上の破壊力にヒヤリとしたものの、メイリンさんが無事なら今回は良しとしておこう。うん。
ところで今回使った魔法の矢。これは文字通り擬似的に魔法を発生させる矢だ。
影魔獣は普通の攻撃は効果が無く、更には魔石を破壊しなければ倒せない。
皆がいるから普段私が直接影魔獣と戦う事は無いけれど、今回の様な事も想定して自分で自分を守る術が欲しかった。
でも私の弓矢の技術では、どんなに練習しても魔石を的確に射貫くのは難しい。
そこで考え出したのが、この魔法の矢という訳だ。
皆には戦う必要は無いと散々反対され、失敗続きで危険だからと更に反対され・・・それでもなんとか説得し、試行錯誤の末に漸く完成した事を思い出せばちょっと泣けるくらいには力作だったりする。
魔力を蓄積させる効果がある魔結晶は、限界まで魔力を注ぐと破裂する。これは持続型魔道具を使用する際に、一応の注意として説明される文言らしい。でも、よっぽど小さな魔結晶でも無い限り、実際に限界まで魔力を注げる人はそう居ない。
まぁ、私は三回ほど破裂させたが・・・。
そこで私は、これを攻撃手段として応用出来ないかと考えたんだけど、ただ破裂させただけだと力の方向が定まらず、思ったほどの効果が得られなかった。
そこで、黒曜石にコウガの魔法、風の属性の魔力を付与することで、私の注いだ魔力を使ってコウガの魔法を発動出来るように矢尻を錬成したのだ。
そうして、魔結晶に少しの衝撃で破裂するギリギリの所まで魔力注いでから矢を射ると、コウガの使う風刃の魔法が辺りに広がるという、魔法の矢が完成したというわけだ。
それはさておき、今は魔法の矢の成功を喜んでいる場合ではない。
早くメイリンさんの治療をしなければ。
しかしそこで私は、はたと気が付いてしまった。
しまったぁぁぁぁ!!
どうやってメイリンさんにポーションを飲んで貰えば良いの!?
フェリオならメイリンさんの所へも行けただろうけど、助けを呼びに行って貰っちゃったし。
どうして私はこうも詰めが甘いのか。でも、反省と後悔は後回しだ。何がなんでもメイリンさんを助けなきゃ!




