冒険のにおい
おはようございます
そして、私も笑っていた。
両手で机を叩きながら立つと同時に椅子を膝裏でセイッ!と突き放した。椅子は、勢いよく転げ回った。
「バイさんはお金担当。では私は?……それはな、冒険担当なのだよ。」
なんか未だ理由は分からないが、嫁が稼ぐお金と俺が丹精込めたお金は価値が違う感じがする。だから、俺と同士を募ったのだ。
「俺と冒険する奴は手を上げろ。」
ま、イナリからせびった金貨一枚は初めての頂き物だからいつかは使うつもりだけど、そんじょそこらで使うつもりは毛頭無いであろう。
『はーい』という声達を聞いて、俺達はいざ冒険へ旅立つのだ。
「あとは、頼んだ。行くぞ!ホタテ、シバ、テッカ、イナリ冒険の時間だ。」
なんだかんだで、バイ以外が冒険へと参加することになった。何度も言うが、なんだかんだで色々と面倒な話から抜け出したかったんだと思う。
結局、俺達の目の前に座っていた七人の名前は自己紹介されたけど、赤の他人の名前を覚える特殊能力なんて俺には持って無い。というか、覚える気は無い。覚えているとすれば、騎士長トマトンという男。上から読んでも下から読んでも同じでは無いが、ソレに準ずると言える名前だろう。
バイを残しては、バイが寂しく成るだろうと思い最近出しまくっている祭りの出店の景品にある蛇の玩具を想像魔法でコッソリ出し、バイの膝上に置いて『行くわ』と優しく声を掛けてそそくさと部屋を出て階段を降りた。
やはり二天王城下町のギルドとなると、結構な賑わいがある。受付の人の多さもさることながら、受注する冒険者の数も多いし冒険者に目を付ける商人も目につく。
商人と言ったが、調べたという訳では無い。ただ単に、手に指輪をしていて側には奴隷やらボディーガード風の人がいるから、勝手に俺が決めつけているだけだ。
「よし。走らないで依頼書を読みに行こうぜ。」
「でも、人がいっぱいで読めないよぉ。」
ぶっちゃけ、ホタテは文字が読めないというのは知っている。だが!俺は突っ込まない。
「大丈夫だ。こんなことも有ろうかと!」
取り出したのは、マネキンの腕。
右手でマネキンの腕の根元に付いている棒を握りしめ、左手と合掌しボソッと『俺達に見合った依頼書をください』そう言ってからブン!と振るとマネキンの手には何枚かの依頼書が掴み取っていた。
「コレを受けたいのだが!」
ピラリと複数の依頼書をカウンターに提示して見せた。
「その腕は、何処からかの死体から剥ぎ取ったのですか?答えたなければ衛兵を呼びますが。」
突然!カウンターの人が『目がぁ!目がぁ!』と叫び出したのだ。カウンターの人は目を手で押さえて痛そうにしており、突然叫び出した反動は多く他のカウンターの人を呼び寄せていた。
ま、犯人は知っている『俺の色艶が完璧な腕に向かって、何が死体だゴラァ!』と俺の脳内で叫んでいるから間違いない。
何とか耐えたのか、カウンターの男性は涙目になりながら下の方に右手を伸ばした。スウッと出て来たのは、大きなナイフを握った右手。
それが、ヒラタクワガタならマネキンの指に挟む価値はあったが、只のナイフに恐怖なんて価値は無いし別にそんなモノ見てもという事で。
『これは作り物です』と答えて、マネキンの腕を消した。その後、少し間があったがババーンと四枚も提示したのが幸を接したようだ。
涙目の男性は、少し目を擦り『ギルドランクを確認します』と状況が進むにつれて、俺のワクワク感は最高潮に達する。
「ドラゴンパーティーでよろしかったでしょうか?お間違い無いでしょうか?」
「おう。」
即答で返事するも、反応がいまいち微妙な感じである。
「パーティー編成を聞いてもよろしいでしょうか?ここには、四体のゴブリン退治が混じっていますので……参考に聞いておきたいのです。」
「このホタテは武道家で、あとは全員魔法使いだ。」
俺達を上下見る、赤い目の男性は尚も言い続けた。
「装備は何もされて無いのでしょうか?」
「代々ウチは装備しない家計なんだよ!それに、ドラゴンだから防御力が高いの!あと、魔物が近付いて来る前に魔法するだろ?装備は必要無いだろう。
なっ!?テッカそうだよな。」
「はい。魔物が来る前に魔法で倒せますし、ホタテちゃんや新八さんが攻撃すれば即ミンチでしょうから。」
ニコリと答えて見せると"えー"という反応を見せて全然信用してくれなかったが、後ろから『まだか!?』と催促をされてからボソッと『ハイハイ、分かりましたよ』と言ってから『俺が気にかけるのは場違いなのかも知れないけど、人の命が掛かってんだよぉ』と小声で言っていた。
「はい。全てFランクで、薬草と毒消し草十束・ゴブリン四体分の耳が二組・オーク討伐の荷物持ちの計四つの依頼と成ります。なお、依頼書を読んで頂けたら理解出来ますが、オーク討伐は毎日決まった時間に指定された場所へ集合して下さい。
では、無事をお祈りします。」
「任しとけって。」
という事で、カウンターを離れて少し歩き出入口付近。
「イナリ、薬草と毒消し草十束出して。あと、ゴブリンって中で飼ってたりする?」
「十束だけで良いのですか?あと、ゴブリンは汚いので、飼ってません。」
『そうか』と返事し受け取ると、スタスタと受け付けへと戻った。
「ホレ。薬草と毒消し草十束だ。」
ドサッと今しがた土から掘って来ましたと言わんばかりな土が付着しており、薬草達はみずみずしい。
「あの、今同じパーティーの人から薬草を貰ってませんでしたか?それに、アナタの口元を読んだのですが"ゴブリン飼ってる"とか聞いてませんでしたか?」
「ああ。あれは、家で色々作っているからな。薬草関係なら、ほぼ何でもあるぞ。……たぶん。もし、無くても持ってる奴他にも居るし。その過程で、生物も色々飼っているんだと思う。イナリは、飼って無いらしいけど。」
"は?って何??"と思ったのか、暫し『うーん』と停止したのち、判子でリズム良くタンタンと押すと任務完了の印が目についた。
明日もよろしく




