上級ポーション
人心地ついたあと、なんとかメイリンさんの示す場所を見上げた先には、崖の際に生えた一本の木。
私の背丈よりも少し高い位のその木には、杏ほどの大きさのピンク色の果実がいくつも実っている。
「これがミヤマコモモヨ。本当はもう時期外れなんだけド、この崖上の木だけ生りが遅いのヨ」
「そうなんですね」
成る程、こんな崖の上に来たのにも理由があったのか。
ミヤマコモモはその見た目通り、甘やかな桃の香りを漂わせていて、普通の桃をそのまま小さくしたような果実だった。
コモモって言うから、てっきりスモモみたいな果実か、そうで無ければコケモモっぽい果実を想像していたのだけれど・・・思った以上に桃なのね。
「普通に食べても美味しいのヨ。アタナも食べてみれバ?」
メイリンさんがポイッと投げた実を慌てて受け取り間近で見ても、それは益々"桃"そのものといった感じで、私は言われるがままその実に歯を立て、カリッと一口。
うん、熟れる前の固めの桃。私は案外固めの桃が好きだからコレはコレで・・・と思いながら噛んでいると、その果肉は口の中でどんどんと甘味を増し、熟れた桃の香りがブワッと溢れ出す。
凄い。噛んでいくうちに熟れた桃の味になっていく。
「面白いでショ。食べ終わったラ、ポーションの錬成をお願いネ」
見た目も味も香りも桃なのに、不思議な果実。でも、採った瞬間から熟れていくのだと考えれば、30分以内にポーションを錬成しなければならないのも納得できる。
「じゃあ、早速ポーション作っちゃいますね」
本当は一番大きな釜で作りたい所だけど、狭い崖上のスペースを考えると・・・中位の釜にしておこうかな。他の材料も残り少ないし、これでも瓶20本くらいの量は作れるよね。
え~と、上級ポーションの材料は・・・水とリコリスの葉束を4束、それからミヤマコモモが・・・この分量だと5個か。
さっき食べた感じだと、ミヤマコモモは採って直ぐはまだ熟れてないみたいだったから、少し時間をおいて完熟させた方がいいかな?
フラメル氏のレシピノートをスマホで確認しながら、上級ポーションの材料を釜の中へ入れていく。
この辺りはどのポーションも同じだから慣れたものだ。
「さて、準備完了っと」
「―――ちょっと待っテ!いきなりその量のポーションを作るノ!?」
「え?はい、そうですが―――」
「今までに上級ポーションを作った事あるノ?」
「いえ、初めてです」
「ハァ?魔力切れになったらどうするのヨ!」
あ・・・そうか。普通、初めての錬成って慎重にするべきなんだよね。最近は誰も何も言わないからすっかり忘れてた。
「えっと~、そう!私、人より魔力が多いので!それに、中級のポーションなら何本も錬成した事がありますし」
「そうなノ?でも、いきなりその量は危険じゃなイ?」
「大丈夫ですよ。いざとなったらマナポーションもありますから」
「・・・そういうモノかしラ?」
メイリンさんは首を傾げながらも、何とか納得してくれたのかそれ以上は何も言わなかった。けれど、私の肩の上でボソリと呟く輩が。
「普通の錬金術師は絶対しないケドな」
「何か言った?」
「いや、何も?」
「そう?じゃあ、そろそろミヤマコモモの状態も良さそうだし、お願いね」
「はいはい」
――――――シュゥゥゥゥゥゥ・・・
「よし!完成」
ちなみに、私が錬成すると効果の高いポーションになる原因は魔力の注ぎ過ぎだった。でも今は"出来た"っていう感覚を覚えたから、効果は普通の上級ポーションと同じはず。
まぁ、分量より多く出来てしまう現象については、未だに明確な原因が分からないんだけどね。
フェリオ曰く、私が魔力を注ぐ時に錬水と同じような現象が起こってるんじゃないかって話だけど、確証はないみたい。
出来上がった上級ポーションを取り敢えず一本小瓶に詰めれば、澄んだ緑色の液体が陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
「本当に出来ちゃっタ」
メイリンさんが小瓶を見つめながらポツリと呟く。
「じゃあ、はい!これ、お父さんの分」
「え?えぇ、そうネ。ありがとウ」
メイリンさんは浮かない顔をしてその小瓶を受け取ると、何故か黙り込んでしまった。
きっとお父さんの事が心配なのね。
私は残りのポーションを釜ごとスマホへ仕舞い(実は詰める小瓶がないのだ)、再びミヤマコモモの木を見上げる。そこには、まだ沢山の実が枝をしならせている。
「メイリンさん、ミヤマコモモの実ってもらっていっても構いませんか?」
「・・・えぇ、構わないワ」
「ありがとうございます」
メイリンさんの許可を得て、ミヤマコモモの実を収穫していく。
ミヤマコモモの実は収穫してから30分以内に使用しなければならないんだけど・・・スマホに入れておけば、入れた時の状態が維持出来るから大丈夫。
これは普通の魔法鞄には無い効果で、スマホに入れる時にデータとして保存するイメージで錬成した所為じゃないかと思っている。
木の低い所に生っている実を中心に、採り尽くさない程度に20個ほどを手早く採ってスマホへ入れ、満足した所で振り返ると、先程まで少し気安い雰囲気だったメイリンさんが、出会った日の様に険しい表情でこちらを睨み付けていた。
「錬金術師って、本当に強欲なのネ」
「え?あッ!すみません、採り過ぎでしたか?」
「量の問題じゃ無いワ。アナタも知っているでショ。その実は採ったら30分もすれば腐ってしまうのヨ?持ち帰った実でポーションを錬成してモ、ちゃんとした効果は望めないって」
「それは―――」
「そんな紛い物のポーションを、一体いくらで売るつもりなのかしラ。結局、アナタも他の錬金術師と同じネ。これで心置きなくアナタを脅せるワ」
スマホの効果を説明しようにも、説明したらしたでややこしい事になりそうだ。それに、メイリンさん今、脅すって言わなかった?




