大陸図
「それで?どうやってエルフの国に行くの?」
トルネに慰められながらひとしきり泣いて、落ち着いた頃にトルネが切り出す。
なんていうか・・・トルネが大人過ぎて、自分が情けない。
いや、うん。何時もの事だよ。考えないでおこう。
「えっと・・・取り敢えずエルフの国って、何処にあるの?」
「そこからかよ」
「うッ・・・考え無しでスミマセン」
何処にあるかも分かってないのに行くと決めるなんて、私もちょっと早計過ぎたかな、とは思っている。
「ほら。地図あったぞ」
そこにタイミング良く、フェリオが書棚から地図を持ってきてくれて、私達は揃って地図を覗き込んだ。
私達が今居る、アクアディア王国の在るこの大陸の中心には神の肘掛山、通称神山と呼ばれる山があり、星形をしたその稜線に沿って国境が引かれ、山から流れる5本の川がそれぞれの国の中心を流れている。
山の南側に位置するアクアディア王国の東側にエルフの国ウールズ。北東に獣人の国ミーミル。そして、北西に鬼人の国フヴェルミルが位置し、西側は少数種族の小国が集まっているらしいけれど、詳しい国名までは記載されていない。
「ミョーサダールはここ」
トルネが指したのは、神山の麓。大きな樹が描かれた所だった。
「これが世界樹?」
「そう。まぁ、オレも見たことは無いんだけどさ」
「オレは見たことあるぞ。直接じゃ無いけどな」
そう言えば、フェリオは妖精界から色々な場所を見てたんだっけ。
「ミョーサダールってどんな所なの?」
「ん?そりゃ、アレだよ。えーと・・・森の中に白い建物が並んでて、町中の白い用水路に水が流れてて、なんか綺麗な所だった気がする」
見たことがあると言うフェリオにミョーサダールがどんな所なのか聞けば、凄くフワッとした感想が返ってきた。
「なんだよ、仕方無いだろ。あの辺りも最近じゃめっきり見れなくなってたから、うろ覚えなんだよ」
物足りなさが顔に出てしまったのか、フェリオが拗ねたようにソッポを向く。まぁ、霧に浮かぶ映像を見ているだけならそんなモノだよね。
かといってそれを言ったら、またフェリオは怒りそうだけど。
「で?結局、どうやって行くんだよ」
そんな私とフェリオを見て、トルネが呆れ顔で話を進めてくれる。
「うーん。地図で見る限りだと、この辺りから?」
アクアディア王国と接しているとはいえ、ミョーサダールは山際に位置しており、長く延びた稜線に囲まれている為、直線距離で最短の道を行くのは無理そうだった。
それならば山裾の辺りから国境を超え、そこからミョーサダールを目指すしかない。
「そんな適当で大丈夫なのかよ」
旅なんてしたことが無いから、大丈夫では無いかもしれない。なんなら、国境はなんの審査も無く越えられるものなのかさえ分かっていない。
「そうだよね・・・フェリオが一緒とはいえ、女の一人旅だもんね。ちゃんと考えなきゃ」
うーん。と唸る私に、トルネとフェリオは「いやいや」と首を振って溜め息を吐く。
「一人で行く気だったのか?」
「それは絶対駄目だから。まぁ・・・多分一人にはならないと思うけど」
「え?」
駄目なの?と首を傾げれば、更に深い溜め息を吐かれてしまった。
「ねぇちゃんって・・・本ッ当に危機感無いよな」
「あぁ。それに、一人で旅に出るなんて言ったら、あの二人・・・泣くぞ」
「どうして置いてくなんて発想になるんだろうな。絶対に着いてくのに。オレだって―――」
いや・・・私だって考えたよ?
コウガとナイルが一緒に来てくれたら心強いなぁ~って。
でも、これは私の我が儘だし。夢で見ただけでなんの確証も、なんの利益も無い話で。
それに、マリアさんやラペルの事だって心配でコウガだって離れ難いだろうし、ナイルはベグィナスさんやルパちゃんと一緒に行きたいだろうし・・・。
そんな風に考えてたら、一緒に行って欲しいなんて言えなくなっちゃったんだよね。
「でも実際問題、ラインと一緒に王都へ行くのがいいんじゃないか?」
そんな事をモヤモヤと考えていると、一通り二人で溜め息を吐きつくした後、フェリオがシレッと言う。
「どうして?アクアディア王国の王都って、ここだよね?山を越えるの?」
アクアディア王国の王都クヴェレは、国の最北、ミョーサダールと同様に神山の麓に位置している。
確かに、距離的には隣接しているから近いんだろうけど、その間には神山の尾根が横たわり、山を越えなければならない。
「いや。この山にはアメリアの神殿があるだろ?確か、それぞれの国と繋がってたはずなんだよな」
「繋がって?・・・それって、この山の中を通って、それぞれの国を往き来できるってこと?」
確かに。アメリアの聖杯はあの山に安置されていて、そこから水が流れ出るなら、その水は各国へと分けられていたはず。
それに、聖女アメリアへの信仰はこの世界共通のものだから、全ての国が神殿へ通じていてもおかしくはない。
「そういう事だ」
「へぇ。知らなかった」
トルネも知らなかったらしく驚いた表情を見せると、フェリオはここぞとばかりに得意気な顔で続ける。
「まぁ、神殿に一般の人間が入れるかは分からないが、ラインはなかなかの貴族らしいからな。なんとかなるだろ」
えぇ~・・・。
それじゃ丸っきりラインさん頼みじゃない。
トルネを見れば、私と同じ様に半眼でフェリオを見ている。
「ん、なんだ?名案だろ?」
「そりゃ、確かに一番安全で確実かもしれないけど・・・」
「まぁ、結局は国境を越える手続きとか、その辺のことを相談しなきゃだろうけど・・・」
最初から頼りきりっていうのは、ちょっと・・・。
私とトルネの心の声が重なった気がする。
でも旅に出るにあたっては、ラインさんには相談しなければならないのは確かだ。
なんと言っても、私はラインさんの家の錬金術師だから。
「とにかく、ラインさんに一度会って話をしないと。それから、みんなにもちゃんと話さないとならないし」
そうだ。まずはそこからなんだよね。
はぁ・・・でもラペルに、なんて言おう。
どうしてだろう。こうして話が具体的になればなるほど、迷ってしまう。二の足を踏んでしまう。
決めたことに真っ直ぐに突き進めるような、そんな性格は持ち合わせていないから。
ラペルの泣き顔が思い浮かんで、決心が揺らぐ。
トルネは受け入れてくれたけど、それでも心なしか表情は暗い。
苦しいし、心が痛い。悩み過ぎて胃も重い。
こんな風に人との繋がりで思い悩むなんて、この世界に来る前には殆んど無かった。
そんな繋がりが持てた事は素直に嬉しいけれど、トルネから勇気を貰ったとはいえ・・・慣れない私にはなかなかの試練になりそうだ。




