王都へ
結果として、生の野菜はとても好評だった。
特にルパちゃんはトマトがお気に入りで、ピーマンの肉詰めも「美味しい」と完食してくれた。
ディーノさんも、それはそれは味わいながら食べてくれた。いや、サラダはもっと気軽に食べるものなのですが・・・うん、まぁいいか。
男性陣はやっぱり野菜よりも肉の方が好きらしく、ピーマンの肉詰めが一番人気だったけれど、意外にもコウガはキュウリが気に入ったようで夕食にもリクエストされた。
そんな事をしていたら、当初泊まる予定もなく立ち寄ったはずなのに、結局ディーノさんの所で二泊もしてしまった。
その間に品種改良した苗を増やしたり、畑仕事を手伝ったりしながら、野菜を思う存分堪能させてもらって、最後には大量の野菜と苗までお土産に貰ってしまって、ディーノさんには本当に感謝しかない。
私は私で、マナポーション数本と、ディーノさんが保管できる限界まで成長促進ポーションを錬成して置き土産にしてきたから、少しは恩返しが出来たはず。
まぁそれを錬成する頃には、ディーノさんも私の魔力量の心配はしなかったけれど。
そうして、帰りもディーノさんの所に寄る約束をしつつ、私達は漸く次の経由地へと出発した。
それからの道程は、引き続き穏やかなものだった。
―――ある一点を除いては。
道中、牙狼の群に襲われたり、森鹿に遭遇したりしたが、それは問題無かった。
牙狼はコウガが直ぐに気が付き、ナイルと二人で遠くの方で撃退してくれたし、森鹿に至ってはその美しい姿に感動すらした。
だって、枝のように伸びた立派な角は苔生して、そこから蔓花が伸びて巻き付き、角に花が咲いてるみたいだったのだ。花を生やした鹿なんて、童話に出てきそうじゃない?
とはいえ、コウガに容赦なく狩られてしまったけれど。そしてお肉は美味しく頂きました。鹿肉って美味しいよね、知ってた。
途中の町では、カリバ近郊であまり売っていない薬草を見つけたり、錬金術師のいる町でポーションの値段に驚愕したり(あんなのボッタクリもいいところでは・・・)、思う所が無いわけじゃないけれど、それも別に問題じゃない。
問題は、途中の町に寄ったり商人さんの夜営に一緒したりと、色々な人達と交流した時だった。
会う人会う人、「聖女様の水浴び」という単語が話題に上るのだ。私はその単語が出る度にギクリと肩を震わせる事になった。
原因は明白だ。同行者達は相変わらずで、私は錬水の衝動を抑える事ができず、道中何度も雨を降らせてしまったのだから。
最近では私も腹を括って、この世界が少しでも潤うなら、と少なからず受け入れてしまっている所為でもあるけれど。
だって、少しでも川沿いを離れた途端、乾いた荒野が広がる光景を見てしまえば、恥ずかしいとばかりも言っていられない。
サパタ村からの帰りにも感じたけれど、それでもまだ実感できていなかったのかもしれない。
長い旅を続けるうちに、この世界の窮状をまざまざと見せつけられ、腹を括るしかなかったとも言える。
とはいえ、とはいえだ。
だからと言って私が『聖女』なんて崇められるのは御免なのだ。ヒッソリとコッソリと目立つことなく生きたいのだ。
それでも、『聖女』の噂は思った以上に広く浸透してしまっているらしい。
今ではどの町もその噂で持ちきりだ。果たして、王都ではどうだろう・・・。
「シーナさん、王都が見えましたよ」
御者を務めていたラインさんが振り返り、視線を上げる。
ラインさんが示すその先には、遠くからでもその大きさが分かる巨大な門と、そこから左右に延び王都を囲んでいるであろう高い塀が良く見えた。
「凄い!やっぱり大きいですね!」
『聖女』の噂に不安を覚えながらも、今までのどの町よりも大きな都に、どうしたってワクワクしてしまう。
それに、ここまでの長い旅は初めてだったから、流石に疲れが溜まってきている。
だから、王都には数日滞在する予定だし、ゆっくり身体を休めて、色々な所を見て回りたいな、なんて呑気に考えてしまったのは、致し方のない事なのだ。




