表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ5
182/264

炊きたてごはん 暫しの歓談

「そう言えば、水が無いと垂れ麦を育てるのは大変じゃないですか?」


 ごはんが炊けるのを待ちながら、私はずっと疑問に思っていた事を尋ねてみた。

 いくら神掛山の麓で川の水を確保出来るとは言っても、水田となるとかなりの量が必要だろう。


「うん?それは作物だからネ。育てるのに水は必要だけド、それは他の野菜も一緒だろウ?」


 私の疑問に、テンジン様は不思議そうに首を傾げるとそう問い返してきた。


「それでも、田んぼ一面に水を張るとなると、それなりに水が必要ですよね?」

「タンボ?タンボってなんだイ?」

「え?えぇと・・・水を入れて、池みたいにした畑なんですけど――――」


 あれ?なんで?

 鍋蓋の話をした時以上に、みんながキョトンとしてる気がする。


「池で作物は育たないヨ?」


 なんだろう、凄く話が噛み合っていない気がする。


「もしかして、シーナさんの国ではそうやって垂れ麦を育てていたんですか?」


 そんな私とテンジン様とのやり取りを見ていたラインさんに、半信半疑といった様子でそう聞かれ、私は素直に頷く。


「そうです。え?もしかして、垂れ麦は違うんですか?」


 驚く私を見て、更に皆が驚くというよく分からない状況に、その場にいた全員が言葉を失くす。


「――――――この子、アクアディアの出身じゃ無いのかイ?」


 沈黙を破ったのはテンジン様だった。

 この子、とは私の事だろう。


「はい。シーナさんは境界の森を抜け、我がアクアディア王国へ辿り着いたそうです」

「境界の森かラ?そうか、迷い子かイ」

「ッそうなんです。恐らく、私の住んでいた国はこの大陸では無いんじゃないかと」


 本当はこの世界ですら無いけれど・・・なんて思ったら、ハハハッと乾いた笑いが漏れた。


 そう、雰囲気が似ていても、ここは日本じゃない。

 多分、垂れ麦は畑で栽培されるんだ。だから、この国どころかこの大陸には水田が無い。だから話が噛み合わなくて当然だ。

 よくよく考えてみれば、垂れ麦がお米によく似ているからって、お米そのものとは限らない。普通の麦と同じで畑で栽培されていても、何ら不思議は無いのだ。

 しかも、お米だって畑で育つ品種があるって聞いたことがあったような・・・陸稲だったかな?

 稲は田んぼで作るもの。そう思い込んでいたから、今まで思い出しもしなかったけれど。

 だから、皆の不思議なモノを見るような、物珍しげな視線も仕方の無い事なのだ。


「以前から感じてはいましたが、シーナさんの国は本当に水に困っていなかったのですね」

「一体、どこにあるんだろうネ。そんな大陸があるなラ、是非一度行ってみたいヨ」

「外海は酷く荒れてるから船を出すのは難しいだろうけど、姫の故郷なら僕も行ってみたいな」


 これまであまり深く聞かれなかったけれど、一度話題に上がってしまえば、皆が興味津々といった感じで会話が広がっていく。

 でも、つい先刻常識の違いを思い知ったばかりだ。これ以上話をしたら更に迂闊な事を言ってしまいそうで怖い。


「わッ私の国は小さな島国だったから、この大陸よりも水不足の影響が少なかったんですかねぇ~・・・あッ!そろそろごはんが炊き上がりますよ!わぁ、久しぶりのごはん、楽しみだなぁ」


 若干、ほんの少しわざとらしかったかもしれない。でも、本当にごはんは炊き上がったし、楽しみなのは本当だから、嘘ではない。


「誤魔化すの下手か」


 なのに、フェリオはボソッとそんな事を言うし、皆もなんだか哀れみを含んだ切ない視線を向けてくるし・・・。

 あれ?もしかして、故郷に帰れないからって不憫に思われてる?しかも、空元気で強がってると思われてない?

 全然そんな事は無かったのに、皆がなんだか申し訳無さそうで、私の方が申し訳ない気持ちでいっぱいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