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8話 【バァル星系外縁部、転送門宙域戦2】

 戦線から後方4.2の距離。



 紅夜からの通信にヘリントンは鼻歌交じりに答える。


「まーかせて♪」


 ヘリントンの乗艦【アクリス】はステルスモードで戦闘領域となっているエリアの外縁を移動、目標としていた場所に到達した所であった。

 そしてゆっくりとその艦首を戦場方向へ転回させると。


「紅夜、もう少しだけ敵護衛艦を押さえていてくれ。出来れば旗艦もそのラインから動かさないように」

「分かった、出来るだけやってみる」


 紅夜の乗艦【クリューデアビスⅡ】が敵の軽戦艦に再度の攻撃をする為に速度を上げて突撃を始めた。

 同時に彼の率いている艦隊は攻撃を加えつつゆっくりと後退。それに釣られて敵の護衛艦隊が軽戦艦からわずかに離れ始める。


 条件は整いつつあった。だがこれ以上の戦闘は紅夜とその艦隊に余計な損害を与えてしまうだろう。

 なので少々早いかとも思ったが、ヘリントンは今から敵を殲滅する為の行動を起こす事にした。


「艦首格納庫開放」


 アクリスの艦首部分が左右二つに分割し、その内部に収容されていた格納庫部分が姿を現す。


 この格納庫とはどの艦にも必ず一つは装備されている物であり、通常は輸送任務の際に使われたり装備等を収納しておく、他のゲームで言う所のアイテムボックスだ。

 勿論容量の大きなモノや複数個を装備すればより多くの物資が積めたりするが、その分の重量増加による速度低下を招く事となるのでスピード重視の機動艦乗り達には『速度を取るか、アイテム数を取るか』の問題になる事も多く、永遠の悩みと言っても過言ではない。


 だがヘリントンは違った。


 彼は言う。「悩むなら余計なモノは一切積まなければいいじゃない」と。

 アクリスのその格納庫。そこには彼の言葉通り余計なモノが一切入る余地はなく、代わりに格納庫の容量ギリギリのとある物が一つだけ積み込まれていた。


 格納庫の扉が開き、積載されていた物が現れる。

 その内部に積み込まれていたのは一つの巨大なビーム砲であった。


「砲身展開、チャージ開始、追尾システム起動」


 ヘリントンは矢継ぎ早に命令を入力、格納庫外にまで砲身が伸びガイドレールが展開される。

 砲身にエネルギーを最大まで充填しつつ、コマンドリンクで紅夜から送られてくる戦場の詳細データを元に微調整を繰り返し。そして。


「発射!」


 戦場に向けて、アクリスの艦首から巨大なエネルギー弾が撃ち出された。


 着弾までは一瞬である。

 戦場に飛来したその一閃はクリューデアビスⅡに向けて砲撃中だった敵軽戦艦の中央部の装甲を貫通。


『敵軽戦艦に命中。損害は大破』


 AIの報告。胴体を撃ち抜かれた軽戦艦は爆発を繰り返しながらゆっくりと崩壊し始める。

 結果を見たヘリントンはチャージ時間を半分程度にし、続けて攻撃を加えていく。

 二発目は軽戦艦をカバーしようと射線に割り込んだ護衛艦を一撃で沈め、そして三発目は大破状態の軽戦艦を再び貫くと。


『敵軽戦艦撃沈』


 AIクルーの報告と共にアクリスのモニターに映し出された爆散する軽戦艦の姿。


「いよっし!旗艦撃破!」


 ガッツポーズを取るヘリントン。

 そしてアクリスのステルスを解除、艦首を閉じて格納庫を収納すると同時に紅夜から通信が入る。


「ナイスだヘリちゃん」

「おうよ、後は烏合の衆だ。残りを頼む」


 旗艦からのコマンドリンク喪失によって弱体化した敵の残存艦隊を掃討する為に動き出す紅夜の艦隊。

 一方のアクリスはエネルギー消耗を回復する為に掃討戦には参加せず少しだけ休憩する事にした。


 なお、敵旗艦を撃破したビーム砲の正体ではあるが特にこれといった特別な装備ではない。

 課金枠ではあるが普通にショップで販売されている装備であり、その名を【大口径ビームキャノン・拠点仕様】これがこの砲の正式名称である。


 だがこれは本来ならその名の通り、拠点や要塞等の大型施設に装備される超重量級な武装であって普通は艦船に装備するような物では無い。

 たとえ装備した所で通常そのままではまともに照準すら合わせられないような代物なのである。


 しかしへリントンは自分の艦の武装と装甲を最低限になるまで削って積載可能枠を開け、可能な限りの各種補助装備を積み、ゲーム進行に色々と必須である格納庫を丸々一つ潰す事によってこの砲の運用を可能にしたのであった。


