エンドレス魔王
魔王の正体は闇に堕ちた未来の自分だった。
魔王は胸を剣で貫かれたまま、苦悶の表情を浮かべつつも喋ることをやめない。
「――お前はいずれ世界を滅ぼす。そして自分自身は滅ぼせない。だから私は……俺は、過去の自分を殺すことで全てを無かったことにしようと思ったんだ」
「……黙れ!」
「お前はいつか、必ず闇に堕ちる」
「堕ちるものか! 俺はお前みたいにはならない!」
「なるさ。お前だって本当はもう気付いているんだろう? 光と闇の狭間にいるうちは、全てのものがあやふやに映る。味方と敵の区別が付かなくなる。そしてお前は……もっとも大切な者を殺す!」
「黙れぇええええええええええええええええええええええええええええええ!」
俺は背後から駆け寄ってくる魔王を一刀のもとに両断した。
「――え?」
「――あ?」
何をやっているんだ……俺は?
俺の目の前にいたのは、袈裟に斬られた俺の恋人だった。
いや、違う。そんなはずはない。これは魔王だ。闇の軍勢だ。そうに違いない。
違う。俺の顔をした奴が魔王だったはずだ。
あれ? なんで俺はここにいる……?
俺は……。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
全身から闇の瘴気が溢れだす。
世界を正しく認識するには、闇か光か……どちらか一つの世界に身を置かなければならない。そして俺は……ようやく理解した。
「な!? 魔王!」
「あいつは……あいつはどこにやった!」
「酷い……! あの人の大切な人を、よくも!」
このままじゃ駄目だ。
俺は諸悪の根源を潰すために、自分自身を殺さなければならない。
魔王が俺を殺そうとしたように。魔王として俺を殺さなければ……。
しかし時間を超えるには代償が必要だ。恐らく、世界規模の魔力が。
「な、なんだ!?」
かつての仲間が世界の変化に目を見開く。
彼は高名な賢者の仲間入りを果たした人間だから、いち早く気付くことができたのだろう。ただまあ、気付いたところで何もできないだろうが。
俺は本当の世界を守るために、この間違った世界を滅ぼす。
そして過去に渡り、私はこの果てのない戦いに終止符を打つ。
「――私はもう、迷わない」
この手で殺めてしまった、愛しい彼女の笑顔を思い出し、私は決意する。
こうして世界は滅び、私は過去の世界へと旅立った。
この先の結末なんて、分かっていたはずなのに。