〈黒虎抹殺会議
「母様、今の者ハ?」
影黒豹討伐会議への参加を認められなかった事を苦々しく思いながら、コウザは呼ばれるまま母イジャランの部屋を訪れた。
「ただの小飼ヨ。デモ、なかなか良い情報を持って来てくれたワ」
「良い情報、ですカ?」
「エェ。メイリンがコウガの存在に気付いたそうヨ。それで迎賓館まで突撃したらしいワ」
「ナッ!?それでは、皆に知られるのも時間の問題ではありませんカ!!」
コウザはそれを聞いて混乱していた。母はそれを良い情報だと言うのだ。会議にすら出席を許されず、その上コウガが生きていた事が父に知られれば、自分の立場は更に弱くなる。
そして、コウガがあの事を父に報告すれば、良くて勘当、最悪は罪人として拘束される可能性だってあるのだ。
「ウッフフ、慌ててはダメ。アノ子はどうやら、同行してる錬金術師の言いなりになってるらしいノ」
「あの錬金術師ノ?」
「エェ。恩人と言ってるらしいけド、錬金術師が無償で施しを与えるワケ無いもノ・・・もしかしたら、別の魔道具で縛られているかもしれないわネ」
「別の・・・一体どんナ?」
「多分、魅了系の魔道具でしょうネ」
「では、このまま放って置けばその内ミーミルから出て行くという事ですカ?」
コウザはそう言ってホッと胸を撫で下ろした。
顔を合わせた義兄が、自分に恨み言の一つも言わない事が不気味だった。しかも、ここ数日は大人しく迎賓館に籠っている。
でも、錬金術師に縛られているならばそれも納得出来た。
だから、このまま国を出てくれるのなら、それが一番良いと思ったのだ。
「何を言ってるノ。邪魔者は排除すべきヨ。デモ、錬金術師が側にいるんじゃ魔道具は使えないかラ・・・いっその事、消えてもらいましょうネ」
「母様、それは・・・」
「大丈夫。ちょっと森へ誘き出しテ、前みたいに黒豹ダ!って叫べば良いのヨ」
コウザは、ここまで来てゾクリと背筋を震わせた。
前は子供が故に考えが至らなかったが、今ならば事の重大さも、凶悪さも分かるのだから。
「しかし・・・」
「何を躊躇うノ?お父様がアノ子の存在を知ったラ、どうなると思ウ?きっとアノ子を跡継ぎにすると言い出すに違いないワ」
コウザはその言葉に仄暗い気持ちになった。
コウザには、これまで次期総長となるべく努力してきたという自負があった。それは、様々なモノを犠牲にして得た自らの力。
けれど、母はそれを兄という存在だけで簡単に覆るようなモノだと思っているのだ。
ただ、イジャランは知っていた。
コウガがグルバトンの長子であり、純血の獣人。更には魔法を使う事が出来る、という事実を。
獣人族にとって、魔法が使える者は貴重。そうなれば我が子の立場など、簡単に崩れ去るのは目に見えていた。
「それと・・・メイリンがアノ子に求婚したそうヨ。でも、メイリンにはアナタと番って貰わなきゃならないでしょウ?」
幼い頃からメイリンに好意を寄せていたコウザは、それを聞いて頭を過った罪悪感や躊躇いを捨てた。
そうしなければ、自分が欲しいものは手に入らないのだと理解した。
「わかりましタ。デモ、アイツは今まで迎賓館から一歩も外へ出ていませン。どうやって森へ誘き出すのですカ?」
「もちろん、餌を用意するのヨ」
「餌、ですカ?」
「そう。きっとメイリンがあの錬金術師を森へ連れ出してくれるワ。後はそれをアノ子に教えてあげれば良いのヨ。ご主人様が危険だゾってネ」
「何故メイリンが?」
「ウッフフ。さっきの小飼、アレはメイリンの侍女なノ。きっと上手く誘導してくれるはずヨ」
そう言ってイジャランは、真っ赤な唇の端を吊り上げて愉しそうに嗤った。




