4人で王都観光
「―――で?どうして執事さんまで一緒に行くことになったの?」
身支度を終え、グレイさんが手配してくれた馬車に乗り込んだ私に、ナイルが恨みがましい目を向けてくる。
ナイルの隣には、当然のようにグレイさんも座っている。
「ラインさんが、王都を見て回るならグレイさんに案内して貰うのが良いだろうって、提案してくれたんです」
「ライン君がわざわざ執事さんを案内に、ねえ?」
ナイルはジトッとグレイさんを睨み付けるけれど、グレイさんがそれに動揺する事はない。
「私は王都に精通しておりますし、顔も利きます故。それと、多少では御座いますが護衛としても役立つかと存じます」
「―――やっぱりそうなるかぁ。そりゃあ、ライン君も面白く無いだろうしねぇ。絶対自分で案内したかっただろうし。まぁ、予想はしてたよね・・・それで?フェリ君はどうしてその姿なのかな?そっちは僕も予想外なんだけど」
ナイルはガックリと項垂れ、私の隣に座るフェリオを恨めしげに見上げた。
その視線を受けたフェリオは、爽やか好青年な見た目とは不似合いな不敵な笑みを浮かべる。
そう。今日はフェリオも人間の姿なのだ。馬車に乗る前に突然その姿になったフェリオに、私もまだその理由を聞いていない。
「それは勿論、ナイルのその顔が見たかったから―――っていうのは冗談として」
「絶対本気だよね」
「いやいや。猫姿のオレを連れてたらシーナが錬金術師だってすぐにバレるだろ?その点この姿なら羽も隠せるし、何より最上位の妖精がその辺を歩いてるなんて、誰も思わないだろ?」
確か、人の姿をしているのはオーベロン級とティターニア級の妖精だけなんだっけ?
しかも、聖女アメリアのパートナーのティターニア級の妖精以来、そのクラスの妖精は人間界には現れていないという話だし。
それなら確かに、人間の姿をしていた方が妖精とはバレないだろう。この世界では犬や猫に服を着せる文化が無いから、猫の姿だとどうしてもバッグの中に隠す必要があるもの。
それもやっぱり不自然だし、何よりフェリオが楽しめないんだろう。
・・・まぁ、この世界の基準で見ても、容姿は明らかに最上位だから目立ちはするだろうけど。そこは一緒にいるのがナイルだし、グレイさんも歳はとっていても、絶対女性にモテると断言出来る容姿だし、フェリオだけが目立つ事は無さそう。
「うーん。ちょっと残念だけど、姫の安全にも繋がるなら仕方無いかぁ。まぁ、納得はしてないけどねッ」
それは本当に私の安全に繋がるんだろうか?
だって、彼等と一緒にいる普通な私は、必然的に周囲からの視線で針の筵ということに・・・特に女性達からの視線が怖い。
「まぁ、オレの事は虫除けが増えたとでも思ってくれ。な?」
「・・・確かに。ちょっと目を離すと、すぐに群がってくるからね」
そうだよね。ナイルもフェリオもきっと女の人達が放っておかないだろうから、分散させるのも一つの手ではあるよね。でも、相乗効果って事もあるから・・・。
でもそれなら、私は地味に目立たずに、三人の三歩後ろを歩いていれば安全かもしれない。
もしかして、出掛けにラインさんがくれたこの黒縁ダテ眼鏡はその為のアイテムだったの!?流石ラインさん。よく考えてる。
「―――ねぇ、フェリ君。姫、なんか勘違いしてない?」
「あぁ。完全にな」
「そうで御座いますね」
「――――――えッ?なんか言った?」
「うーん・・・何でもない。姫はそのままで良いよ」
「えっと?」
そのままってどういう事?眼鏡が似合うって話?
「さて、そろそろ大通りへ到着致します」
聞き返そうかと思った矢先、ガタンッと馬車が停車してその真意を聞くことは出来なかった。




