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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ5
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普通の錬金術師①

「さて~・・・雨が降ってきたし、休憩はこのぐらいにして、そらそろ錬金術師のお店に行こうか?」


 私は全く関係ありませんよ。みたいな顔をしてそう嘯いて立ち上がった私に、フェリオが耳元でククッと笑いながら一言。


「いや、そこは嘘でも雨に驚いたフリしとかないと、逆に不自然だって」


 ・・・確かに。回りの人達は一様に空を見上げているにも関わらず、私は雨から目を逸らす勢いでした。

 まぁ、そう言ったフェリオと、ハッとした私を見て笑いを堪えているナイルも雨に驚いていないですけどね。


「いやいや、ハハハッ・・・なんのこと?ほら、早く行こう?」

「では、ご案内致します」


 明らかに挙動不審な私に、それでもグレイさんは何事も無かったかの様に振る舞ってくれる。

 深く詮索しない。これもまた家令の務めなのかもしれない。流石、グトルフォス侯爵家――以下略。


 案内された錬金術師の店は、私の想像とは違っていた。

 どちらかと言えば、先程の素材屋の方がイメージには近かったかもしれない。

 いや、スフォルツァさんの例を見れば、これが普通なんだろうか?

 明らかに敷居の高そうな豪奢な佇まいのその店は、一般庶民が入るにはかなりの勇気が必要だろう。むしろ、小綺麗ではあるけれど一般的な私の服装で入れて貰えるだろうか?

 町で聞く錬金術師のイメージはかなり悪いし、もしかして追い返されたりしないよね?

 このお店の錬金術師がどうかはまだ分からないけれど、もし噂通りの錬金術師なら、一体どんな接客をしているのか見てみたい気もする。


「すみません。ちょっと一人で見てきても良いですか?」


 休憩中の広場から半ば強引に連れて来ておいて何言ってるんだって話だけれど、出来れば一般的な人が来店した際の店主の対応を見てみたい。でも、三人はどう見ても一般庶民には見えないから・・・。


「シーナ様。ご案内しておいてこの様な事を申し上げるのは心苦しいのですが、こちらの店主は大変気難しい方ですので、お一人で入店されるのは・・・」


 グレイさんが珍しく言い淀むけれど、続くナイルの言葉は身も蓋もなかった。


「姫、止めた方がいいよ。姫と違って、普通の錬金術師は大抵が傲慢で金の亡者みたいな奴等ばかりだからね」


 ・・・金の亡者って。確かに、話を聞く限りそんな感じだけど。でも、グレイさんの反応を見る限り、この店の店主は噂に違わぬ人物のようだ。


「だからこそ、かな?錬金術師のイメージが悪いのは肌で感じてはいるんだけど、私の知ってる錬金術師って、トルネとラペル、二人のお父さん。それにディーノさん。みんな良い人ばかりだから」

「そうだな。あんまりそういうヤツ等には会ったこと無いな」

 私の言葉に、フェリオも頷く。

「でしょ?まぁ、スフォルツァさんみたいな例外もいるけど、彼女は何て言うか・・・別格って感じだし。だからこそ、錬金術師のイメージの悪さがまだ納得出来てないんだよね」

「それで、どうして一人で行くなんて言うの?」

「その方が、普段通りの態度が見られそうだから。ナイル達は何て言うかこう・・・庶民には見えないでしょ?だから、お願い。最初の数分だけでも良いの」


 私が両手を合わせて「お願い!」すると、何故かグッと言葉を詰まらせたナイルが、「はぁ~」と大きな溜め息を吐き出して、苦笑する。


「姫こそ庶民に見えないと思うんだけど・・・でも僕、姫のお願いには弱いんだよねぇ。外で待ってるから、危ないと思ったら直ぐに僕達を呼んでね?」

「もちろん。ありがとう」


 ナイルの許しを得てフェリオを振り返れば、ジトッと恨みがましい視線を向けられながらも、「しょうがないなぁ」とお許しを出してくれた。


「少しだけだぞ!面白そうだから、絶対オレも後から行くからな!」

「うん。ありがとう」


 そうして、私は一人で錬金術師の店へと足を向けた。

 ギラギラと金色に輝くドアノブを回し中へと入り、豪奢な内装の店内へと踏み込んでいく。

 カウンター奥の戸棚に並ぶポーションの瓶が無ければ、宝石店か高級ブティックにでも入ってしまったのかと勘違いしてしまいそう。

 しかもその戸棚でさえ、金の装飾が施された豪華なものだ。

 ポーションなんてハリルさんの雑貨屋で普通に置いてあるのに、なんだか大層な陳列の仕方だなぁ。なんて思いながら奥へ進み、ディスプレイされた革の肩掛け鞄に目を止め、「えッ!?」と思わず声を上げてしまった。

 作り自体は至って普通のその鞄に付けられた値札には、なんと金貨100枚!

 魔法鞄だろうか?と鞄に手を伸ばしたその時、奥から鋭い声が響く。


「触るな!誰が手に取って良いと言った!!」


 驚いて手を引っ込め、声のした方へと視線を向ければ、この店の店主らしき50代位の男が更に罵声を上げながら近付いて来ていた。

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