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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ5
153/264

イソラの花

 お店が立ち並ぶ大通りを進む馬車の窓から、私はルパちゃんと一緒になって「あのお店が気になる」「あの屋台が美味しそう」なんて言いながら、王都の町並みを楽しんだ。

 そんな中、漸く人混みが落ち着き住居らしい建物が増えてくると、ふとあることに気付く。


 王都の町中には水路が多い。

 水路、とは言っても水が流れている訳ではない。けれど、橋が幾つも架かったそれは正しく水路だろう。

 ここにも水不足の影響が出ているのだろうか?でも、水路って元々こんなに沢山あるもの?普通の町よりも、寧ろ多いくらいな気がするけれど。

 そんな私の疑問に、それを見越したかのようにラインさんが答えてくれた。


「王都はずっと昔、神掛山が近かった事もあって、一年の半分は雨が降っていたそうです。なので大雨に備えて多くの水路が整備されたと記録が残っています」


 王都って昔は雨が多い所だったんだ。今となっては雨が減って、乾いた水路だけが残っているっていうのは、何だか物悲しい。

 それでも、空の水路を含めてこの王都の町並みを美しいと思えるから、きっとこの姿をずっと保ってきたんだろう。


「それから・・・あそこに見える、あの木―――」


 そう言ってラインさんが指差したのは、広場に立つ数本の木。


「へぇ、綺麗だな。妖精界でも青い花を咲かせる木は珍しいぞ」

「きれーい!おそらの色」

「確かに、あの花は何度見ても綺麗だね」


 それは誰もが魅せられる美しさだった。


 真っ直ぐに伸びた幹に広がる枝。そこに葉はまだ無く、鮮やかな水色の花を満開に咲かせたそれは、私の見知った木によく似ていた。


「青い・・・桜みたい」

「サクラ?シーナさんの国ではサクラと呼ぶのですか?」


 懐かしさに、思わずその名を呟いていた。


「あ、いえ。知っている木に似ていたので。あの木はなんという木ですか?」

「イソラといいます。あのイソラの花が王都のしるべ草に指定されています」

「じゃあ、王都にしか無いんですね」

「そうですね。ただ、王都のものも随分と数を減らしてしまいましたが」

「そうなんですか?」


 なんでだろう。やっぱり雨が降らなくて枯れてしまったのかな?


「はい。あの花は元々、曇空の多い王都の空に、空色の花を咲かせる事で広がったとされているのですが、今では雨は疎か曇りの日さえ年に数日しかありませんから・・・」

「確かに、これだけ綺麗に晴れていると空色の花はあまり映えませんね」

「そうなんです。それで人気が無くなってしまって」

「綺麗なのに、もったいないですね」

「ええ。ただ、最近では保護もされているので、無くなる事はないと思います。ちなみに、我が家にも少し珍しいイソラの木があるので楽しみにしていて下さい」


 どの世界でも保護活動ってするんだ。絶滅なんてしらた取り返しがつかないものね。

 でも珍しいイソラかぁ。楽しみ!

 ―――ん?


 そういえば、いつの間にか宿屋が連なる通りを過ぎてしまった。

 私はてっきり、馬車で手頃な宿にでも送ってくれるものだとばかり思っていたのに・・・。

 気付けば馬車は閑静な住宅街、いや―――豪邸街を走っているではないか。

 王都に来るのが初めての私にだってわかる。

 この辺りは貴族の邸宅が並ぶエリアに違いない。


「あの、ラインさん?もしかして・・・ラインさんの家に向かってます?」

「??はい。何処か寄りたい所がありましたか?でも今日はもう遅いので、明日改めてでも良いでしょうか?」

「いえ、それは全然大丈夫ですけど、ラインさんのお家って、その・・・」


 グトルフォス侯爵家のお屋敷ですよね?

 なんて畏れ多くて聞けやしない。


「お?そんな事言ってる間に着いたみたいだぞ」


 動揺する私に、フェリオが特に気にするでも無くそう告げる。

 そしていつの間にか揺れの止まった馬車の扉が外側から開かれると、ルパちゃんもベクィナスさんも戸惑う事無く馬車を降りていった。

 案外みんな普通に降りていくから、もしかしたらそこまで凄いお屋敷じゃないのかな?なんて失礼な事を考えた私は、いざ顔を上げた瞬間に硬直した。


 え?博物館か何かですか?


 個人の家とは到底思えないその邸宅は、私が知っている"豪邸"と呼ばれる家の何倍も大きく、優雅な佇まいだった。

 しかも、私をエスコートする為に扉口に立つラインさん越しのその景色は、お伽噺のお姫様にでもなったかのように錯覚させる。

 

「シーナさん?」


 硬直したまま動けないでいた私に、ラインさんは不思議そうに首を傾げる。


「あ、ありがとうございます」


 そんな風にされたら馬車を降りない訳にもいかず、恐る恐る真っ白な石畳を踏みしめる。

 でも、そんな風に恐縮していたのはどうやら私だけだったみたい。

 他の面々は皆堂々としたもので、フェリオとルパちゃんに至っては、既に探検モードで動き回っている。


 まぁ、フェリオは妖精だし、更には高位の妖精らしいし?人間の尺度では測れないのかも。でも、ルパちゃんは"子供だから"で済ませるには慣れている様に見えるんだよね。

 前から感じてはいたけれど、ルパちゃんとベクィナスさんの身のこなしはどこか上品だ。もちろんナイルも。自国では高い身分の家柄だったのかも知れない。


 もしかして、この中で庶民なのは私だけ?いや、まだコウガが居る!


 期待を込めてコウガの様子を窺うけれど・・・馬車から降りたコウガは、座りっぱなしで固まった身体を伸ばすようにゆっくりと伸びをしていた。欠伸付きで。

 うんいつも通り、デスヨネ。

 コウガに至ってはどこに行っても動じなさそうな気がする。


 でも、みんなが平気だからって私もそうかと聞かれたら、答えは否だ。私みたいな小市民にはここの敷居は高過ぎると思うのですよ・・・。

 

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