 ちなみにこの砲を積み込み、一切の命中を期待せず撃つだけと言う条件ならば戦艦クラスで可能ではある。

 だがヘリントンの凄まじい所は機動艦クラスでこの砲を積み込み、命中及び有効打を放てると言う事なのだ。

 これは艦と砲のバランスと癖を完全に理解熟知し、そして彼の持つ廃人的な狙撃センスが加わって初めて出来る事であった。

 過去には幾つかの中規模会戦の勝敗を決めた一撃を放ったプレイヤーとして一部からは異名で呼ばれたりしていたりするが、正直言って普通なら誰もここまでしない。

 はっきり言って悪いが、彼はもはや周知の変態方向系プレイヤーの一人なのだった。


----


 俺はヘリントンによる攻撃で旗艦を失い、敗走を始めた敵AI艦を掃討すべく動き始める。

 普通なら戦闘継続によってこちら側の損害も増える可能性があるので見逃す所だが、今回のような海賊相手は全滅させるのが正解だろう。


「AからGは残った敵艦に集中攻撃。HからIは範囲攻撃で退路を塞ぎつつ前進」


 海賊残存艦から多少の反撃はあったものの、損傷が軽微なクリューデアビスⅡ率いる計11隻の艦隊は確実に相手を撃破して行く。

 そして数分後には最後の海賊艦が爆散するのを確認。


「よし、全部沈めたぞ!ヘリちゃん、残骸回収しよう」

「あいよー」


 宙域には海賊艦の残骸というドロップアイテムが大量に漂っていた。勿論使えそうなアイテムは全て回収しておく。


「いいのがあるかなー?撃ち残しの巡航ミサイルとか装甲パーツなんかあったら嬉しいんだけど」


 ヘリントンが合流する為に移動を開始。そして後方に控えていたヘリントンの護衛艦も動き始めたその時。


『右舷方向7.5と左舷方向7.8に艦隊を感知。後方8.5にも艦隊が出現しました』


 警報と共に索敵AIからの報告。そして。


『当艦とアクリスに対して通信が入っています。出しますか?』

「出してくれ」


 俺は短く答え、へリントンは無言で映像を待つ。

 すぐに俺達の前に通信用の別窓が開き、見た事のある三人の顔が映し出された。


「うははは!ここで会ったが1時間半!おまえらは必ずこのエリアを通ると思って待っていたぜ!」


 それはカルバルーンの路地裏でウェスタナに股間を蹴られてダウンしたモヒカンAであった。その後ろにはBとCの姿がある。

 キャラ名は非表示にしているので分からない。めんどくさいのでAに関してだけはモヒカンリーダーと名付ける事にした。


「さっきのは俺達配下のAI分艦隊よ!…ん?あの小生意気なのは居ねぇのか?どこ行った」


 いわゆるドヤ顔でそう告白した後、特定人物の存在が無い事に気が付いて怪訝な顔をするモヒカンリーダー。

 その相手は限りなくウェスタナの事だろう。だがそれよりもこいつ等はここで一時間半も待っていたのか?

 転送門はここだけじゃ無いのだが、恐らくはあちこちにさっきのような分艦隊を置いて張っていた所に俺達が現われたので追いかけて来たのだろう。


「彼女とは港で別れたよ。それよりもお前等どう言うつもりだ?金○蹴られた仕返しか?」


 そんな俺の言葉にモヒカンリーダーは。


「あの小生意気なのが居ないと言うのなら別にお前ら程度どうでもいいんだがな、だが…」


 一呼吸置いてから。


「やっぱムカツクんで、代わりにボコられろや」


 そう言うと同時にモヒカン海賊三艦隊は戦闘態勢に移行。徐々に距離を詰めて来た。


「単なる八つ当たりじゃねぇか!」


 へリントンはそう叫ぶと自分の元に護衛艦を呼び戻すべくコマンドを入力。


「くそう!ヘリちゃん、後方の護衛艦はそのまま反転して敵の足止めにした方がいいんじゃね?」


 三方向を囲まれて完璧に不利な状態からの戦闘開始。どこか一箇所でも穴を開けないとフルボッコ確定な状況である。


「ダメだ!さっきの戦闘でミサイルも底尽きかけてるし、1隻は中破してるから戦力的には微妙に期待できねぇ」


 オマケに相手の戦力も分からない状態。スキャンは行っているものの対策されているらしく詳細は未だ判明せず。


「本気でヤバイかもな」


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