第93話 勇者のハーレム? 後編
またまたレビューを頂いてしまいました。
めっちゃ嬉しいですww
本当に感謝!感謝!!っす!
それと、書籍版のキャララフ画像には沢山の反響をいただきました。
ありがとうございます。
ある程度は予想していたんですが、やっぱり裕哉の体格に言及された方も多いっすねぇw
これでも最初にイラストレーター様にラフを頂いたときに「肩幅があり筋肉質な感じで全体的にガッシリした印象が欲しい」と修正していただいたんですが……
まぁ、基本的に大部分をイラストレーター様にお任せしてますので、それで良いかなとw
他のイラストはまだ見ていないんですが、古狸としてはそれほど不満はありませんw
深夜、というほど遅くはないが就寝の早い人なら寝ているだろう時間。
俺は茜と住宅街を歩いていた。
「はあ、なんか疲れた」
「あはは、裕哉の家、賑やかだよねぇ」
茜もちょと苦笑い気味だ。
メルはこの場にはいない。
王国に戻っていったからだ。
あの後も家についてどうするかとか、今後の生活とか、母さんの妊娠とかいろいろと話を続け、準備が整うまでメルは一旦帰ることにした。
新しく家が完成した後、少なくとも母さんの出産が終わり身体が回復するまでの間、メルが俺の家に滞在することになったからだ。
一応、治癒魔法の類は俺もレイリアも使えるので、メルは王都で妊娠と出産に関する回復や治療の経験を積むことにするらしい。
なのでタイミングを見て俺もある程度の期間、アリアナス王国に行く必要がある。
じゃないと意味無いし。
母さんはすでに職場に妊娠を伝えてあるらしく、連休明けからは日勤のみの勤務になるそうだ。とはいえ、流産しやすい妊娠初期に仕事を続けるのは心配ではあるが、こればかりは本人の希望なのでどうしようもない。
せめて不測の事態に備えて影狼を母さんに付けることを茜も提案したのだが、これも「かえって気を遣う」と拒否されてしまった。
なので、ガッチリと保護するための魔法具でも作って持たせようと思っている。
茜と隣り合ってのんびり歩く。
最近は忙しくてこういった時間は貴重だ。
俺の家と茜の家のちょうど中間地点くらいにある小さな公園が目に入ったので、自販機で飲み物を買い、茜を誘ってベンチに腰掛ける。
茜の帰りが遅くなればまた親父さんが不機嫌になるだろうが、そうでなくても俺に対しては不機嫌なので少しくらいは良いだろう。
あの人との和解は半ば諦めている。
「しっかし、今更弟妹かぁ。流石にビックリだわ」
「ホントねぇ。でも、おばさんって最近すっごく若々しいし、私から見ても綺麗だと思うわよ? 美魔女って感じで」
自分の親って先入観があると違和感ありまくりだな。
美魔女……なんか違うな。
俺が微妙な顔をすると茜はクスッと笑った後、不意に真面目な顔をする。
「ねぇ、裕哉。昨日の事故の事なんだけど」
「ん? どうした?」
「お父さんが言ってたの。ああやって人を救っても恨まれることがあるって。それに裕哉は異世界にいたときにそういった経験してきたってメルさんに聞いた」
「……そうか」
「裕哉は辛くない? 精一杯人を助けるために頑張ったのに、そのせいで恨まれるなんて」
茜の言葉にしばし考える。
それは俺が異世界で散々悩んで、葛藤した事だ。
ただ、言葉にするのがちょっと難しい。
「まったく何も感じないってのは流石に無いけどな。ただ、俺の中で割り切りっていうか、線引きはできてるんだ。
メルに聞いたかも知れないけど、異世界で旅をしていたとき魔物や魔族、盗賊に襲われる人や村を沢山見て来た。もちろん助けられる命は助けてきたつもりだけど、間に合わなかったり、一度に複数の場所を襲撃されて助ける場所を選ばなきゃならなかったり、間に合ったとしてもそれでも命を落とす人だっていた。
遺族の人達から詰られたことも1度や2度じゃない。そもそも敵対した相手側から見れば、俺は敵そのものだしな。こちらの心情や目的は関係なく、俺を恨んでる人は沢山いるだろうさ」
茜は俺の語る言葉を涙を浮かべながら真剣に聞いている。
「それでもさ、俺は神様じゃない。俺の手はそんなに遠くまで届かない。だから俺は俺にできる範囲で出来る事をする。
俺が守りたい相手は全力で守るし、それが最優先だ。それ以外は状況次第だな。
冷たいかも知れないが、自分の身や生活を犠牲にしてまで正義の味方をするつもりは無い。その結果恨まれるなら、それが正当な物なら甘んじて受け止めるし、そうでないなら無視する。何かしてくるなら薙ぎ払う。
もちろん、罵倒されれば傷つくこともあるし怒りだって感じる。だけど、俺には支えてくれる家族や仲間がいるからな。俺自身と家族、仲間が笑っていられるように努力するだけだ。
それに、今は茜も支えてくれるだろ?」
俺は茜の目を見ながら笑う。
無理をしているわけじゃない。心からそう思っている。
「うん。私は裕哉を支えたい。裕哉と一緒にいたい。でもね、レイリアさんとティアちゃんと、それからメルさんだったら良いよ」
は?
