第68話 勇者はヒーロー! Ⅷ
前回ブクマが伸び悩んでいると書いたら、多くの方から気にしない方が良いと励まして頂きました。
右肩上がりで伸び続ける何て事が無いのは判っているんですよ。
書き始めた頃からブクマが増えたら喜んで減ったら凹んで、どれだけ増えてもあんまりその辺は変わりませんw
少しでも皆さんに楽しんで頂けるよう今後も頑張って書き続けます。
メッセージ下さった読者様に大いなる感謝を。
爆発まであと15秒。
「間に合わないかもしれない! 下がれ!」
俺は慌ててバイヤーさんを下がらせる。
同時に液体窒素の生成と周囲に障壁を展開する。
それでもこのまま爆発したら船体に穴が開くだろう。
だったら!!
爆弾を船体から強引に引きはがす。
振動センサーとやらが付いているかもしれないがどっちにしてもこのままじゃ間に合わない。
引きはがした爆弾を生成して球状に浮かんでいる液体窒素の固まりに突っ込み腕ごと障壁で覆う。
そして次の瞬間、
ドゥン!!
凄まじい爆発音と圧力が障壁を吹き飛ばそうとするが俺は更に障壁を重ね掛けすることで押さえつける。
「っつぅ!」
痛い! すっげぇ痛い!
時間が無くて爆弾持った腕ごと障壁で覆ったから爆発の衝撃をまともに食らった腕はボロボロだ。
アラミド繊維製のグローブも所々が破れ、手は……骨全部折れてら……
幸い千切れたりはしていない。けど、痛いものは痛い!
俺じゃなければ間違いなく腕ごと消し飛んでいるだろう。
常に最低限とはいえ身体に障壁を纏わせ、更に魔力で強化された身体を持ってしてもこの様だ。
『治癒魔法』で治しつつ痛みを堪えて他に影響がないか周囲を確認する。
「大丈夫か?!」
バイヤーさんが走り寄ってくる。
「ああ。何とか、な」
「し、しかし手が、手、が?」
そう言っている目の前で見る見る直っていく俺の手。
我ながら気持ち悪いな、コレ。
逆回しの映像を見ているようだ。
「取りあえず何とかなったな」
「……ふぅ、なんと言って良いかわからんよ。だが他に爆発音は聞こえないから爆弾はもう大丈夫だろう」
「そうか、それじゃ、ん?」
Pirrrrr!
突然耳元から電子音が聞こえてきた。
これは、そう言えば斎藤の奴がマスクに通信機組み込んだとか言ってたっけ。
耳元をさわるとボタンっぽいのがあったので押す。
「れで良いのか? よくわからんのぅ……あーあー」
「レイリアか?」
「おお! 主殿の声が聞こえる!」
「俺だよ。どうしたんだ?」
バイヤーさんに聞こえないように小声で応答する。
「うむ。細かなのが片付いたのでな。後はこの船の甲板らしいところだけじゃが、どうしようかと思っての」
「そうか、何人片付けた?」
「そうじゃの……22、いや23人じゃな。何やら船員と警備員のような服を着た者も攻撃してきたのでそれも含めてじゃが」
船員に紛れてたのも片付けたのか。となると……あと16人か。それに船員の協力者も残ってるかもしれない、と。
「バイヤーさん。船内の方は粗方排除が終わったようだ。その他の状況は確認できるか?」
「ちょっと待ってくれ。確認する」
そう言って無線機で警備員室と遣り取りをする。
「わかった。クロノス、ノーランが確認したところだと残りのテロリストは全て甲板だ。船首に5人、船尾にあるヘリポートに6人、残りは甲板通路だ」
その言葉に頷き、レイリアに指示を出す。
「後は俺がやるから皆の所に戻っていてくれ。片付き次第『転移』で戻るから」
「うむ、承知した。主殿の事じゃから大丈夫だとは思うが最後まで気を抜かぬようにな。それと、終わったら我をしっかりと労うのじゃ」
最後にしっかりと自分の要求を組み込んでレイリアの通信が切れる。
ヤレヤレ。
バイヤーさんの案内に従い甲板を目指す。
時折警備員室とやりとりしてテロリストの配置に変更がない事を確認しておくのを忘れない。
