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中国誤事

中国誤事 五十歩五十歩

作者: ナカタサン

元の意味

五十歩百歩:本質的には同じで、わずかな差しかない事。ドングリの背比べ、似たり寄ったりともいう。

中国の戦国時代、善政を敷いても民が増えないことに悩んだりょう恵王けいおう孟子もうしに相談したところ「戦場で五十歩逃げた兵と百歩逃げた兵、どちらが臆病か。」と問われ、「どちらも逃げたことには変わりない。」と返した。

孟子は「梁も他国も同じような施政しせいをしているのだ、民が梁に増えないのも道理である。多くを望むな。」と説いたことから。



それは古代中国での出来事であった。



人民が増えないことに悩むりょう恵王けいおう孟子もうしに尋ねた。


「我は凶作の地に居る民を豊作の地に移すなど、善政を敷き民の事を思わぬ日はない。しかしなぜ民は近隣諸国から梁に集まらぬのだろう。」


「王よ、それならば一ついくさでの話をいたしましょう。」



◇ ◇ ◇ ◇



あきらかに負けの様相を呈してきた自陣営から、今まさに戦場を逃げ出そうという兵士が居ました。

前の方には、自分より先に逃げ出した兵が前を走っています。


「はははは、憶病者おくびょうものめ戦場が怖くなったか。」


すると前を走っていた男が憤慨ふんがいして振り向きざまに言います。


「貴様とて逃げているではないか。」


「いいや、俺とお前の間には五十歩の差がある。俺よりお前の方がずっと憶病者おくびょうものさ。」



◇ ◇ ◇ ◇



そこまで聞いた恵王は話をさえぎって言いました。


「五十歩も百歩もどちらも逃げたことには変わりない。そのような弱卒など我が国には要らぬ。」


「ふふふ、果たしてそうでしょうか。」



◇ ◇ ◇ ◇



先に逃げた兵士は怒りに肩を震わせながら引き返すと、罵倒した男を殴った後怪訝けげんな顔で言いました。


「貴様、なぜけようとしなかった。」


「お前を落ち着かせるためさ。お前はなぜその方向に逃げようと思った、そして逃げてどうするつもりだったんだ。」


にやにや笑いながら五十歩の男は聞きます。


「この先にひと月と走れば俺の故郷がある。オレはこんな負け戦から逃げて故郷に帰るんだ。」


「ひと月の間野盗でもして食つなぐと。果たしてそんなお前を故郷が受け入れるかな。」


「貴様、何が言いたい。」


あきらかに苛立っている百歩の男に、五十歩の男はにやにや笑いを止め真面目な顔で言いました。


「お前には少なくともこの混乱の中で戦況を見定め、先の流れを読めるだけの力がある。だからこそ俺が目を付けたのだ。

こちらの先に半刻ほど走れば軍の本隊がある、このまま援軍を頼みに俺一人で行っては何があるかわからぬ。

だからこそ先読みができるお前と一緒に行きたいのだ。」


五十歩の男は味方の不利を察知し、後方の味方に前線が崩壊しつつあることを知らせるために逃げたのでした。

百歩の男は五十歩の男の考えに賛同し、援軍と共に前線へと戻ったことで大いに功を上げることができたのでした。



◇ ◇ ◇ ◇



「このように全く同じように見えるものでも、よくよく観察し思慮しりょを巡らせれば全くの別物であることが分かるものです。

しかし凡愚な者や大賢であっても余裕のない状況に置かれた時、人は表面だけで判断を下しその本質に辿り着くことはできません。

王が敷く善政は素晴らしいものですが、表面しか見えぬ他国の民たちにとっては『どこに行っても同じ』としか判断できぬのです。」


「では如何様にすれば良いのだろうか。」


「無理に他国から流入する民に頼ろうとせず、今ある民を永くいつくしみ梁に根付かせなさい。

さすれば民とてそれに応えてくれることでしょう。決して若き日の五十歩逃げた私や、さらに五十歩逃げた王の右腕の趙将軍の様な弱卒にはならぬと思います。」


中国誤事

五十歩五十歩:全く同じに見えてもその本質は明らかに違うという事。

または五十歩逃げた兵とさらに五十歩先を逃げていた兵、はたから見ればどちらも同じ憶病者に見えるが、その本質はまったく違うことから本質を見抜く洞察力が重要であるという事。


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