対策強化
「それにしても、ミーミルの建物はやっぱりアクアディアとは違うんだね」
迎賓館のメイドさんに案内され、割り当てられた部屋へと落ち着いた私とフェリオは、二人揃ってキョロキョロと室内を見回していた。
ここまで来る間にも、板張りの回廊や縁側を通り、この部屋にも組木格子の間仕切りがあったりと、最初の印象と違わず懐かしい趣ある建物なのだ。
残念ながら畳敷きでは無かったけれど、それでも懐かしいと感じるには十分だった。
神社だったこともあり、私の実家もかなり古い家だったから、こういった雰囲気はやっぱり落ち着く。
でも、落ち着いてばかりもいられない。
だってここは敵の本拠地みたいなものだもの。
今こうしている間にも、コウガは狙われているかもしれないんだから。
私は早速、備え付けのテーブルの上に錬成用の小釜を取り出すと、解毒薬の材料である水、リコリスの葉、ダンドリオンの根に加えてエッグマッシュを入れる。
「ほら、フェリオ。お願い」
「はいはい。全く忙しないヤツだな」
――――――シュゥゥゥゥゥゥ・・・。
「よし、耐毒薬完成!じゃあ、次!」
今度は別の小釜に水、リコリスの葉、エフェドラという植物の茎、それからこっちにもエッグマッシュ。
「フェリオ、お願い」
「はいはい・・・」
――――――シュゥゥゥゥゥゥ・・・。
「耐麻痺薬も完成!これを小瓶に移して・・・」
出来た分のポーションを小瓶に移し蓋をすれば、あっという間に対コウザ用ポーションの完成だ。
あとはこれをコウガと、念の為にナイルに飲んで貰おう。
「そうと決まれば、早く二人に届けてこよう」
「ほんっと忙しないな!」
フェリオに文句を言われながらも、私はその後コウガとナイルの部屋へ突撃し、二人がしっかり二つのポーションを飲み干すのを見届けた。
コウガには「そこマデしなくても」って言われたけど、安心出来る材料は多いに越したことは無い。
そうして慌ただしく過ごしていれば、宴の時間はすぐにやって来た。
場所はこの迎賓館のホールという事で、ラインさんと護衛の為に同行した騎士4名、それから私とフェリオは、コウガとナイルを残して会場へと向かった。
「でも、やっぱり腹が立ちますよね!」
二人が参加出来ないなんて、どうにも釈然としない。
今からでも二人を連れて乗り込んでやろうか?と思わなくも無い。
「そうですね。私も今回の対応は有り得ない事だと思います。ですが・・・」
当人達が然程気にしていないのと、今回ミーミルにはウールズとの仲介を頼んでいる手前、あまり強く出られない、という事情もある。
「下手な事をして関係が悪化したら、ウールズへ入国出来ないかもしれませんしね・・・」
「はい。明日にはウールズへ向かいますし、二人には申し訳ありませんが、一日だけ我慢して頂きましょう」
ラインさんとそんな話をしながら到着した宴の会場は、広い部屋に大きな円卓が置かれ、そこには既にテーブル一杯のご馳走と、ミーミルの主要人物と思われる人達が揃っていた。
「ようこそ我らがミーミルへ」
その中で、真っ先に立ち上がり握手を求めた人物。
コウザと同じ黄色に黒の縞模様が入った耳と尾を持ち、しっかりとした体躯と鋭い眼光をしたその人物は、コウガとよく似ていた。
「私はグルバトン・グェイア。ミーミルの代表をしていル」
やっぱり。この人がコウガのお父さんだ。
こんなに似てるのに、毛色が違うってだけでお母さんの不義を疑うなんて・・・その目は節穴ですか?
「アクアディア王国より参りました、ラインヴァルト・リバー・グトルフォスです。この度は此方の要望を受け入れてくださり感謝します」
私がそんな事を考えている間にもそれぞれの挨拶は進み、一通り終わった所で席に着くと、コウガのお父さん、グルバトン氏がコウガと同じ低い声で、宴を始める前にこう切り出した。
「まずは、ウールズへの入国に関してだガ、申し訳ないが直ぐに向かう事が難しくなってしまっタ」




