夢と現実②
―――ゴボッ・・・
肺に残っていた最後の空気を吐き出して、私は大量の水を吸い込んだ。
肺に水が入る苦しさに身構えた私は、直ぐに自身の異変に気付く。
―――苦しく、ない?
それどころか、水に身体を委ねると酷く心地よく、フワフワとして眠ってしまいそう。
もしかしたら、息が出来ずに意識が無くなっているだけかもしれない。
人間、案外死にそうな時って苦しくないんだなぁなんて、相変わらず動かない身体と違って、割りとしっかりと働いている意識の中で考える。
凄く、変な感じ。
頭はハッキリしているのに、身体はピクリとも動かない。
耳の後ろがサワサワして、冷たい水に包まれて、沈んでいく・・・。
それは、子供の頃に見ていたもう一つの夢に似ていた。
ユラユラとフワフワと、水の中で眠ってる。
目を開ければ、暖かな珊瑚色の光の中で、美しく優しげな声が語り掛けてくる。
なんて言っていたのかは、思い出せない。
でも、その声を聞いて私はまた目を閉じる。
これはきっと、母の胎内の記憶。
ずっとそう思っていた・・・。
でも・・・どっちの・・・
―――グンッと、軽い負荷と共に沈んでいた身体が浮上を始める。
その衝撃で、ふわっと浮かんだ疑問は霧散し・・・水に溶けて消えた。
そのまま、ゴポゴポと水を蹴る力強い音と、私の両腕を支える温もり感じていれば―――
―――ザバァッ!!
両側からプハァッ!と息を吸い込む息づかいが聞こえ、水面へと辿り着いた事を知る。
自分の顔に水滴が流れ、首の辺りにチャプチャプと水面が揺れているのもしっかりと分かる・・・のに、私は相変わらず身動き一つ出来ず、閉じられた瞼はピクリとも動かない。加えて―――
どうして?呼吸ができないッッ!?
それまで感じなかった息苦しさが、何故か水から上がった途端に襲ってくる。
なんとか空気を吸い込もうとするけれど、脳内がパニックを起こしているのか、呼吸が上手く出来ない。
息をしていない私を必死に呼ぶみんなの声は聞こえているのに、何一つ反応を返す事が出来ずにジワリと涙だけが滲んだ。
私、このまま死ぬの?
呼吸の仕方を忘れて死亡とか、間抜け過ぎじゃない?
そのまま水から引き上げられ寝かされても、気が急くばかりで身体は全く言うことを聞かない。
苦しい、苦しい、苦しい。どうして?なんで?どうしたら良いの?誰か助けて!
「シーナ!!息をシロ!」
「姫、姫ッッ!!」
肩を叩かれ、頬を擦られ、みんなが私を起こそうとする。
「シーナさん―――失礼します」
胸の辺りにそっと何かが触れた後、クイッと顎を引かれ―――。
「心臓は・・・動いています。あとは呼吸さえ戻れば・・・」
―――え?ちょっと待って。
苦しさの中でも、この状況は理解できる。
溺れて呼吸困難からの心音確認、そのあとって・・・。
いやいや。アレって基本、される側は意識が無いはずでは?息が出来なくて苦しいのに、変なドキドキまで加わって、窒息する前に心臓がどうにかなりそうなんですが!?
なんて考えている間にきゅッと鼻を摘ままれ、顎を固定され、開かれた口を塞ぐのは――――
―――プシュッ!
「―――グッゴホッゴホッ―――ハッハァ・・・」
閉じていた気道をこじ開けるように空気が吹き込まれ、耳の後ろ辺りから抜ける様な感覚がして、私は口から呼吸することを思い出す。
すると呪いが解けた様に身体の自由も戻り、私はゆっくりと瞼を開けた。
―――――――――ッッッ!?
そんな私の視界を占めるのは・・・
しっとりとした金髪からポタポタと滴を落とし、濡れたシャツに透けた素肌がセクシーなラインさん。
露になった褐色の上半身が水の玉を弾き、夕陽を浴びてキラキラ輝いているナイル。
黒髪を無造作に後ろに流し、靭やか肉体を惜しげもなく晒したコウガ。
そして、びしょ濡れで一回り小さくなった緑の猫。
私を取り囲み、覗き込む男たちの姿だった。
「シーナ!シーナッ!」
「シーナさん!大丈夫ですか!?」
「姫、無事?痛いトコ無い?」
「シーナ・・・良かッタ」
―――いや、待て待て。肌色率高過ぎ。
しかも、さっきの・・・人工こきゅ・・・
ブワワワワッと湧き上がる、血液と魔力。
さっきまで蒼白かった頬は、きっと真っ赤に染まっているに違いない。
大変な事になりそうな予感に、子供の頃に祖父と一緒に覚えた祝詞を頭の中で必死に唱えながら、なんとか落ち着こうと試みる。
けれどそんな努力を無視する輩が―――
コウガが唐突に身を屈め、いや、身を屈めてくれるのは有難いんだけど・・・全裸だし。
それは有難いんだけども・・・近くない?
顔、近くない!?
―――ぴと・・・。
ッッッくち、唇に、唇が!!
「なッ!?コウガ、何をッ」
「あぁ!ズルい!!僕も僕も」
「―――ラインもしたダロ?」
「いや、私のはちがッ」
コウガはさも当然と言わんばかりにニヤリと笑い、今更ながらに照れたラインさんは赤くなった頬を片手で隠しながらも、自分も!と私に迫るナイルの肩を押し留める。
え?今・・・なにが起きたの?現実?
ラインさんに人工呼吸されて、水も滴る良い男達に囲まれ、最後は全裸のコウガにキスされて・・・
カタッカタカタカタカタカタ・・・・
私が寝かされた桟橋が、小刻みに揺れる。
堪えきれない衝動が、物凄い勢いで噴き出してくる。
「お、おい。シーナ、大丈夫か?魔力が大変な事になってるぞ?」
それまでニヤニヤしながら傍観していたフェリオが、恐る恐るといった感じで問い掛けてくるけれど、私にだってもう止められない。
コポッ
コポッコポッ―――
「ダメ。もう・・・無理ぃぃ」
「耐えろ、シーナ!おい、お前ら!揉めてる場合じゃ無いぞ!!」
―――コポッ・・・ゴポゴポッッ―――