そしてようやく辿り着いた船尾側の甲板入口。
この先は緊急用のヘリポートになっているらしい。
微かに聞こえるヘリコプターの音と散発的に銃声が響く。
日本の警察のヘリが近くに来ているのか。そしてそれを近寄らせないように牽制しているってところだろうか。
「警察のヘリが来ているみたいだ。とにかく周辺を片付けてヘリを着陸させるか」
「それが良いだろう。事情は私が説明しよう」
そうと決まれば。
扉を開けると強い風が吹き抜けている。
構わず突入。
手近にいた男を蹴り飛ばす。
「な?!」
驚く男達。
拘束するのも面倒だし、どうやら周辺は海上保安庁の船が囲んでいるっぽい。
ならコイツらの処理はそっちに回そう。
そこまで考えて俺は動きが止まっている男の胸ぐらを掴んで思いっきり外側に向けて放り投げる。
投げられた男は放物線を描き、真っ暗な船の外側に消えていった。
あれだけ飛べば途中で引っかかることも無いだろう。
同じように次々と掴んでは放り投げる。
海面までは多分高さ50メートルくらいありそうだけど死にゃしないだろう。
50メートル超えると水面ってコンクリと同じ堅さになるとか聞いたことあるけど、アレは嘘らしいし大丈夫だろ。うん。
時折飛んでくる弾丸を避けたり弾いたりしつつ通路側から来た応援も残らず海に放り投げるまで凡そ3分。
カップラーメンと同程度の気楽さで片付け完了。
扉の向こう側で様子を伺っていたバイヤーさんに頷いて合図を送り船首側に足を向ける。
こちらはバイヤーさんに任せた方が良いだろう。
その間に船首側の残りをやってしまうことにする。
そしてその2分後清掃完了。
船の下を覗き込んでみると巡視船っぽいのが慌ただしく動き回っているのがみえた。
テロリストの回収をしてるんだろう。
あ、そういえば船員服着てたのも1人一緒に放り投げたんだが大丈夫だろうか?
まぁ状況は操舵室から伝わってるはずだからお巡りさんも気を付けるだろう。
そんなことを考えつつヘリポートまで戻る。
ヘリポートには人員輸送用なのかプロペラが前後に付いている大きめのへりがすでに着陸? 着艦? して中からSATっぽい制服を着た人達が降りてきている。
よく見ると以前見たSATとは違うみたい。海上保安庁の特殊部隊って確かSSTとか言ったっけ? 多分ソレだろう。
その中の1人がバイヤーさんと話している。
「動くな! 両手を挙げて膝を付け!!」
暢気に見てたら数人のSST隊員達に小銃を突きつけられた。
さて、どうしようか。
『ストップ! 彼はテロリスト制圧の協力者だ!』
バイヤーさんが慌てたように声を出す。
その言葉に戸惑う隊員達。
……以前もこんな感じだったっけ? 何かデジャビュ。
先程バイヤーさんと話をしていた隊員さんがこちらに歩いてくる。
「私は海上保安庁特殊警備隊隊長の望月だ。失礼だが名前と身分を教えてもらいたい」
丁寧な口調ながら有無を言わさない眼光。
あ~、以前に会ったSATの隊長さんより迫力あるわ。
「申し訳ないが何も答えられない。偶々テロを聞きつけたので乗り込んで対処しただけだ。勿論テロリストとは何の関わりもない」
「……それを簡単に信じることは出来ない。だがテロリスト逮捕に協力したことは確認した。貴方の権利と要望は尊重すると約束する。我々と同行頂きたい」
尊重って言ってもなぁ。
そんな何の保証もない言葉言われても意味無いし、付き合うつもりもない。
俺の雰囲気から察したのか周囲を囲んだ隊員が銃を構える。
「銃は下げろ。……一つ尋ねるが、昨年6月の美術館襲撃事件でテロリストを相手に戦った仮○ライダーは君か?」
突然隊長さんがそんなことを聞いてきた。
「ナ、なンにょことかナ?」
いかん! 声が裏返った上に噛んだ!
コレじゃバレバレじゃん!!
