表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ4
114/264

〉その頃彼等は~カリバの危機~

 突然同じ言葉を叫んだコウガとナイルに、騎士達は二人の視線の先を見るが、その先に船を見つけることが出来ずに首を傾げ、それ所ではないとゲルルフを追いかける。

 しかしラインと数名の騎士は立ち止まって二人に並ぶ。


「どうしました?船というと・・・」


 視線を向けた先は町の対岸、南の森の湖畔だったが、そこには何の違和感も―――。


「―――船?」


 対岸という事もあって小さく、はっきりと形を捉える事は難しいが、桟橋には確かに船が一隻停まっている。


 昔は南の森でも伐採や採取が行われていたが、周辺の森が減り牙狼が多く住み着き始めてからは、町の人間は殆んど対岸へは寄り付かない。

 船の繋がれた桟橋も放棄されて久しく、整備もされていないはずのそこに船が停まっているのは違和感がある。

 しかし、彼等は一見しただけではその船の存在に気付かなかった。いや、目には入っていたが、その存在を気に止めなかった、と言った方が正しい。

 しかし、改めて見ればその船には違和感しか無く、何故自分は一度見過ごしてしまったのかと自己嫌悪に陥る者すらいた。


「明らかに怪しいですね。あれは認識を阻害する魔道具でも使っているんでしょうか?」

「多分ね。姫が前にあの辺りで赤いドレスの幽霊を見たって言ってたし・・・考えてみれば一番怪しいよね」


 ナイルは言うが早いか、高く飛び上がる。

 残念ながら一度で湖を飛び越す事はできないが、木々や建物を気にせず進めるナイルは普通に走る騎士の何倍も早い。


「俺も行ク」


 そう言ってナイルとほぼ同時に飛び出したコウガもまた、身体強化と風魔法を駆使して尋常では無い早さで駆け出していた。


「ライン隊長、馬を連れてきました!」


 そんな彼等を追う形で、ラインも騎乗し南の森へ向かう。

 

 どうか無事でいてくれ、と誰もが心の中で強く、強く祈っていた。

 しかし・・・そんな彼等の祈りを嘲笑うかのように、ソレは突然姿を現した。


 ―――バキィッバキベキバキバキィッッ!!!!


 不気味な轟音と共に南の湖岸に現れたソレは、鬱蒼とした森の景色を真っ黒に引き裂く。


「なッ!?あれは・・・」

「ゲート!?」

「・・・デカいナ」


 それは立ち並んだ木々よりも高く、湖面に届くほどの規模で広がり、その裂け目からザァザァと滝が流れるかの如く湖の水が漆黒の空間へと消えていく。


「なんて事だ・・・」


 見たことも無い程の規模で発生したゲートに誰もが足を止め、茫然とそれを見つめる。


 カリバが緑豊かな暮らしを送れているのは、一重にカリバ湖のお陰だった。

 豊富とは言えないまでも、すぐ側に水源があるからこそ、そこは町として成り立っていたのだ。

 そんな貴重な水はゲートの向こう側へとあっという間に消え、その水量は瞬く間に減っていく。

 それはカリバに住む全ての人々にとって最悪の事態であり、悪夢だった。


 しかし、悪夢はこれで終わらない。

 ゲートの向こうから、漆黒の鱗に覆われ長い爪を持ち、黒炎を纏う巨大なトカゲが這い出て来たのだ。


 真っ黒な体躯に真っ赤な眼。背ビレのように頭から背中にかけて突き出した、禍々しく鈍く光る黒紫の石。

 影蜥蜴(シャドウリザード)として姿を見せたそれは、カロリーナ・スフォルツァが連れていた妖精、サラマンダーによく似ていた。


「なんでこんな時に!早く、姫をッ―――」

「クソッ!シーナ・・・何処ダ」


 桟橋に繋がれていたはずの船は、呑み込まれた大量の水と共に今度こそその姿を消し、跡形もなく消え去っている。

 もしも、彼女があの船に乗っていたら・・・。

 そうでなくともあの影魔獣が暴れれば、南の森は無事では済まない。


 ただ、こうなってしまっては騎士団は影魔獣討伐を優先せざるを得ない。

 ゲルルフを追っていた数人の騎士は一人を残して南の森へ向かい、ラインもまた南の森へ向かう目的を、シーナの救出から影魔獣の討伐へと切り替えなければならなかった。


 ―――シーナさん、無事でいて下さい。


 直接救出に向かえない歯痒さを感じながらも、今はより多くの人々の命を守らねばならなかった。そしてそれが、彼女を助ける事にも繋がるのだと信じるしかなかった。

 

「南の森から迎え撃つ!各自戦闘の準備を!!」


 数多の野獣や魔獣に加え、中には影魔獣と戦った事のある騎士もいたが、これ程までに大きな個体に遭遇した騎士は、この町にはラインしか居ない。

 それでも彼等は立ち向かうしかない。彼等の後ろには、カリバの町があるのだ。


 そのカリバの町は、突然の事態に混乱状態へと陥っていた。


 空間の裂ける不気味な音は町中(まちじゅう)に轟き渡り、人々は強制的に異変を知らされていた。

 そして湖の向こうに口を開けた真っ黒な闇に恐れ戦き、その闇に消えて行く湖の水に愕然とし、そこから現れた影魔獣に絶望する。

 ある者は逃げ出し、ある者はその場に崩折れ、ある者は現実を受け止めきれず家に閉じ籠った。


「なんだよ、これ・・・」


 トルネは、全く別物になってしまった見慣れた町の風景に、それだけ呟いて絶句した。

 それでも、彼は逃げる事も、折れることも、閉じ籠る事もしない。


「あの三人がいれば、アレは大丈夫。オレが出来ること・・・ポーションが必要だ。あとは・・・」


 それでも考えてしまう。

 ここに彼女が居てくれたら、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