火蜥蜴、発見
ラインさんの放った眩い光は、影魔獣の大きく開いた口の中に溢れて、口の中からその頭を吹き飛ばす。
スプラッターな光景を想像して顔を青くした私は、吹き飛んで散らばった黒い塵が霧散していくのを見て、そう言えば影魔獣ってそうだったな、と変な所で安心してしまった。
いや、全然安心したらダメなんだけど。なんと言っても、吹き飛ばされた胸部から上が既に再生し始めているし。
うわぁ・・・とその様子を眺めていると、影魔獣の胸の奥に、黒以外の色を見付けて息を呑む。
それは熾火の様に仄かな、赤い魔力の輝き。
小さな檻の中で、赤い鱗に覆われた身体を守るように丸めて、今にも消えてしまいそうなその魔力の主は―――
「スフォルツァさんの、妖精?」
そう呟くと、フェリオが「え?」と私の視線を追って影魔獣を見るけれど、その頃にはもう頭半分まで再生が進み、その姿は真っ黒に覆われて見えなくなっていた。
「サラマンダーがいたのか!?」
「うん。前に見たスフォルツァさんの妖精だったと思う。胸の所、両前足の真ん中辺りに見えた」
「え、それってどういう事?」
ラインさんの攻撃で足を止めた影魔獣から距離を取ることに成功したナイルが、湖の畔に陣取った騎士団の後ろに着地しながら、私とフェリオの会話に首を傾げる。
「多分、あの女がサラマンダーを利用してゲートを開いたんだ」
「そんな事できるの!?」
「分からない・・・でも、スフォルツァさんが言ってたの。自分の妖精を贄にしたって・・・」
どうやって、なんて分からない。人為的にゲートが開けるなんて大問題だし、贄にされた妖精がどうなるのかも・・・。
「助けられるか?」
いつになく真剣な眼差しのフェリオに、もう一度影魔獣の姿を見上げる。
「あの子・・・サラマンダーの魔力は、まだ影の魔力に浸食されきって無かった。あの中から助け出せれば・・・」
絶対とは言い切れない。でも可能性は、ある。だから・・・
「ラインさんッッ!!コウガッッ!!」
早々に再生した影魔獣と対峙し、バリバリと雷を纏う剣を構えていたラインさんと、いつの間にか虎型になり風の刃を纏った爪で影魔獣を狙っていたコウガを、大声で呼ぶ。
基本的には二人とも、背中にある背ビレの様に突き出た魔石を狙って攻撃しているけれど、影魔獣だってそこを守ろうと動くから、それ以外の場所で攻撃を受ける事になる。
二人の攻撃が影魔獣の胸部に直撃して、そこがまた先刻みたいに吹き飛んでしまったら、サラマンダーが無事でいられるとは思えない。
「シーナさん!無事で良かった」
「シーナ、どうしタ?」
私の呼び掛けに、二人は他の騎士に影魔獣の足止めを任せて、直ぐにこちらへやって来てくれた。
「ラインさん、危ない所をありがとうございました。コウガは大丈夫?怪我してない?」
ラインさんに助けて貰ったお礼を言い、コウガにポーションを渡してから、私は二人にサラマンダーの存在を告げる。
「だから、どうにかして助けたいんだけど・・・」
「そうですね。妖精は元々保護対象ですし、何故そんな事になったのか、その辺りの事情を把握する為にも、救出は絶対条件でしょう」
「なら・・・どうスル?」
サラマンダーに攻撃しないように、なんて気を使っていては、こちらに被害が出かねない。
どうにかして影魔獣の動きを止めないと。
「だったら、僕が魔法で足止めしてみるよ。まぁ、そう長くは無理だと思うけど」
「そうですね。ナイル殿の魔法であれば可能かと。それならば、私が影魔獣の首元を攻撃するので―――」
「俺が妖精を確保スル」
私がどうしようかと考えている内に、あれよあれよと三人で話し合いは進み、どうやら作戦が決まったらしい。当然と言えば当然だけど、私に出来る事は無さそうだ、と少し疎外感を覚えていると、
「シーナ、妖精ガ見えたラ、教えてクレ」
と、コウガが私の心を読んだ様にそう言ってくれた。
私は自分も協力できる事が嬉しくて、大きく頷く。
「うん、わかった!みんな、気を付けてね」
「アイツを頼む」
三人に向かって深く頭を下げたフェリオに、「もちろんです」「あぁ、任セロ」「ご褒美は姫にお願いするね」と、口々に言いながら・・・て、ちょっと待った!ご褒美って何だ?
「わかった、期待しててくれ」
「え?え?ちょっと!?」
もちろん、サラマンダー救出に尽力してくれる事に感謝はするし、助けに来てくれたお礼だってしようとは思ってる、けどッッ!
ナイルとフェリオが言う『ご褒美』は何となくニュアンスが違う気がするのよ。
とは言え、既に飛び出して行ってしまった三人を呼び戻してまで否定する事も出来ず、今は気持ちを切り替えるしかない、と影魔獣を見据える。
まったく、とんでもないご褒美を要求されたら、コイツの所為だ!