「と、とにかくまずはコレを渡しておく」
そう言って回収した爆弾を取りだす。
途端に緊張が走る隊員さん達。
「……船長から聞いている。起爆しないだろうな?」
「今は液体窒素で凍らせてある。しばらくは持つはずだ。生憎解体が出来るようなスキルは持ってないのでな」
差し出した爆弾に誰も手を伸ばしてくれないので仕方なく足下に置く。
これで俺がするべき事は終わりだろう。
説明とかテロリストが拘束されている場所とか船員の協力者とかはバイヤーさんに任せよう。
これ以上ここにいるとボロが出るかもしれないのでさっさと退散することにしよう。
「後のことは任せる。一応聞きだした人数の排除は済んでいるが慎重にお願いしたいものだな」
「待て! どうするつもりだ!」
隊長さんの言葉には答えず『転移』の魔法を発動させる。
一瞬後にはレストランの中に俺は居た。
「柏木君?!」
斎藤の驚いた声に構わず転移の宝玉を取り出して着替えのために異世界に移動する。
とにかく一刻も早くこのコスチュームから解放されたい。
幸いにも今回は誰にも見つかることなく着替えることが出来た。
……というか多分今頃エリスさんは喜々としてメルに話をしていることだろう。
しかも然も思わせぶりに、誤解を招くように誘導して……
落ち込みながらレストランに戻る。
座っていた椅子に腰掛けると大きく溜息を吐く。
「はぁ~~~……疲れた」
「お疲れ様でした。お怪我はありませんか?」
「お疲れ様じゃな。もっとも疲れているのは別の原因のようじゃが」
ティアとレイリアがそれぞれ労ってくれる、のか?
「それで、シージャックはどうなったんだ?」
「ああ、全部制圧した。ついさっき海上保安庁の特殊部隊がヘリで到着したから直に船も港に戻るんじゃないか?」
親父の質問に背もたれに身を預けながら答える。
「裕哉、お疲れ様。何て言ったら良いのか判らないけど、無事に戻って来てくれて良かったわ」
「兄ぃなら大丈夫」
母さんと亜由美。
とはいえ結構やばかったのは事実。
特に爆弾は焦った。もう二度と御免被りたい。
「何にしてもここも元に戻さないと不味いだろう。レイリアさ、いや、レイリア、お願いできるかい?」
「うむ。そうじゃの。では闇と睡眠を解除するぞ」
レイリアがそう応じると直ぐに周囲を覆っていた闇が消えてレストラン内に明るさが戻る。
眠り込んでいる店員や客達も程なく目覚めるだろう。
さて、それじゃ俺もやるべき事をやるか。
そう思いもたれていた椅子から立ち上がる。
「はぁ、折角柏木君がヒーローになって戦うところが見られたのに途中で帰されちゃうし写真も撮れなかったし……」
ぶつぶつと何やら言っている斎藤に近づく。
「?? 柏木君どうし、痛たたたたたぁ! 割れる! 頭が割れるから!!」
おもむろに斎藤の顔面を掴み力を込める。
お馴染み昭和の名レスラーフリッツ・フォン・エリックの必殺技アイアンクロー。
といっても単に掴んで握るってだけの技だけどな。
ひとしきり食らわせてから解放する。
「何するんだよ~、酷いじゃないか」
「やかましい! 人が黙ってりゃ変な名前付けやがって!」
斎藤の抗議を切って捨てる。
「えっと、魔道王クロノスは気に入らなかった? やっぱり魔法刑事メイジマンのほうが、って、痛い痛い痛い! ミシッっていった、ミシッっていった!」
「そ・お・ゆ・う・事、言ってんじゃねーんだよ!」
再度斎藤の顔面を締め上げる。
大体何でもう一つの候補が微妙にタイム○カンシリーズ寄りなんだよ!
「八つ当たりは良くないぞ? 魔道王クロノス君?」
ピクッ
親父から掛けられた声に固まる。
ギギギギ
ぎこちなく振り返る。
実に嫌らしい顔でニヤニヤ笑っていやがる。
迂闊だった。先に斎藤を帰せばそりゃ奴が言いまくるに決まってる。
ということは、ここにいる全員があの恥ずかしい名前を知っているということで。
チラリ
母さんを見る。
スッと目を逸らされる。肩が微かに震えている。
亜由美を見る。
お腹を押さえて机に突っ伏している。
ティアとレイリアは何故か目をキラキラさせているが、何でだ?
「おのれは何を言いふらしとんじゃ~~~!!!」
「痛い! 柏木君、髪毟るのやめて~!!」
「……う、うん? なんだ?」
「何があったの?」
騒いだせいで周囲にいる客達の目が覚めたりしているようだがそれどころじゃない。
俺の平穏な生活が今最大のピンチを迎えている。