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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ5
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恩人と変人

 サラさんが妖精界へ帰って、また数日が過ぎた。

 別れ際に会えなかった子供達も漸く心の整理がついたのか、会話の中で自然にサラさんの話題が上るようになって一安心といった所。


 あの事件は色々と町に衝撃と影響を与えたけれど、結局ゲートが人為的に開かれた事実は伏せられ、表向きにはスフォルツァさんの罪は誘拐と違法薬物所持・使用という事になっている。

 確かに、ゲートを人為的に開くことが出来るなんて公表したら混乱を招くのは必至だ。

 まぁ、それ以前に聖女の噂でかなり大騒ぎにはなっているけれど・・・。

 一応ラインさんの計らいで、私はあの騒動の間ずっと意識の無い状態で拘束されていて、湖を満たしたあの巨大水球とは無関係という事になっている。

 その話が浸透したお陰か、カリバの町では居心地の悪い視線を感じる事は減ったものの、ここ数日は変な人に声を掛けられる事が増えた。


 一番始めにやって来たのは、身なりのいい商人らしき男。ラペルと二人で町を歩いていた時だった。


「君、聖女様と噂されている子だよね?本当に聖女様と同じ力があるのかい?」

 余りにも不躾なその質問に、思わず眉を顰めたのを覚えている。

「いえ、私は聖女でもなんでもありませんし、その噂とも無関係です」

 こういう輩にはきっぱりと言った方が良いだろうと、それだけ言ってその場を去ろうとしたのだけれど、男は私の腕を掴むと更に続ける。

「流石に本物の聖女様が現れたなんて、私も思ってやしないよ。でもその噂と君のその美貌があれば、君は聖女様になれる。そうだろう?君はその噂を否定せず、私の所で働いてくれたらいいよ」

 その男は商売の客引きとして、私に聖女のフリをしろと言って来たのだ。

「離して下さい。私はそんな詐欺紛いな事する気はありません」

「そうかい?それは残念だ。でも、そうだね・・・君なら働かずとも私が囲ってあげよう。まずは綺麗なドレスでも買ってあげようか」

 それって、愛人ってこと?ラペルの前でなんて事言い出すんだこのエロオヤジ!もうここまで来るとただの変質者だ。


 男の言動に辟易して何とか逃げ出そうとするけれど、思いのほか力が強くなかなか手を振りほどけず困っていた私を助けれくれたのは、意外な人物だった。


「おい!嫌がってるだろう」

 そう言って商人の腕を掴み上げ、私を解放してくれたのは―――ゲルルフだ。

 それに、スフォルツァさんから私を助けてくれた人、改めジョラスさんが私を背に庇ってくれる。

 冒険者らしく体格の良い二人の登場に怯んだ商人は、「たかだか女一人に」とか「せっかく私が」とか言いながらも、そそくさと退散していった。いやぁ、助かった。


 あの時私と一緒に湖に落ちたゲルルフは、「出遅れたから」とボヤくナイルと優秀な騎士団員達に助けられ、あの巨大水球に巻き込まれる事なく無事救助されていた。

 キスされたら人が死んだ、なんて洒落にならないから本当に良かった。

 それから騎士団に確保され取り調べを受けた二人は、薬物と魔道具によってスフォルツァさんに半ば無理矢理働かされていたと判断された事と、ジョラスさんが私を助けてくれた事を考慮して、無罪放免とまではいかずとも、こうして自由に行動が許される迄に減刑されたらしい。

 ゲルルフに関しては何度も因縁をつけられたし、最後はナイフを向けられたし、許せない所はあるけれど、正気を取り戻した彼がスフォルツァさんの事が本気で好きだったんだと、悲しげに呟く姿を見てしまっては、それ以上責める言葉は出なかった。


 今では薬物依存も快癒し、首に着けられた呪いの魔道具も外されている。その辺で私が協力したからか、こうして私を助けてくれているという訳だ。これぞ、情けは人の為ならず。


「大丈夫か・・・ですか?」

 ゲルルフに至っては、最初の印象からは全く想像出来ない程の変貌ぶりだ。

「二人とも、ありがとうございます」

「いえ、シーナ様のお役に立てて良かったです」

「あぁ。助けて貰ったのはこっちの方だ・・・ですから」


 ジョラスさんには様付けされるし、ゲルルフには慣れない敬語を使われるし・・・なんともムズ痒い。


「そうですよ。命を助けて頂いた上に、沢山の解麻痺薬まで頂いて、本当に助かりました。ありがとうございます」

「いえ、あれは買い取って貰ったんですから、お礼なんていりませんよ」

 ジョラスさんの当初の目的が、スフォルツァさんに解麻痺薬を錬成してもらう事だったと聞いた私は、事件の時のお礼として解麻痺薬を沢山用意したのだけれど、ジョラスさんはきっちり代金を支払ってくれた。今となってはむしろ大切なお客様だ。


「それはそうと・・・今日はこの子供だけなのか?他の男は連れてないの、ですか?」

「?そうですけど、なにか?」

「いや。あの手の男は他にも出てくるだろうな、と。気を付けた方がいいです」

「―――まさかぁ。あんな変な人、そうそう居ないですよ」

「いえ。可能性は高いかと。出来れば誰かと一緒に居た方が良いと思います。今日は俺達が家まで送ります」


 流石にそんなに気を張る必要は無いんじゃないかなぁ、なんて思った私の考えは、どうやら甘かったらしい。

 彼等の言葉通り、それ以来貴族様の従者を名乗る男や、別の商人。それにアメリア聖教の司祭を名乗る人、それからゴブリンを連れた錬金術師・・・等々、変な人が後を断たなかったのだ。

 ちなみにこの錬金術師、偉そうにふんぞり返ってボヨンと出っ張ったお腹や、ジャラジャラと下品な程に着けられた装飾品がなんとも悪役の典型って感じで、開口一番「聖女の如く美しい娘とはお前の事だな。我が妻にしてやるから有り難く思え」なんて言い出すものだから、世の中の錬金術師のイメージってきっとこんな奴の事なのね・・・と妙に納得してしまった。

 まぁ、一緒にいたトルネとラペル、それから私自身の肩に妖精(格上)がいる事に気付くと、これまたそそくさと退散したけれど。


 そんな事が続いたから今日は家から出ずに過ごしていたのに、今フラメル家の目の前には貴族が乗ってそうな豪華な馬車が一台。

 身分制度があるこの世界。錬金術師と言えど下手な貴族には逆らえないらしいし・・・面倒な事にならなきゃいいけど。

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