これこそ人間の醜い本来の感情だと言えるだろう。
本小説は本来の人間らしさ。
奥底に眠る黒い感情に着目して執筆させて頂いています。
主人公の葛藤。
友達に依存してしまう恐ろしさ。
彼女達は一体、
何を目指しているのでしょうか。
窓から吹き抜ける風が気持ちいい今の季節。
私、佐藤由美は黒い髪を風に靡かせていたーーー。
真っ黒な髪に真っ黒な目。
低い鼻に一重のぽてっとした瞼。
私は所謂'不細工'という類に入る顔なんだろう。
母親も父親もお世辞にも美形な顔とは言い難い。
華のJKとやらになって2年。
私はどんどん大人びていくクラスメイト達に
取り残されている気持ちで居た。
ーーー窓ガラスに薄く写る自分の姿。
(…本当に可愛くないなぁ。)
溜息混じりにそう心の中で呟く。
これでも幼き頃は「可愛い。」と、
随分と両親に溺愛され育ってきたものだ。
きっと余計に不細工に見えるのは
この内気で暗い性格のせいなんだろう。
「…由美、なーにしてるの? 」
「優樹菜…」
「何か考え事? 」
「ううん。大丈夫。」
今年、同じクラスになって仲良くなった笹原優樹菜。
常にクラスの中心に居るような子で…。
可愛くて色白でーーー。
男女共々に人気の子だ。
そしてこんな私と唯一仲良くしてくれている。
1人ぼっちの私には優樹菜しか友達が居ない。
でも優樹菜は人気者だ。
イケてる男女グループの中でも特に。
「由美は明るいのが似合うよ? ほら、笑って? 」
「え、なんで…」
「…ね? 可愛い。」
むぎゅっと強引に頬を上げられた私。
絶対可愛くないよなコレ。
長年笑っていないせいか
口元が少し痺れる。
「ねぇ、優樹菜ーーー。」
「おい優樹菜! B組の田中がC組の飛鳥に告るってよ! 」
私の小さな声を遮ったアイツ。
クラス1のイケメンらしい。
優樹菜は「ごめん! 」と
私の前で申し訳なさそうに手を合わせると
ソイツの方へ可愛らしく走っていった。
私の心の中は何故かもやもやとしていた。
感じた事の無い違和感。
ーーー私の友達を取らないで。
友達を取られるという恐怖心と
独占欲が波の様に押し寄せてくる。
その波に溺れてしまった私は自分の感情を掴めないでいた。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
「佐藤さん? 大丈夫? 」
机に突っ伏せる私の頭上。
少し濁ったような声が聞こえた。
いったい誰だろうか。
「山田さんーーー。」
「宮嶋さん何かあったの? 」
後ろの席の山田みなみ。
少し肥満気味の体型の女の子だ。
そして、ただ少し肥満気味だからという理由で
…いじめられている。
高校生とは何しも多感な時期だ。
でもだからと言って許される事と許されない事がある。
その上で"いじめ"とは何か良く考えるべきだと私は思う。
ーーーとは言え私は山田さんを助けるような事はしていない。
そういった私の様な傍観者は何よりもタチが悪い。
次にいじめられるのが怖いから。
なんて理由を付けて逃げているだけなのだ。
「私は大丈夫だよ。ありがとう。山田さんは大丈夫? 」
「え…? 」
「いやっ、その…」
私の決め込んだ質問に
山田さんは目を大きく見開いた。
そりゃ無理はないだろう。
「私は大丈夫だよ。もう慣れちゃったし。」
「……慣れた? 」
「ちょっと私が痩せれば良いだけなのにさ。なんかごめんなさい。」
ーーー知らなかった。
山田さんの性格もなにも。
私は知らなかった。
ただ、流れてくる噂しか知らなかった。
「ねぇ、知ってる? 山田みなみってさ。
あんな見た目の癖に男に超媚び売るの! 」
「何それウケる! 」
「私の彼氏の事誑かしてさ。本当にアイツうざい。」
「最低じゃんそれ。アイツ調子乗ってんじゃね? 」
トイレで下品に響く声。
つい聞いてしまったそれを
根拠も証拠もないのに私は信じていたんだ。
「やばかった! 」
そう言って私の方に駆け寄る優樹菜。
さっきまで私の事なんて放ったらかしにしてた癖に。
同じく私の机の前にいる山田さんは
優樹菜の事を見て少し微妙な表情を浮かべた。
「えっと……」
「ねぇ、由美。」
山田さんの言葉を遮った優樹菜。
その大きく潤んだ愛らしい瞳で山田さんを
横目に見ながら私の耳に顔を寄せた。
こそこそ話というものか。
「何で山田と話してんの? 」
「私が1人で居るから来てくれただけでーーー。」
わざと山田さんに聞こえるように話す優樹菜。
山田さんは傷付いた様に俯いた。
優樹菜のふわふわな栗色の髪の毛がチラチラと視界に入ってくる。
「由美、山田みたいな奴が良いの? 」
(……いじめる貴方より断然マシ。)
そう、思うのにーーー。
思っているのに、口が上手く動かない。
それはまるで否定するのを止めている様。
嗚呼、きっとこの時既に依存していたんだ。
友達という存在に。
私を認めてくれる存在に。
「山田とか…無理。」
「…でしょ? やっぱり由美は分かってるわ。」
私のその言葉に優樹菜は満足気に笑う。
山田さんは一瞬驚き、
より暗い表情になってしまった。
(……ごめんなさい。山田さん。)
心の中でそう謝りながらも
私の頭を「偉い偉い。」と撫でる優樹菜を見て
私は幸福感で満たされていた。
優樹菜が私を認めてくれているーーー。
それが狂おしい程に嬉しかったんだ。