重なる風景
結局、フェリオが何を言いたかったのか分からないまま、私はベッドに入り―――
そして、またあの夢をみた。
不思議な形の丸い窓の外は、何時も雨が降っていて、ずっと窓には雨が伝っていた。
そこから見える景色は、小さく見える町並みと遠くの山々。
朝が来て、昼が過ぎて、夜になる。
春が来て、夏が過ぎて、秋が深まり、冬になる。
真っ暗な部屋で、その窓だけが鮮明で。
水に揺らぐ景色を、ずっとずっと眺めてる。
子供の頃によく見ていた夢。
でも、今日の景色は少し違った。
いつもは降っている雨が止んで、いつもよりはっきりと景色を眺めることが出来た。
春には、薄水色の花に囲まれた美しい白亜の城が。
夏には、濃い緑の葉を悠然と繁らせた大樹が。
秋には、黄金色に輝く広大な田畑が。
冬には、一面を真っ白に染める雪景色が。
それだけじゃない。
美しい花を咲かせた大樹も、鮮やかに紅葉する大樹も、雪が降り積もる大樹も・・・今日の夢では良く見えた。
目が覚めて、思い返す。
ずっと雨越しに見ていた風景は、神の肘掛山からの景色に良く似ていた。
でも、そんなはずは無い。
だってこの夢は、私が小さな頃によく見ていた夢だから。この世界の風景を夢にみるなんて有り得ない。
それに、夢の景色は山中街道よりももっとずっと高い場所からの視点だった。
きっと、今日見た景色がいつもの夢に反映されただけだ。
夢の景色と似てたから、ごっちゃ混ぜになってしまっただけに違いない。
でも、夢の中の大樹は・・・枯れてなかった。
私が勝手に夢に見ただけ。
それはきっと、"こうだったら良いな"という私の想像だ。
なのに何故だろう。
夢の大樹が世界樹の本来の姿だと、分かるのは。
この夢を見ると、いつも少しだけ寂しい気持ちになるのは何時もの事なのに、今日は何だか不安が募る。
どうして寂しいのか、そもそも何故こんな夢を見るのか。
分からないから怖いのか、分かってしまったから不安なのか。
自分が何者なのか、自分の居場所は何処なのか・・・答えのない疑問に息が詰まる。
「―――シーナ、どうした?」
私の枕元で寝ていたフェリオが、気配に気付いて目を覚ました。
「うぅん。ちょっと目が覚めちゃっただけ」
心配掛けまいと、起こしていた身体を再びベッドへ沈め、フェリオのふわサラなお腹に手を埋めると、フゥッと安堵の吐息が漏れた。
私はここに居る。ちゃんと存在してる。
そう確認できた事に安心して、スゥッと眠気が降ってくる。
「もう、大丈夫。おやすみ、フェリオ・・・」
「あぁ。おやすみ、シーナ」




