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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ5
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夢の場所、現実の居場所

「・・・・一面の花畑に七色の花を咲かせる樹、か」


 不思議な夢の話を、私はフェリオに話すことにした。

 私だけでは、ラウレルールという人をどうやって助けたら良いのか検討もつかないから。それに何より、夢で見たあの場所が一体どこなのか、本当に存在するのか、それすら分からなかったから。


 すると最初の夢の話を聞いたフェリオが、フゥムと器用に猫手を口に当て思案顔を作る。


「ねぇ、フェリオ。それって―――」

「妖精界・・・だな」

「やっぱり・・・」


 まるで現実と思えない光景と、フェリオが前に言っていたのと同じ一面の花畑に、少し予想はしていた。ただ、どうして行ったことも無い妖精界の夢を見たのかは、全く分からないけれど。


「多分、聞こえた声っていうのは、母なる大樹(マザーツリー)の声じゃないかと思う」

「マザーツリーって、あの不思議な樹?」

「そう。こっちの世界でいう世界樹の事だな。オレ達妖精は、あの樹の根元にある泉から生まれるんだ、だからマザーツリーって呼ばれてる」

「そうなんだ。なんか妖精って感じだね」


 あの幻想的な泉から生まれるんだ・・・と、ファンタジーな想像に思わず感想をもらせば、フェリオは「そうか?」と首を傾げる。

 まぁ、妖精達にとってはそれが当たり前なんだから、そうなるよね。


「でも最近、マザーツリーに大きな蕾がついたんだ。しかも、その中に()()が宿った」

「それって凄い事なの?」

「そりゃそうだ。オレだって泉から生まれたんだぞ?宿ったのはマザーツリーの化身か、更に高位の妖精か―――」

「え?でも、フェリオが一番高位の妖精なんでしょう?」

「・・・オレもそう思ってたんだがな。少なくとも、オレは妖精界からこっちの世界に干渉するなんて芸当は出来ない。でも、何であれ世界樹に宿るくらいだ、妖精界からこっちの世界に干渉する事ぐらい出来るだろう」


 もしその()()が懐かしい声の持ち主だったとして、なぜフェリオじゃなく私に語りかけてくるんだろう?

 なぜ私はその声を、懐かしいと感じるんだろう?


「しかも、そいつが干渉してきたのは、今回が初めてじゃ無いかもしれない」

「え、どういう事?」

「ナガルジュナの帰りに境界の森に迷いこんだ時。後から考えれば、何かに誘導されてた気がするんだよな」


 え?あれって私が勝手に迷いこんで、勝手に遭難したんじゃないの?

 もしあれが意図的なものだったとしたら・・・何が目的?


「まぁ、そっちは確証の無い話だから、今は夢の続きを聞かせろ」


 そう促され、フェリオの話が気になりながらも、夢の続きを話して聞かせた。


「枯れかけた大樹ってのが、多分こっちの世界の世界樹だな」

「こっちの世界の世界樹?」


 そっか、妖精界にあった不思議な樹も世界樹で、あの枯れかけた大樹も世界樹なんだ。


「世界樹って、いくつもあるんだ」

「いや。正確には一本だけだ。妖精界に在るのも、こっちの世界に在るのも、同じ一本の世界樹なんだよ」

「え?でも、見た目とか大きさとか、全然違ったよ。あ~・・・でも、確かに共通点もあるかも?」


 一方は満開の花を咲かせ、一方は枯れかけ。

 同じ樹とは到底思えないけれど、よくよく考えれば、どちらも根元から水が湧き出している辺りは同じだったりする。


「だろ?まぁ、確かに同じ樹って言っても、存在として同じっていうか・・・その辺は説明が難しいんだよな」

「もともとファンタジーなモノだからね。そういうモノだと思う事にする」

「そうしてくれ」


 きっと説明されたって分からないしね。


「それで、その世界樹ってどこにあるんだっけ?確かエルフの国にあるんだよね?」


 聖女アメリアの物語に出てくるトリネコの枝が、確か世界樹の事だってフェリオが言っていたはず。そのトリネコの枝を用意したと描かれていたのが、エルフの国だ。

 それに何より、柩に眠る彼女がエルフだった。


「あぁ。確か、エルフの国にあったはずだ・・・なんだったかな、真っ白な建物がズラッと並んでて―――」


 フェリオも流石に地名までは分からないのか、工房の書棚から地図を探し始める。


「それって、ミョーサダールのこと?」


 すると、工房の戸口から不意に答えが返ってきた。


「トルネ!」


 そこに立っていたのは、トルネだった。

 その表情は、とても暗い。


「ねぇちゃん、ミョーサダールに行くの?」


 どこから話を聞いていたんだろう?


 夢を見て、ラウレルールという人の所へ行かなければと思った時、同時に思った事がある。

 それはこの家から、フラメル家から出て行く事になるんじゃ無いか、という不安。

 今回は、ナガルジュナに出掛けた時とは事情が違う。

 ただでさえ居候という立場で、ラインさんが去ってしまうこのタイミングで、まだなんの恩も返せていないのに、自分の都合で旅に出ようとしている。

 みんなきっと寂しいと言ってくれる、悲しんでくれると分かっているのに、自分の我が儘を通そうとしている。

 そんな私を、一度出て行った私を・・・戻って来たからって、また受け入れて貰える?


「トルネ・・・私ね、どうしてもそこに行かなきゃならない気がするの」

「―――って来るのかよ」

「え?」

「ちゃんと、戻って来るのかよ?」


 ギュッと拳を握りしめ、キッと私を真っ直ぐに見据えたトルネが、私の欲しかった言葉をくれる。


「戻って来ても、いい?」

「―――ッ当たり前だろ!戻って来るって約束しなきゃ、どこにも行かせないからな!!」


 それを聞いたらなんだか凄く安心して、嬉しくて、でも離れがたくて・・・泣けた。


「なんだよ。何でねぇちゃんが泣くんだよ」

「ごめん。なんだか安心しちゃって・・・トルネ、ありがとね」


 泣き笑いの可笑しな顔でトルネにお礼を言えば、トルネはクシャッと顔を歪めて涙を堪えるような表情で、「・・・なんだよ、それ」と呟いた。

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