「前にも言ったことあるけど、あの3人だったら一緒に裕哉を支えていけるから。だから、私に遠慮とか罪悪感とか持たなくてもいいから」
「いやいやいや、茜さん? ちょっと待とうか」
慌てて茜の言葉を止める。
何コレ? どうしてみんな俺にハーレム作らせようとしてるわけ?
神か? 神のせいなのか?
俺が戸惑っていると茜はさらに続ける。
「だいたい、裕哉が3人のことを特別に想ってるのくらい私だって分かってるよ」
「そんなことは、無い、ぞ?」
何故どもる、俺?
「それじゃ想像してみて。レイリアさんが筋骨隆々で厳めしい長身のイケメンと並んで焚き火を見つめているところとか、ティアちゃんが優しそうなイケメン職人と一緒に暮らしてるところとか、メルさんが爽やかなイケメン貴族子息と見つめ合ってるところとか」
なんでそんなに具体的なんだよ!
ちょっと想像しちゃったじゃないか!!
しかも全員イケメンかよ。
「ほら! 面白くなさそうな顔してる!」
そりゃあ、まぁ、面白くはないな。
「いや、それとこれとは、ちょっと違くないか?」
確かにあの3人に対しても独占欲っぽいのがあるのは確かだけど、それって男なら誰でもそうなんじゃ。
「と・に・か・く! そういうことだから! ティアちゃんの告白にもまだ返事してないんでしょ? あれから何ヶ月待たせてるのよ!」
…………そうだった。親父が帰国したり、テロに巻き込まれたりしたせいですっかり忘れてた。
「……真剣に考えて速やかに返事します」
「そうしなさい」
最近、茜にコントロールされてる感がヒシヒシとしてるな。
いや、別に特に不満はないんだが。
どうすりゃ良いんだ?
なんともいえない雰囲気になり、そろそろ帰るかとベンチを立った時、公園に入ってくる気配を感じてそちらを見る。
男が1人、酔っているようで足元がおぼつかない様子だ。
見た目はスキンヘッドで厳つく、ガラの悪そうな感じ。歳は30代くらいだろうか。どうも穏便にはすみそうにないな。
「ああ? こんな時間に公園でカップルかよ。いちゃつきやがって!」
さっそくテンプレな絡みかたをしてくる男。
俺は茜を背後に庇うように男との間に位置どる。別にこの程度の男1人に不安はないが、家の近所で喧嘩なんかしたくはない。
「気に障ったのなら申し訳ありません。俺達はもう帰りますので」
無駄とは思いながらも下手に出てやり過ごそうとする。努力は大切だよね。
「んだぁ? 人の顔見るなり逃げるんか? 気分悪ぃなぁ! しかもカワイイ女連れやがって!」
チッ、面倒だな。
逃げても良いが追いかけてきそうだ。俺1人なら簡単に振り切れるが、茜はそうはいかないだろう。抱えて逃げるか? でもこの近所に住んでるかもしれないし、後から絡まれても厄介だ。
「どいつもこいつも人の顔見れば『怖そう』とか『ヤクザ』とか言って逃げやがる。俺だってなぁ、できることならイケメンに生まれたかったんだよ! この頭だってなぁ、好きで剃ってるんじゃねーんだよ! 25過ぎたら急にてっぺんが薄くなりやがったんだよ! しょーがねーじゃねーか! カッパとかバーコードより全剃りの方がまだマシだろーが!」
は? いや、ここで俺にそんなこと言われても。
「いいか? 覚えとけよ! 男はいつかはハゲるんだ! なのに女はハゲた途端に『詐欺』だの『みっともない』だの言って馬鹿にするんだよ! それになぁ、最近じゃ娘まで『近寄らないで』とか『恥ずかしいから外で話しかけないで』とか言うんだぞ? 家に居場所なんて無いんだぞ!」
男は茜に向かって、というか、女性に対してだろう、叫ぶ。目には涙まで浮かべて。
「兄ちゃん、結婚なんてするもんじゃないぞ。ウチの女房だってなぁ、結婚するまではそりゃ良い女だったんだ。それがヨォ、結婚した途端に『タバコ辞めろ。臭い』とか『稼ぎが悪い』とか『だらしない』とか言いたい放題だ! 騙されるんじゃねーぞ! アイツらはなぁ、男のことを勝手に金を稼いでくるATMとしか考えてないんだ!!」
