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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ5
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寂報

「えッ!!ラインにいちゃん、王都に帰っちゃうの?」

「ラインお兄ちゃん、いなくなっちゃうの?」


 スエー子爵がやって来た次の日、私は騎士団の詰め所を訪れた。

 けれどラインさんは不在で、その場にいた騎士に聞いても、隊が違うので分からないと言われてしまい、それからは外出の度に詰め所に顔を出しては、ラインさんの不在を告げられる日々が続いた。


 そんなある日、何度も訪ねて来る私を見かねたのか、キナン隊長が近々ラインさんがこの辺りでの任務を終え、王都へ帰ることになっているという話を教えてくれたのだ。

 加えて、元々ラインさんの隊の活動拠点は王都にあるらしく、クロベリア領には特別な任務で長期滞在していただけで、次の任務でも無ければ再びカリバの町を訪れる事も無い、という事も。


 王都へ行けばもしかしたら会えるかもしれない。でも、王都はカリバの町よりもずっと広くて、この町の様に騎士と町の人々の距離が近い訳でもない。

 ましてやラインさんは本来、町の警備を担当する隊でも無いとなれば・・・

 それは、もう二度と会えないかもしれない、という事だ。


 素直に「それは嫌だ」と思った。

 あの時、ラインさんはその事を言おうとしていたのかな?最後のお別れの挨拶を?

 でもそれなら、別に言い淀む必要は無いはずなのに。


 騎士団で聞いた事を帰ってそのまま話せば、やっぱり皆驚いて、ラペルは今にも泣き出してしまいそうに目にいっぱい涙を溜め、トルネも相当ショックだったのか、ガタンッと椅子を倒して立ち上がったものの、膝が抜けたみたいにペタンと再び椅子に座り込んだ。


「まさか、もう王都へ帰っちゃったなんて事、無いよね?」


 トルネがぼそりと溢した呟きが、胸の辺りをザワザワさせる。


「でもラインくん、あの日は何も言ってなかったわよね?」

「そうなんですよ。ラインさんなら何も言わずに帰っちゃうなんてしないはずですし、この前だって何時でも呼んで下さいって言ってたくらいで・・・」


 もしかしたら何かの間違いかもしれない。

 今までだって王都へ戻る事もあったし、暫く顔を見ない事だってあった。

 今回もそうなんじゃないか。

 そう期待してしまう時点で、やっぱりラインさんと離れるのを寂しいと感じてしまっている自分がいた。


「あの、この雰囲気で言い出すのはちょっと気が引けるのですが・・・」


 皆して暗い顔をしている私達に遠慮がちに声を掛けたのは、ベグィナスさんだった。

 実はスエー子爵が来た日、白い石を回収し終えカリバの町に帰ってくるベグィナスさんを、ナイルとルパちゃんが迎えに行っていたのだ。

 どうして帰ってくるのが分かったのかと聞けば、「石の気配を感じたから」らしい。鬼人族特有の感覚なのかもしれない。


「ライン君にはイルパディアの保護をお願いしていたんです。それもあって、私達は一度王都へ赴く事になりまして、その旅路の護衛をライン君が手配してくれる事になっているので、もしかしたらその話かもしれません」


 え?ベグィナスさんとルパちゃんまで、王都へ行っちゃうの?

 でも、それならラインさんはまだカリバに戻って来るって事で。でも、ラインさんの任務が終わったと言ったのはキナン隊長だから、その情報に間違いはないはず。

 そうなると、ラインさんはベグィナスさん達を護衛しながら王都へ帰還して、そのまま王都で別の任務に着くって事だろうか?


 追加された情報が更に私を混乱させた。

 ラペルはルパちゃんまで居なくなると聞かされて我慢できずに泣き出してしまい、それに釣られるようにルパちゃんまで泣き出して、収拾のつかないその場の空気に、ベグィナスさんが困った様に頬を掻く。


「すまない。やはりこの場で言ったのは失敗だったかな」

「先延ばしにしたところで結果は変わらないよ。今の所は、ライン君と話せる機会がまだ有りそうだってトコがポイントだしね」


 ルパちゃんの背をポンポンと叩きながら、ベグィナスさんが申し訳なさそうに頭を下げ、そこにナイルが助け舟を出す。


 そっか。例え本当に王都へ帰ってしまうとしても、このまま会えなくなる訳じゃないんだ。

 あの時なんて言おうとしたのかを、聞くことができるかもしれない。


 『まだ会える』そう思うだけで、なんとなく心が落ち着いて冷静になれた気がする。


「そうだよ。ラインにぃちゃんがオレ達に黙って居なくなるなんて、そんな事絶対に無いよな」

「そうそう。だって姫がいるんだよ?そんな簡単に離れられないでしょ」

「それもそうだ。シーナもラインが居ないと寂しいみたいだしな?」


 トルネがホッと胸を撫で下ろし、ラペルとルパちゃんがスンスンと鼻を啜りながらも泣き止むと、ナイルが重い空気を吹き飛ばす軽い口調で冗談を飛ばす。そしてそれを、私を見ながらニヤニヤと笑うフェリオが受け取り、いつもの空気が戻ってきた。

 まぁ、私を(からか)う何時もの流れが多少不本意ではあるけれど。


「それはそうでしょ。みんなだって寂しいと思うでしょう?」


 だから私も開き直って、寂しいと正直に口にする。ここにいる皆、トルネとラペル、それからマリアさん。それにコウガだってナイルだってフェリオだって、ラインさんが居なくなったら絶対に寂しいはずだもの。


 あぁでも、今すごくラインさんに会いたいと思うのは、少しでも顔が見たいと思うのは、寂しいから・・・だけ、なのかな?

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