再度ね
こんばんは
『少し見せてくれませんか?』とバイちゃんが言ったので、そのまま調子に乗った感じで『ほらよ』と手渡して数秒が経過したろうか。
「あー。やっぱり」
今はもう、全然調子にノってなんかいない。バイちゃんの『あー。』と言う、かなり残念なトーンが発せられる度"ナニカ不祥事でもしたかな俺?"という気持ちになってしまう。
ソレに付け加え『はぁ』と色っぽい息遣いとは程遠いと思えるほど、コノ嫁から吐かれる深いタメ息は俺の心情を深くエグルのだった。
「この金貨百枚、古代の金貨って知ってますか?」
しっ。知らない。だが!
「別に金なんだからイイじゃんって顔してますね。ソコが浅はかなのですよ。テッカ?今の古代金貨の相場っていくらでしたっけ?」
「確か、七割程度でしたね。」
バイは、そんな事知っているかの様に淡々と……!?
この時、俺のマッハを越えた韋駄天の様な第八感がキュインと鳴ったのだ。
俺の感が言っている!
「(ヤツは、仲間を増やしている!)」
テッカに聞いた後、袋を逆さにし優しく自身の手と御胸でキャッチしてみせた。
そして、又も優しくテーブルへと広げて見せて『イナリ、コノ古代金貨相場でいくらかしら?』と言った。
「あー。かなり傷んでいますし、半分に割れているのも多いので……重さを計ってゴミを排除となると、金貨五十枚は行かない所でしょうか。」
フッ。頼れるヤツは全て先に盗られた。と、同時にお金に疎い奴らだけが俺の手元に残ってしまった。
そんな気持ちなんて知ろうともしない嫁は、淡々と己の道を進んで行った。
嫁は、イナリの意見に無言で頷いてから
「嫁価格でしたら、当初の金貨七十枚で交換しますけど?交換します?」
財布持ちの嫁達に言われたのだ。だったら素直に言う事を聞くのがベストだろう。
別に、俺の反論なんて無い。俺の味方なんて、見渡せばホタテとシバ位しかいないからな。
だから
だから『じゃ、交換してぇ』と言ってからバイちゃんの一言一言が、俺の胸に突き刺さったのだ。
「でも、可笑しな話しですね。あのボス部屋は最後から二番目の所でしたのに、たった金貨百枚で且つ!古代金貨とはね。
何人の冒険者が挑んでは、命の灯火が消えているか分からない程に!年月が経過しているのに!?全ての金貨が古びた古代金貨だなんて。
……偶然とは恐ろしいですねぇ。
……はい。金貨七十七枚です。第一の妻のサービスとして多く入れときましたので。」
最後の"第一の妻"とか意味わからん。が!サービスとはイイ響きだな。
そうやって、ヒンヤリとしたピカピカの金貨が入った袋を持って俺の頭にやんわりと乗せる。チャリっと無機質に積まれ落ちて行く感覚が、俺の頭を這って行く時……
「(バイちゃんの目……。アレは、アノ時の目だ。)」
又もチャリと袋内で崩れた時、俺は叫ぶのだった。
☆「理解していると思うが、何も考えず叫ぶなよ。」
「かちこみじゃー。」
金貨が入った袋を握りしめ、そのまま拳を天に突き上げるかのように叫んだ。勿論、本気の叫びでは無くソニックボイスを各家族に伝えた。
「なんですか?その"かちこみ"って。……あ、殴り込みですね。じゃあ、アノ古代金貨を再度持って行ったほうがイイでしょう。
ハイ。私のもっとボロイ古代金貨を十数枚紛れ込ましたので、ガンガン行って下さい。
因みに、イナリ?」
「はい。」
「最深部の部屋の二つ手前のボスだと、あそこに見えるワイン樽二つ分位の量かしら?」
チラリと見る先は、宿屋のカウンターである。
「そうですね。中身は金貨とは限りませんが、私だったら重くて邪魔になって価値が低い古代金貨だけじゃあ人間は満足しませんから、もっと邪魔な価値のある王冠と極少量の魔導具を入れておけば、とっとと帰るでしょ」
言い方!!なんだソノ言い方は!?
俺の"え?"となった仰天した顔が気になったのだろう。イナリは続いて補正してくる。
「心配しないで下さい。高価なモノを取得するヤツって、どうしても同じく高価な物を持ちたく成るモノなのです。
すなわち、高価なモノを持っているヤツ程……先におっ死ぬのですよ。クフフ。」
別に、そういうダンジョン側の作戦とか聞いてないのに何故か凄く楽しそうに語るイナリであった。
そしてコイツも
「そうね。一部の人間だけでイイのよ。情報を流すだけの無能の人間だけ生かして、ほんのちょっと……人生の十分の一にも満たない金貨でバカみたいにハシャグ有り様を見れば何時でもウケますね。
……ああ、別にアナタの事を言ってるワケではありませんよ。だってアナタは、バカですけど直ぐ死なないしバカですけど直ぐ死なない身体ですから。」
こんな雑談を聞いて俺は旅立たなければならないとは
☆「旅だったっけ?殴り込みぢゃ無かったけ?」
☆「新八。バイが二度言った事は、御得意のスルーだぜ。」
薬師のオッサンよ。一応伝えておくぞ?あんたで三度聞いたように聞こえるから、そういう援助は不要だよ。
「じゃ!行ってくるな。」
チャリっとバイちゃん私物である、もっとボロイ古代金貨を混ぜた袋を持ちながら、アイツを脳内に思い浮かべて飛んだ。
使用したのは、よくバイちゃんの後ろ姿や正面の姿を思い出して転移する魔法である。
想像魔法と転移魔法の組み合わせ。
そして
「どうだ?俺と融合し、世界を取ろうではないか!」
俺の思い浮かべた姿は、全然知らない獣人で真正面の姿だったのだが?俺の目の前にはフタルイカが怪しげに光り姿だった。
直ぐさま!ホタテの口を塞いだのは言うまでもない。
「それは断ったハズだ。私は、私が制作したダンジョンで多用に変化する人間達の様子を見るのが好きと言ったハズだ。この趣味は変えられん。」
ホタテのクネクネと移動するのは勿論の如く無音だ。
ちょいと横へ移動して、チラリと見ると俺の思い描いた"こんばんにゃ"と言った奴が見えた。
「人間に執着する程でも無いだろ?世界を見れば、多種多様の種族がいる。そんな奴等に合わせてダンジョンを作り直すのも一興ではないか?」
ここは何処だろう?
転移した場所はボス部屋かと思ったのだが、"こんばんにゃ"と言った奴の後ろにはモニターが何個か見える辺り
「(まさか!?)」
「まさか何?」
普通に喋るホタテ。
「誰だ!?」
振り返るホタルイカは特に珍しく無いし、奥の"こんばんにゃ"と言ったダンジョンシステムも顔見知りなのだ。
だから、平然と答えねばなるまいて。
「ここは、ダンジョンシステム内部兼コントロールルームなのだよ。理解したかいホタテ。」
「うん。」
いつもと同じく即返事も去ることながら、いつも以上にクネクネしてピチピチとし活きが良いホタテに乗りつつ堂々と答えたのだ。
ありがとうございました。頑張って行きます