「そ、そうっすか。大変なんですね」
いかん。切々と訴える男の魂の叫びにこっちまで涙が出そうになる。
「わかってくれるか! アイツらは悪魔だ! 自分は効果があるんだかないんだか分からない化粧品にジャンジャン金をつぎ込むくせに、俺の小遣いなんて月に2万だぞ? 付き合いの飲み代だそうと思ったら昼メシ抜かなきゃならないんだぞ? 俺だってなぁ、頑張って会計事務所で夜遅くまで働いてるんだ! それなのにヨォ」
このオッサン、この見た目で会計事務所勤務かよ。顧客が怯えるんじゃないのか?
「だ、大丈夫っすよ。きっと奥さんだって本当は感謝してると思いますよ」
俺の肩に手を置いて滂沱の涙を流す男を慰める。
「そ、そうか?」
「そうですよ! きっと誰よりも旦那さんのことを思ってますよ。多分」
茜も一緒になって必死に宥める。
「そうかぁ、そうだと良いなぁ。兄ちゃん達、良い奴だな。こんな酔っ払いの愚痴をちゃんと聞いてくれて」
自覚あるんかい!
「と、とにかく、もう帰った方が良いっすよ」
「……帰りたくねぇなぁ。だって帰ったって怒られるだけだしよぉ~」
最初のガラの悪い雰囲気は何処へやら、今や情けない中年おやじと化している酔っ払い男。
とはいえ、このまま捕まってたらきりが無いし、かといって邪険にするには哀れすぎる。
「じゃ、じゃあ、プレゼントとかどうっすか? 奥さんと娘さんに、『ビンゴで当たったから』とか言ってコレでも渡してあげたらちょっとは喜ぶかもしれないっすよ」
そう言って俺は懐に手を入れたと見せかけてアイテムボックスから手作りのネックレスを取り出して渡す。相変わらずのシルバーアクセ。花をモチーフにした販売サイトで人気のシリーズのものだ。
「い、いや、でもそんなのもらうわけには。それに女房になんて言って良いか」
「俺の手作りの安物ですから、景品としてそんなに不自然じゃないと思いますし、いくつか景品はあったけどお前達のために、とか言っておけばいいんじゃないですか?」
「そ、そうか。でも兄ちゃんいいのか?」
なおもためらうオッサンにアクセを押し付け、(あ、安物だけどちゃんとケースには入ってるよ)背中を押して帰宅を促す。
嬉しそうな千鳥足でオッサンは公園を出て行った。
これで良い。のか?
まぁ、大丈夫だろう。あの程度のものなら変な誤解されることもなかろう。
なんとも予想外の結末に落ち着いたもんだ。
俺は茜と顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。
「え、えっと、わ、私は裕哉がハゲても大丈夫だよ! そ、それに、ハゲるのは男性ホルモンが多いからだって聞いたし、その、あっちのほうが強くなるとか、その、えっと」
「頼むからハゲる前提で話すのはやめてくれ!」
大丈夫だよな? 今のところ親父もハゲてないし……。
「稼ぎも、私だって働くから、大丈夫だし」
「ちょ、ちょっと感化されすぎだって!」
確かに身につまされるものがあったけど、そんな心配はしていないから! ……多分……大丈夫。だよな?
なんとも微妙な空気をオッサンが残しつつ、茜を家まで送って行った。
ちなみに、茜の家に着いた途端に親父さんに襲撃されたが、いつものことなので割愛する。
本日も読んで下さってありがとうございました。
先週の予告通り、今週もキャララフ画像を活動報告で公開しました。
今回はレイリアとティアです。
それと、双葉社モンスター文庫の新刊案内で書籍版の表紙が公開されました。
アドレスは http://www.futabasha.co.jp/monster/
です。是非ともご覧になって下さいませw